深夜、右折してきた車と衝突…16歳の弟はバイク事故で身元不明のまま亡くなった。遺族が語る「後悔」とは

#くらし   
 あんなに元気だった弟が冷たくなっていて…

バイク事故や自転車事故という悲しいニュースが絶えない現代。自分とは無関係…と、どこか他人事で聞いている方も多いかもしれませんが、いつどこで家族・そして自分がそのようなことに巻き込まれるのかは誰にもわかりません。

保育士・マンガ家として活動するきむらさんは、ご自身が17歳のころ、バイク事故で突然弟さんを失いました。反対車線から右折してきた車と直進していた弟さんのバイクが衝突したのです。
弟さんの事故のこと、家族の葛藤、そして再生…心の内側をブログで綴ったところ、話題となり書籍化もされたきむらさんに、当時の心境と、いまの思いをうかがいました。

職人気質の父、肝が据わっていてよその子でも平気でしかり飛ばす母、思春期をこじらせて素直になれない姉、そして自由奔放でヤンチャだけど誰からも好かれた弟。
そんな家族の「普通の暮らし」が一瞬にして変わってしまったのは、弟さんの「バイク事故」がきっかけだったといいます。当時高校3年生で思春期真っ最中だったきむらさん。弟さんは若干16歳でした。


突然かかってきた警察からの深夜の電話がはじまりだった

 警察から深夜の電話

深夜にかかってきた「息子さんが事故に遭われまして…」という警察からの電話を受けたきむらさん。きむらさんとご両親は病院で治療を受けていると思い慌てて病院に駆けつけるも、そこには冷たくなった弟さんがいたといいます…。実は、警察が電話してきていた時には亡くなっていたというのです。

 まさかこんなことになるとは

――警察からの突然の電話に驚いたと思うのですが…。

きむらかずよさん警察から深夜1時過ぎに『息子さん(弟さん)が事故に遭われまして、もしかしたら容体が危ないかもしれません』との連絡が入り、父と一緒にすぐに病院に向かいました。仕事をしていた母にもすぐ連絡をして、現地集合することにして。でも、容体が危ないと思っていたのが、実は、警察が電話してきた時にはすでに亡くなっていたことがわかったのです。知らせを受けた時は、全く疑わず生きてると思っていたのに…」

――日常を過ごす中で、まさか弟さんがそのような事故にあい、ご自身が遺族になるとは想像したこともなかったと思います。

きむらかずよさん
「最初はただ茫然とするだけで、ただ周りの大人たちの動きを見ていました。その時の様子はとても鮮明に覚えています。両親がかなり動揺していて、『私がしっかりしなくちゃ』と漠然と思たことだけは覚えています。警察から電話番号を聞かれていた父が動揺が大き過ぎて、電話番号を忘れてしまったくらいでしたから…」

あの時声をかければよかった。同乗していた女の子のこと

 家族が崩れていく…

突然の肉親の死にショックを受ける家族にさらなる追い打ちをかけたのが、弟さんのバイクに同乗していた身元不明の女の子がいるという警察からの情報でした。
事故の日の夜、弟の友達の女の子が家に遊びに来ていたのをきむらさんは知っていました。2人が出ていく時、声をかけぬまま見送ってしまったことを後悔し続けたといいます。

――事故に遭う前、弟さんのお部屋にお友達が来ていて…というエピソードが印象的でした。
きむらかずよさん
「事故の日の夜、弟の部屋には友達の女の子が遊びに来ていて、壁一枚向こうの部屋から楽しそうな声が聞こえていました。2人が私の部屋を通り過ぎていく時、なぜか胸騒ぎがしたんですね。2人に『どこに行くの?』と聞こうと思ったのですが邪魔したら悪いな、と思って声をかけなかったのです。あの時1分1秒でも呼び止めていたら…そのことをずっと後悔しています」


――事故の直前、楽しそうに部屋を出て行ったという弟さん。突然帰ってこなくなる…という残酷な事実を受け入れることなど到底できないと思います。

家族の気持ちはバラバラに…


きむらかずよさん
「自宅に遺体が帰ってきて、それまで気丈に振る舞っていた母が泣き崩れました。その時私は弟のいる部屋に一歩も入ることができませんでした。感情に蓋をしないと自分を保てなくて、涙が全然出なかったんですね…。
初めて涙が出たのは弟をお棺に入れる時でした。体が硬直しているので何人かで力を合わせないと持ち上げられなくて、その時にはじめてただ寝てるだけじゃないんだって。
弟がいなくなって、家がシーンと静かになりました。毎日8時になると来ていた友達も来なくなって、家族1人がいなくなるって、こんなに家の中が変わるのか、と思いました。
でも、亡くなってからも弟が『ただいま』と帰ってくるような気配を何度も感じました。きっとそれは他の家族も同じだったのではないかと思います」

誰よりも私が描くマンガを楽しみにしてくれた弟

――弟さんはどのような方でしたか?

きむらかずよさん
「目立ちたがり屋でやんちゃで、誰とでもすぐに友達になる弟でした。
子どもの頃から、友達のことを悪く言われるのを何より嫌い、私が弟の友達を悪く言ったりすると、すごく怒りました。意外に繊細な部分もあり、布団のずれが気になって布団の端と端にお裁縫をしたりもしてました。全てにおいて真逆だった姉弟だったんです。私が陰で弟が陽のような。
弟はおしゃれ、私は服に無頓着だったので、私の服の着方がずれてたりすると弟が直してくれることもありました。似ているところはお互いが負けず嫌いだったことかもしれません。なので、小さい時は凄まじいケンカをところ構わず繰り広げていました。」

――弟さんを亡くされた経験をマンガで描こうと思ったきっかけはどのようなことでしょうか?
きむらかずよさん

「弟は生前、私がマンガ雑誌のマンガスクールに投稿しているのを知っていて、いつも結果が返って来るのを誰よりも楽しみにしてくれていました。封を開けるのも、弟が先に開けていたくらいです。そして弟によく『お姉、俺をかけ』と言われていたんです。その時は聞き流していたんですよね…。
弟が亡くなってすぐ、まだ家族もみんな沈んでいる時期に、何か自分にできることはないかと考えて『いつか漫画家になって弟のことを描こう』と心に決めました。
そう決めたことが悲しみから立ち直っていくきっかけになったんです。コロナ禍になり、時間の余裕ができたタイミングで、『今しかない!』と描きはじめたのがきっかけです」

もう描けないと思った時支えになったコトバ

――マンガとして描くということは、弟さんの死やそれにまつわる悲しい記憶と向きあうということになると思います。非常につらいことだと思うのですが、どう乗り越えられたのでしょうか?

きむらかずよさん
「弟のことを描くのには迷いはありませんでした。彼との約束だったので。でも、女の子は嫌ではないだろうか。自分だったらどうだろうと何度も考えました。心の中で、女の子に話しかけたことも一度や二度ではありません。描かないでおく方が、私も正直楽でした。身内のことだけあったことだけ淡々とかけばいいので。けれど、女の子はどうなんだろう。悩みに悩んだ末、『忘れること』が1番亡くなった人にとっては悲しいことではないだろうか、とも考えました。
私は、単なる被害者ではない、弟が女の子を乗せてしまった、という十字架をいつも背負って描いていました。
それでもしんどくてかけなかった時、『もしあなたが描かなければ他の誰も描かないことがあって、しかもあなたがそれを描くことに価値を見出しているとすれば、それは絶対に描くべき』という言葉を教えてくださった方がいて、その言葉が非常に励みになりました。その時、自分の感情はいらないと思ったんですね。『自分が描かなければ』と使命感が生まれました」

――作品が完成してまず思ったことはどのようなことでしょうか?

きむらかずよさん
「『いつか弟のことを描くためにマンガ家になろうと思った自分と弟の約束を守ることができた』と思いましたね。始めたブログの片隅で、思いがけずたくさんの人に応援してもらって本当に嬉しかったです」

――交通事故や悲しい事故の報道は日々あります。そういったニュースを目にして思うことはどのようなことでしょうか?

きむらかずよさん
「新聞の片隅に乗用車とバイクの事故の記事を見つけると、胸がギュッとなります。そしてその家族を思います。書籍を出版していただいてからは、事故の後遺症で苦しんでいる方からのお話を聞かせていただくこともあります。そしてその事故によって苦しむ家族も…。事故は当事者だけでなく、まわりも本当に辛いんだということを実感します」

――きむらさんはご家族にどんな時でも必ず「いってらっしゃい」を言うことを大切にされているそうですね。

きむらかずよさん
「弟を亡くして以来、『死』がとても身近なものとして存在しているんです。朝、子どもにいってらっしゃいをするときは、どんなに機嫌が悪くても気持ちよく見送るようにしています。考えたくはないですが、もしかしたらそれが最後になるかもしれないんです。
私の作品を読んだという、お母さんからの感想で、息子さんから『いってらっしゃいって大事なんやな。お母さんがそのまま帰って来なくなったら俺は困る。』と言ってくれた、というコメントが印象的でした。『いってらっしゃい』の大切さの感想をくれた方がとても多く、少しでも自分の経験がお役に立てたのだと感じました」


事故によって突然家族が帰らなくなったら…。そして自分が帰ることができなかったとしたら…。
今ある日常が永遠に続くとは限らないことを思い知らされ、今目の前にある「家族」をしっかりと大切にしていこう、と考えさせられます。

【プロフィール】
きむらかずよ
イラストレーター。小学1年生の時にプレゼントされた漫画『うわさの姫子』に衝撃を受け、漫画やイラストを描くように。現在は3人の子育てをしながら、新米保育士としても奮闘中。交通事故で亡くなった弟のことを綴った「16歳で帰らなくなった弟」が話題に


【文=ryoko yasuda】

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