みそ、酒、しょうゆ、酢、みりん、ヨーグルト、チーズ、かつお節、納豆、茶、漬物、甘酒......私たちの食生活で「おいしさの鍵になるもの」「体に良いといわれるもの」を考えてみると、それらの中には、発酵食品がたくさんありました。1日のうちに発酵食品を食べない日はないほど。また、1食の中で何品も発酵食品が含まれていることがあります。発酵食品は身近で、あって当たり前、種類も大変豊富です。


腐りにくくなる、栄養価が高くなる…みそや納豆など、日本の発酵食品のスゴさを見直そう! 画像(1/4) 腐りにくくなる、栄養価が高くなる…発酵食品はこんなにすごい!

腐りにくくなる、栄養価が高くなる…発酵食品はこんなにすごい!

発酵学の専門家で世界中の発酵食品を食べ歩いてきた小泉武夫先生は、「発酵食品には魅力がたっぷりです」と語ります。人間は長い歴史の中で、さまざまな発酵食品を作り、上手に利用してきました。食品を長く保存できるだけではなく、体調を整える力を有し、また食材によっては強烈な香りと味が人を引きつけ、記憶に残り、愛着を持たせます。


「発酵は微生物によって行われます。みそやしょうゆ、日本酒はカビ菌の一種の麹菌が作り、酢は酢酸(さくさん)菌、ヨーグルトは乳酸菌が作用してできます。微生物の中でも、人間の体にいいものを作ったり、食品作りなどに有用となる『善玉』グループの微生物の働きを『発酵』といいます」


微生物の中にはもちろん、食べ物の腐敗を引き起こす「悪玉」のものもありますが、人間は長い歴史の中で「善玉」の菌をえり抜いて使い、生活を豊かにしてきたのです。

「牛乳をコップに入れて暖かい場所に放置しておくとしましょう。普通は、空気中の腐敗菌が入り込んで毒性物質が作られます。やがて汚染が広がって腐り、悪臭がして、人間が飲めば嘔吐や下痢などが起こります。けれど乳酸菌の力でヨーグルトになっていれば、腐敗菌は侵入しにくいのです。発酵がある程度進むと、他の菌の繁殖が抑えられるため、発酵食品は長期間の保存が可能なのです」


ご飯と米麹で作る「甘酒」を例に見てみましょう。「麹のやわらかい香りと上品な甘さの甘酒は、私は『飲む点滴』と考えています。発酵が進む過程で、ご飯は消化しやすいブドウ糖に分解されます。ご飯にはなかった、ビタミンやアミノ酸も生成される。甘酒には全てのビタミンとアミノ酸が含まれ点滴の成分と似ています。体に悪いものは一切入っていない究極の自然食品で、疲労回復に良い食べ物です」


 

「発酵」4つの特徴とは?

1. 食品の長期保存ができ、腐りにくくなる

微生物の世界では、ある菌が一定の範囲広がると、他の菌の侵入を許さないという性質があります。発酵は腐敗菌の侵入を防ぐので腐りにくくなり、食品の長期保存が可能になります。


2. 栄養価が高くなる、滋養の宝庫

発酵により栄養価が高くなります。炭水化物やたんぱく質が分解される過程で、微生物がビタミンやアミノ酸を作り、滋養のある食品ができます。


3. 独特の味と香りがする

パンを焼いたときの食欲を刺激するふくよかな香り、大吟醸酒のフルーティーな香りなど、発酵によって食品の味わいと香りが豊かになります。時に強烈な香りがクセになることも。


4. 究極の自然食品である

発酵することによって、自然の素材にうまみが加わる。複雑な味と香りがする、素材以上の食品ができあがります。



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「日本で発酵食品が発展したのは、水が豊かな土地であることの影響が大きいでしょう。海に囲まれ、陸の中央には山を頂く"馬の背"の地形によって伏流水が豊富です。平地には田んぼが広がる稲作文化で、コメからは、みそ、しょうゆ、酒、米酢、米焼酎など何種類もの発酵食品が作られます」


小泉先生によると、日本は世界で最も発酵食品の種類が多岐にわたっているそうです。北海道の海産物を使った松前漬け、北日本のハタハタずし、東京のべったら漬け、滋賀県の鮒(ふな)ずし、奈良県の奈良漬け、岡山県のママカリ酢漬け、鹿児島は薩摩大根の山川(やまがわ)漬けなど......。大根の漬物だけでも種類、発酵食品全体では600種類以上といわれています。


「和食が体にいいことはよく知られています。『一汁三菜』のうち、汁はみそ汁とご飯、そして三菜のうちの一品は香の物。これだけでも二種類の発酵食品を食べることになり、納豆を加えれば三種類になります。鮭の麹漬けなどを食べれば、全ての品が発酵食品になることも。


みそ汁は塩分の量が気になる人もいると思いますが、みそには血圧の上昇を抑制する効果もあります。がんを予防する作用など、優れた機能があり、健康長寿のためにもみそはおすすめです」


みそは、大豆と麹に塩を入れて発酵させたもの。調味料として料理の味付けに使ったり、そのまま食材につけて食べたり、汁にしたり、食材をみそ漬けにして保存に利用することもできます。大豆に含まれるたんぱく質は16~17%と高く、豆みそで18%ほど(和牛で17~18%)。


みそは昔から日本人にとって貴重なたんぱく源でした。発酵によって栄養価が高まることは前述の通りですが、他に(1)血圧上昇の抑制 (2)放射線からの防御 (3)抗腫瘍性 (4)抗変異原性 (5)抗酸化 の作用があることが分かっています。


「ご飯とみそ汁の組み合わせは言うまでもなく、みそは何に合わせてもおいしいですね。魚や肉にも合います。私はみそ汁にぶつ切りにしたさんまを入れるのが大好きです。まぐろやかつおのみそ漬けも。豚ロースのみそ漬けは、脂が少し焦げるくらいに焼くとたまりませんね」


 

昆布のみそ漬けでご飯が進む

小泉先生は福島県の造り酒屋に生まれ、幼い頃から発酵食品が身近にありました。思い出深い味は「乾板(かしいた)のみそ漬け」です。


「『乾板』とは昆布の異名なんです。酒を造る杜氏さんが、自分たちが食べるみそを桶に仕込んで地元へ帰っていくのですが、父は北海道の日高から乾板を取り寄せておいて、発酵したみその中に突き刺すんです。乾板は幅7cm、長さ1mほどのものを50~60本。それを杜氏さんが戻る前に引き抜いてしまうんですけどね(笑)。引き抜くのは子どもだった私の役目でした。数カ月たって、硬かった昆布が柔らかくなり、べっ甲色に光って美しい。それを帯のように畳んで、せん切りにして、ご飯の上にたっぷりとのせる。みそには昆布のうま味が移り、昆布にはみそのうま味が染み込んでいますからね。昆布にはぬめりも出て、それだけで何杯でもご飯が進みます」


伝統の中、家庭の中に、まだまだ知られていないおいしい発酵食品が隠れていそうです。「奥が深い発酵食品の世界で、まだまだ新しいおいしさに出合うのを楽しみにしています」


  


小泉流 超カンタン発酵ごはんレシピ


腐りにくくなる、栄養価が高くなる…みそや納豆など、日本の発酵食品のスゴさを見直そう! 画像(6/4) 焼き納豆丼

「焼き納豆丼」

香ばしい焼き納豆の香りが食欲をそそります。


1人分 550kcal

塩分 1.1g


<材料(1人分)>

納豆...1パック

卵...1個

ご飯...適宜

削り節...適宜

しょうゆ...適宜

サラダ油...大さじ1


<作り方>

1. フライパンにサラダ油をひき、納豆を塊のまま入れ、中央にくぼみを作る。そこに卵を割り入れる。

2. 1にどんぶりを逆さにかぶせて、3分間蒸し焼きにする。

3. どんぶりを取る(熱いので注意)。どんぶりにご飯を7分目ほど入れ、2をのせ、削り節としょうゆをかける。


◎おいしさポイント

納豆と削り節の香ばしさが食欲をそそります。実は削り節もカビで発酵させた発酵食品なのです。たんぱく質たっぷりで腹持ちも良いですよ!


 

腐りにくくなる、栄養価が高くなる…みそや納豆など、日本の発酵食品のスゴさを見直そう! 画像(10/4) ネバネバーダ

「ネバネバーダ」

体にいいネバネバするものを、これでもか!とばかりに投入します。


1人分 265kcal

塩分 0.6g


<材料(2~3人分)>

納豆...3パック

卵...3個

山いも...20cm

なめこの缶詰...1缶

オクラ...3本

しょうゆ...大さじ1/2


<作り方>

1. ボウルに納豆を入れてかき混ぜ、卵を割り入れてよくかき混ぜる。

2. 山いもをすりおろして、1に入れる。なめこの缶詰は汁ごと1に入れる。オクラをさっとゆでて、みじん切りにして1に入れる。

3. 2にしょうゆを入れ、かき混ぜる。


◎おいしさポイント

スプーンですくってそのまま食べても良し、ご飯や冷ややっこにかけても良し。粘り成分が血中の老廃物を排出して、糖の吸収も抑えます。



監修=小泉武夫 文=三村路子

※この記事は『毎日が発見』2018年3月号に掲載の内容です。