子どもの記憶力は生まれつきのもの? 「見守る」子育て(3)

#育児・子育て   

「子どもには少しでもいい人生を歩んでほしい」と、親であれば誰しも願うもの。
先の見えない時代を切り拓く子どもたちが、幸せを掴むために必要なのは、自分への理解に基づいた判断基準、すなわち自分軸です。
30年間教育に携わる教育家であり、「見守る子育て研究所」所長の小川大介氏による2021年1月刊行の新刊『自分で学べる子の親がやっている「見守る」子育て』から、自分軸を伸ばす子育てのコツをピックアップしてご紹介します。

※本作品は小川 大介著の書籍『自分で学べる子の親がやっている「見守る」子育て』から一部抜粋・編集した連載です

「覚える力」は遊びと親子の会話で育てる

「覚える力」に関して、「成長すれば普通に(自動的に)覚えられるようになる」という誤解をしている親御さんが非常に多くいらっしゃいます。
こういう勘違いがあるため、「うちの子は記憶力が弱いんです」「覚えようとしません」と、子どもに原因があるような言い方をされることが少なくありません。

大切なことですが、「覚える力」は生まれつきのものではなく、大人たちの適切な関わりで育てていく力だということを頭に置いておきましょう。覚えることが苦手なままで小学校高学年、中学生になっている子はものすごくたくさんいますが、彼らはみな「覚える力を育ててもらえなかった」子たちです。

もちろんある程度は、生まれ持った特性として記憶の得意、不得意はあります。ですが、生まれつきの特性よりも、育ち方のほうが大きいのです。

「覚える力は育ち方が大きい」と言われて、「え、親が頑張れってこと?」と身構えた方もいらっしゃるかもしれません。そこは安心してください。子ども同士で遊んでいるだけでも、記憶力を使うシーンは案外たくさんあるのです。
たとえばかくれんぼなら、「あの子は昨日あのベンチの後ろに隠れていたから、今日もそこにいそうだな」と考えるとき、すでに記憶力を使っています。
カードゲームもそうです。相手が出したカードを覚えて戦略を練ったりします。神経衰弱などはまさしく記憶力がものを言うゲームですね。
ブロックを完成図に従って組み立てているときも、手元にある作成途中のものと、記憶の中の完成イメージを比べています。

つまり、いろいろな遊びをする中で、子どもたちは記憶力を使っているのです。

また、会話をするときにも記憶力を使います。親子で去年の夏休みに行った旅行の話をしたり、先週あった面白い出来事の話をしたりするには、記憶力が必要です。
脳の中の記憶を一時的に置いておく場所をワーキングメモリーと言いますが、遊びや親子の会話、(もちろん)勉強など、ワーキングメモリーを使う機会を数多く持つほどに、記憶力の土台が育っていきます。

与えられたものをこなすだけでは記憶力が育たない

一方、幼いときから習い事や勉強などを頑張らせてきたはずなのに、「うちの子は記憶力が弱いんです」と悩む親御さんは少なくありません。なぜそんなことが起きるのかというと、与えることに偏っていて、「覚える回路」を十分に使わせてあげなかったためです。
やるべきことがすべてお膳立てされていたり、親子で外出してもあとでそのときのことを思い出すような会話がなかったりすると、子どもは「覚える」ということの必要性を感じなくなります。「与えられたものをこなすだけ」の状態です。

幼いころに「ただ反応するだけ」「ただ眺めるだけ」という体験を重ねると、子どもは覚える回路の使い方がわからないまま成長してしまいかねません。ところが親のほうは、あれやこれやと取り組ませているので、「覚える力も育っているはず」と思い込んで、問題に気づくのが遅れるのですね。
ですから、お子さんが記憶力の育つ生活を送れているかどうかは一度点検したほうがいいでしょう。さらに大切なことは、「覚え方のコツ」を幼少期から徐々に教えていってあげるということです。一時的に覚える力(ワーキングメモリーを使う力)に加え、「覚え方」を知ることで、使える記憶へと導けます。

「覚え方のコツ」とは?

ところで「覚えた」と言えるのはどういう状態なのかご存じですか?
実は記憶には3つのステップがあるのです。

①「記銘」(覚える)……今見たもの聞いたものを自分の頭の中に取り込むこと
②「保持」(覚えている)……取り込んだものを頭の中に留めておくこと
③「想起」(思い出せる)……保持していた記憶を必要なときに取り出せること

暗記が苦手な子の多くは、①だけを行って「覚えた!」と言います。しかし、刺激を取り込んだだけでは、少し時間が経てばその情報はすぐに消えてしまいます。これが「覚えたはずなのに……」のメカニズムです。②→③と進めて初めて「使える記憶」に至るのですね。
②「保持」するために有効なのは「繰り返す」ことです。消えてしまう前に復習して、脳に刻むことが大切。その日のうちに、3日後に、1週間後に、3週間後に、といったサイクルでこまめに見返すようにすると、効率よく刻み込めます。
そして、③「想起」すること。思い出す機会を意識的に持つことで、頭の中に刻み込んだ記憶を素早く取り出せるようにします。ここまで来ると、「問題を見たらすぐに答えを思い出せる」状態となり、「あの子は記憶力がいいね」と言われるわけです。

つまり、暗記・記憶というのは、振り返って思い出す作業とワンセットだということです。これが「覚え方のコツ」です。「よく覚えている人」というのは、「よく記憶を引っ張り出そうとしている人」なのです。

【まとめ】何かを覚えるときの3つのステップ

記憶には、①「記銘」②「保持」③「想起」のステップがあり、子どもは大人との関わりの中で「覚える力」を育てていく

著=小川 大介「自分で学べる子の親がやっている「見守る」子育て」(KADOKAWA)

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Information


小川大介
教育家。中学受験情報局『かしこい塾の使い方』主任相談員。
京都大学法学部卒業後、コーチング主体の中学受験専門プロ個別塾を創設。子どもそれぞれの持ち味を瞬時に見抜き、本人の強みを生かして短期間の成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。個別面談の実施数は6000回を数え、受験学習はもとより、幼児低学年からの能力育成や親子関係の築き方指導に定評がある。各メディアでも活躍。著書多数。
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