がんばってもうまくいかず自信喪失の娘。親としてどう声をかけたらいい?【小川大介先生の子育てよろず相談室】

#育児・子育て   

2021年1月発売の書籍『自分で学べる子の親がやっている「見守る」子育て 』の著者、小川大介先生が、悩める親たちにアドバイス。「うちの子のこんなところが心配」「私の接し方、コレでいいの?」など、子育てに関するありとあらゆる悩みにお答えします。連載第95回のお悩みはこちら。

【お悩み】

小4の娘がいます。小2の夏に偶然受けたオーディションに通り、とある劇団の劇に出演しました。全くの未経験で、今思うとなぜ素人の娘が受かったのか全くわからないのですが、そこで演劇が大好きになり、本格的に芝居や歌、ダンスを習い始めました。その後もいくつかの舞台に出演させてもらったのですが、最近は立て続けにオーディションに落選。かなり気持ちが落ち込んでしまい、「もうやめる」「私はデブだから」など、自分の容姿を含めネガティブで自暴自棄な言動を繰り返すようになりました。でもやはり演劇が好きな気持ちは変わらないようで、翌日には「やっぱりがんばる」と言ってレッスンを受けている状況です。

そもそも数百・数千人が集まるようなオーディションで、合格者は数人という狭き門なので、そんなに思い詰めずに気楽に挑戦すればよいと思うのですが、元来の真面目な性格が災いしてか、崖っぷちのシビアな闘いのように自分を追い込んでしまっているようです。立て続けにオーディションに落ちてすっかり自信喪失している娘に対し、親としてどう接してよいかがわからず、腫れ物に触るような感じになっています。

「がんばってきたことは無駄にはならないんだよ」と諭しても、本人にはなかなか入っていきません。他にも空手や絵を習っているのですが、空手なら昇級審査に受かったり、絵なら学校で褒められて教室に飾られたりなど、やはりがんばったことに対して一定の成果を得られることに喜びを感じる傾向が強いようです。子どもが一生懸命力を尽くし目指してきたものが、残念な結果に終わった時の親の接し方というか、フォローの仕方についてアドバイスいただきたいです。(Kさん・38歳)

【小川先生の回答】

オーディションは勝ち負けではない

仕事上、子役養成所のアドバイザーをしたりもする関係で、オーディションをする側の人と話す機会が多いのですが、皆が総じて言うのは「上手にできる子は求めていない」ということ。「大切なのは『あなたという人はどんな人か』ということが伝わってくる子。かつ選びたい役と重なる子を選ぶだけで、優れた子を選んでいるわけではない」ということを言われます。つまり、オーディションというのは勝ち負けではなく、順位を決めているわけでもないということです。その大前提を大人たちがちゃんと本人に教えているのかというところが、まず気になりました。優れていないから落ちるのではなくて、今回の配役とは「合ってなかった」というただそれだけの話。そこのところを少なくとも本人は誤解しているような気がします。「素人」とおっしゃる娘さんがいきなりオーディションに合格したのだって、まさしく「合っていた」からではないでしょうか。

「自分はこういう人」という自分軸の再発見を

レッスンを重ねたことで、歌もダンスも演技も、技術的には間違いなく上手になっているはずです。でも一番大事なのは「自分はこういう人なんだ」という自分軸。本人なりの強みや特徴、得意なことを見つけ、「自分らしくいる」ことができて初めて、「演ずる」という表現もできるようになります。思うに、娘さんは今、自分を見失っている状態。オーディションを受け続けていく中で、自分自身がつかめなくなっていることが、自暴自棄な言動にもつながっているのだと思います。そうであれば、「自分がどういう人か」を再発見するお手伝いをしてあげるのがよさそうです。親子一緒にこれまでを振り返り、得意なことや努力してきたこと、何をしている時が楽しいのか、楽しい時はどんな表情をするのかなど、「あなたという人の話」を改めてしてみましょう。また、レッスンの先生たちに「この子はどういう子なのか」を聞いてみるのもいいでしょう。主観的にも客観的にも自分を掘り起こしていくことで、本人が自分自身を取り戻していけると思います。

子どものポジティブな魅力を言葉にして伝える

また、演技などに取り組むことで、人間的成長をしていることは間違いないので、お子さんがどういう成長をしているのかを言葉で教えてあげることも意識的に増やしていきましょう。本人はがんばり屋さんだからこそ、がんばった証が欲しくて、成果や表彰など目に見えるものを求めたがるのだと思います。それで、オーディションの結果のみにこだわってしまうのでしょうが、本当に大切なのは、今までやってきたことを通した本人の成長です。「そこに気づけるのはさすがだね」と観察力を褒めてみるなど、取り組んでいることがちゃんと形になっているということを、日頃から言葉にして伝えてあげましょう。

同時に、「できた、できない」など成果的なものが伴わない本人自身の魅力についても、家庭の会話の中で意識的に増やしたいですね。「優しいね」とか、「自分からいろいろ働きかけられるのってすごいね」など、あなたという人の価値をさまざまな面からも渡してあげることです。がんばって成果が出ることも素晴らしいけど、何をするわけでもなくそこにいるだけで素晴らしいということも、親として届け続けてあげてください。

本人が聞き入れやすいタイミングにIメッセージで伝える

今までも「やってきたことは無駄にはならない」など話されているようですが、本人に入っていかないのは、タイミングの問題もあるように思います。例えば、オーディションに落ちて頑なになっている時は入りにくくても、お風呂でリラックスしている時なら聞けるということも。本人が聞き入れやすいタイミングをはかってあげるのもコツです。

また、「あなたはこう感じたらいいんだよ」と諭すのではなく、「私はこう感じてるよ」という親のIメッセージで伝えるようにすることもポイント。「あなたのこういうところが大好きだよ」「あなたがどう感じようと、ママはあなたのことをすごいと思っているからね」というように、本人がどう聞こうが、私はそう思っているというのを伝えていくほうが、本人の胸の中には残ります。

親はゆったり構えて、子どもの言葉に過剰に反応しない

そのうえで、思い通りにオーディションにパスしなかったという本人にとってのショックな出来事についても、本人がどのように捉えているのか聞いてあげましょう。腫れ物に触るような態度は、本人の中で捉え方が固まってしまいます。辛い出来事を通して、どんなことを思ったのか、どういう心の動きをしたのかなどを一緒に振り返り、少しずつ吐き出させてあげたほうが、後にも繋がるはずです。

「自分がダメだから」「デブだから」など、子どもゆえに解釈の仕方が飛躍することもあるでしょうが、それは本人がもがいている証拠。なんとか自分で理解しようとがんばっているのです。なのでそこは、子どもの言葉ひとつに過剰に反応するのではなく、「うまくいかなくて悔しかったんだね」「これだけやっても選ばれないということで寂しくなったよね」など、本人なりの感じ取りを大人の言葉として説明してあげることが必要です。そうすることで、自分の気持ちを理解するようにさせてあげ、消化させてあげましょう。

子どもの悲観的な言葉に親が一緒になって弱ってしまうと、本人はますます自信を失くしてしまいます。本人が「嫌だ」とか「もう自信ない」とか言っても、「ママはあなたに自信を持ってるけどね」という空気感が伝わったほうが、本人も救われる気がします。親は同調せずにドンと構える。「苦しいことがあっても、それを自分なりに受け止めて前に進める子だと信じている」という子どもへの絶対的な信頼を持って接することが、親としてのがんばりどころでしょう。そのためには、日頃から夫婦で「あの子がんばってるよね」という会話を十分しておくことも大事。「こんなにがんばれる子なんだから大丈夫」と子どもを心から信頼し、親のほうがゆったりと自信を持って接することが、本人の自信にも繋がると思います。

回答者Profile

小川大介先生
小川大介

教育家。中学受験情報局『かしこい塾の使い方』主任相談員。

京都大学法学部卒業後、コーチング主体の中学受験専門プロ個別塾を創設。子どもそれぞれの持ち味を瞬時に見抜き、本人の強みを生かして短期間の成績向上を実現する独自ノウハウを確立する。個別面談の実施数は6000回を数え、受験学習はもとより、幼児低学年からの能力育成や親子関係の築き方指導に定評がある。各メディアでも活躍。最新刊は『子どもが笑顔で動き出す 本当に伝わる言葉がけ』(すばる舎)。

小川大介の見守る子育て研究所YouTubeチャンネル公式LINEアカウントでも情報発信中。

文=酒詰明子

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