ヒステリックな母は思い通りにいかないとブチ切れ!「毒親」に苦しんだ田房永子さんが考える子育てのシンプルポリシー

#くらし   
  『母がしんどい』より

2012年3月に発行された田房永子さん著作の実話コミックエッセイ『母がしんどい』は、「毒親」という言葉を広く世に知らしめました。発行から10年以上経った今も、多くの読者から共感を得ています。著者の田房永子さんに、改めて『母がしんどい』に込めた思いや「毒親」「親ガチャ」などの言葉が一般化した現在の状況について、お話を伺いました。

私の親は、私にとって毒になる部分がある

理不尽なことばかり言い、思い通りにならないとすぐにキレる母を恐れるあまり、幼少期から大人になるまで母の指示通りに動く毎日を生きてきたという田房さん。習い事も受験も「あなたのため」と言って強行し、子どもの意向はすべて無視。大人になり、違和感を感じ続けて育った田房さんの心は限界に達したといいます。

  『母がしんどい』より

  『母がしんどい』より

――『母がしんどい』について、読者からの反響にはどんなものがありましたか?

田房永子さん:「私の話かと思いました」という方が多かったです。そういう方がお母さんから言われたことが、一語一句、私も言われていたことと同じだったりするのも興味深かったです。例えば「安心させて」とか「猫かぶっていても幸せになれない」とか。他にも「手に職つけろ」とか母が言う教訓が同じだったりもしました。
そういった話を聞いていくうちに、母世代の女性達が置かれた社会での立場、役割についても興味が出てきました。各家庭・個人の話ではあるけれど、こんなに同じ人がいるなら、社会の話でもあるのではないかという視点です。
母世代の女性は結婚しか生きる道はないとして、専業主婦が当たり前で家事育児介護を押し付けられてきた背景があることを知り、それまでとは別の角度から母への理解を持てたとも思います。

――確かに、社会における女性の立場という側面を考えると、また別の視点で捉えることもできそうですね。2012年に『母がしんどい』が出版されて約10年が経ちますが、その後の「毒親」をめぐる状況について、どのように感じていらっしゃいますか?

田房永子さん:「毒親」という言葉に、私はすごく救われました。「私の親は、私にとって毒になる部分がある」ということを認めていいんだと思えたからです。「親を悪く思ってはいけない」という世間の教えを覆してくれて、親のことが好きになれない自分やそんな自分の人生を堂々と生きていい、と太鼓判を押してくれる言葉でした。
ただ、メディアでは、「毒親予備軍になっていませんか?」とか「子どもから毒親と呼ばれないためには」という親側への懸念フレーズとして使われることが多く、そこには違和感を覚えています。
しかし、7年ほど前にテレビ番組で「毒親」特集をやった時は、「親を悪くいうなんて」という批判がたくさん届きましたが、去年同じ番組で同じ特集をやった時には、そういった批判はあまりなく、親だって子どもに対してひどいことをしてはいけない、という当たり前のことがしっかり定着したことを感じました。

  『母がしんどい』より

――最近では「子は親を選べない」という意味の「親ガチャ」という言葉も広がりを見せています。この言葉について田房さんはどのように捉えていますか?

田房永子さん:私はもう自分自身が親だし、親との関係も自分でなんとか整理できている自覚があるので、使うのを躊躇う言葉です。だけどその言葉で救われる人がいるだろうと思っています。


自分の子育てにおけるシンプルなポリシー


――親が子に与える影響については、どう考えていらっしゃいますか。

田房永子さん:親がどんなに「こうしよう」と気をつけても、その親が持つ性質や個性やクセは、どうしたって日々子どもへあふれ出て、子どもも知らずに吸収するものだと思います。

――『母がしんどい』以降、田房さん自身が親になって気づいたことや、子育てにおいて気をつけていることなどはありますか?

田房永子さん:子どもが生まれた時に決めたのは、「子どもにうそをつかせない」「けなさない、からかわない」「サイズの合った下着を買い与える」という3〜4個のことでした。
私の母は話したいことを私になんでも話してから、「これは学校で言っちゃだめよ」と口外禁止することがとても多かったんです。それによって、バレバレなことも「知らない」と隠さなきゃいけなかったり必然的にうそをつくことになるんですね。子どもに無駄な負担をかけない、という意味で、「子どもにうそをつかせない」というのを決めました。
他の項目も、母を反面教師にしたポリシーです。それを守れているということで自分の子育てに自信が持てたりしました。子どもが大きくなると一筋縄じゃないかないこともたくさん出てきててんやわんやです。でも、自分の決めたシンプルなポリシーを軸にしています。

  『母がしんどい』より

「親と仲良くなる」をゴールにしなくていい


――最後に、親との付き合い方に悩んでいる人、親の呪縛から逃れられずに苦しんでいる人に、メッセージをお願いします。

田房永子さん:私はとにかく、自分の中から出てくる恨みや憎しみを、ダメだと抑えこむのではなく、「そうだよね、ひどかったよね」と味わいつくすようにしました。つらい、しんどい、苦しいのって、親からされたこと自体もそうなんですが、それで感じた自分の感情や体の反応を、自分自身に封じ込められて「ないことにされる」のが一番最も苦しみを感じる状態だと思います。だから自分だけでも、自分のことを理解してあげる、ねぎらってあげる、そういう感じで日々生活すると癒やされていくはずです。
「親と仲良くなる」をゴールにするんじゃなくて、「自分が癒やされて傷を回復する」をゴールにするのがおすすめです。

取材・文=宇都宮薫

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