45歳で、夫は認知症になった。だんだん別人になっていく家族と、どう向き合う?『夫が私を忘れる日まで』著者に聞きました

#くらし   
生きているのに死んじゃったみたい

「若年性認知症」とは、65歳未満で発症する認知症の総称です。記憶障害だけでなく、性格もだんだん別人のように変わってしまい、症状が進めば家族のことさえ忘れてしまうのだとか。もし、あなたの大切な人が病気によって変わってしまったら…。あなたはどう向き合いますか?

読む人にそんな問いを投げかけているのが、吉田いらこさん作の『夫が私を忘れる日まで』。ご自身も、お父様が脳の病気によって記憶力に障害が残り、性格も変わってしまったという経験をされている吉田さん。誰にでも起こりうることであることを、身をもって知っています。今回は吉田さんに、「若年性認知症」の家族との向き合い方についてお聞きしました。

45歳で、若年性認知症と診断された夫

なんてことのない、私たちの日常

45歳の夫・翔太、小学5年生の息子・陽翔と、なんてことのない「普通」の日常を送っていた主人公の彩。ある時から、穏やかで几帳面な性格の翔太が忘れっぽくなってしまったことを感じつつも、疲れのせいだ、気のせいだと、気にも掛けませんでした。

子どもを置いて、ひとりで先に帰ってきた翔太

ところがある日、翔太と陽太の2人で映画を観に出かけたところ、なんと翔太は陽翔を置いて1人で家に帰ってきてしまいます。その出来事をきっかけに病院へ…。

若年性認知症と言っていいと思います

そこで医師から伝えられたのは、「若年性認知症」という残酷な診断…。治療法は確立されておらず、症状が進むと時間や場所の感覚がなくなり、人の顔さえわからなくなる病だといいます。前向きに頑張ろうとする彩ですが、現実は…?


「若年性認知症」と「認知症」の違いとは?

――若年性認知症は、高齢者が患う認知症とは、また違った問題・悩みが出てくると思います。もっとも大変なことは何だと思いますか?

吉田いらこさん:まだ現役で働いている方が多いと思うので、やはり経済的な負担が大きいことでしょうか。また心が成長段階の子どもがいる場合、その子が受けるショックは相当なものだと思うので、子どもに対するケアも必要ではないかと感じています。

元のお父さんに戻るよね?


――家族が、脳の病気によって記憶障害を負ったという経験をお持ちの吉田さん。作中には、ご自身の体験も描かれていますか?

吉田いらこさん:はい。些細な一言で逆上することや、家を出ていってしまうため自宅に内鍵を取り付けたこと、などです。

些細なひと言で逆上するように

逆上については、どの言葉で地雷が発動するのかわからないので最初はビクビクしていました。でも、あまりに回数が多いためそのうち慣れてしまい、怒鳴られても気にならなくなりました。
内鍵を取り付けたのは、父が「家に帰る」と言ってを自宅を出て行ってしまうから。父を閉じ込めている気持ちになりましたし、自宅を認識していないことが家族を否定されているように感じてしまい、悲しかったですね。

――翔太に対して、「変わっていくあなたが怖い」という気持ちを抱いていた彩。お父様の症状を目の当たりにした当時の吉田さんも、同じような気持ちだったのでしょうか。

吉田いらこさん: 私の父の時は、脳の病気で一晩で人が変わったようになってしまいました。当時の私は受け入れることができず、父親と向き合うことを避けてしまったのです。翔太と彩の場合、少しずつ変わっていく恐怖を、きっと本人だけではなく家族も感じるだろうなと思い、そのように表現しました。


大切な人に気持ちを伝える機会になってくれたら…

別に普通でいい、穏やかにこの生活を続けていきたい

――彩は夫の病気を通じて、「普通でいい、穏やかにこの生活を続けていくこと」が人生において大切だと気付きますね。吉田さんが、お父様の闘病を通じて気付いたことは?

吉田いらこさん:いい意味で、諦めることが必要だと思います。
父が病気になったことで、もちろん大変なことは多かったですが、決して苦しい思い出だけではありませんでした。子どものように感情豊かになった父と一緒に大笑いしたり、感動する映画を観て泣いたりすることもありました。現状を変えることができないなら、自分が変わるしかありません。簡単なことではありませんが、自分自身が変わることを恐れなければ、きっとどんな現実も受け止めることができ、前に進めるのではないかなと思います。

――もし今、吉田さんが彩と同じ立場になったら、どう行動されますか?

吉田いらこさん:絶対に、自分一人で頑張ることはしません。ありとあらゆる福祉サービスを調べてプロに頼ります。

大事なことがわかった気がする

――吉田さんが、本作通して読者に伝えたいこと、感じてほしいことは?

吉田いらこさん:この物語はセミフィクションですが、自分の人生に絶対に起こらないとは言い切れないと思います。もしもの時に後悔しないように、大切な人に今の気持ちを伝えてほしいです。「ありがとう」でも「好きだよ」でも何でもいいので、大切に思っていることを伝える機会になってくれたら嬉しいです。

――最後に、読者にメッセージをお願いします。

吉田いらこさん:これからも漫画を描いていきますので、見かけたときは読んでいただけると嬉しいです。

   *      *      *

吉田さんが自身の壮絶な経験を通して、後悔をしながらも過去を受け入れ、前向きなメッセージを発信している『夫が私を忘れる日まで』。こちらの作品との出会いを機に、大切な人に、大切な思いを伝えることを忘れないようにしたいですね。

取材・文=松田支信

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