鼻にフォークを刺され負傷、記憶を一部失うほどの壮絶なDV体験。思いもかけぬトラブルに巻き込まれた時はどう行動すべき?
突然パートナーから暴力を振るわれたら…。
インスタグラムのフォロワー数11万人の前田シェリーかりんこさんが綴った『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』。付き合っていた彼氏が「別れるつもりならここから帰すわけにはいかない」と言いながら、鼻にフォークを刺してきた…という、衝撃の実体験を描いたこのコミックエッセイは「怖いけど続きが気になる」「閲覧注意」「サスペンスだった」と大きな反響を呼んでいます。
重症を負いながらも彼氏の元から逃げ出したかりんこさんの機転や、逃げてきたかりんこさんを部屋に匿ってくれた隣人カップルの勇気ある行動、そして記憶の一部を失ってしまうなど大変な思いをしたかりんこさんを支えてくれた医師など、このエピソードに登場する人々の行動や判断は、私たちに「もし自分や身近な人がこんな状況に陥ったら、どう行動すべきか?」ということを考えさせてくれます。
話題作『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』の詳しいあらすじをご紹介しましょう。
『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』あらすじ
当時つきあっていた彼氏とのちょっとした口論から、突き飛ばされて後頭部を強打し、さらに鼻にフォークを刺されて重症を負ったかりんこさん。たくさんの血が流れているのにも関わらず、救急車を呼ぼうともしない彼氏に命の危険を感じたかりんこさんは、隙を見て部屋を逃げ出します。そして一度だけマンションのエレベーターで一緒になった隣りの部屋の住人に助けを求めて匿ってもらいます。
通報によってやってきた警察官が現れたことで油断した瞬間、興奮した彼氏は隣人の部屋に入り込んでかりんこさんに迫ります。隣人カップルがどうにかかりんこさんの身を守って彼氏を警官に引き渡しましたが、満身創痍で疲労困憊だったかりんこさんはそこで意識を失ってしまいました。
病院で目を覚ましたかりんこさんは、鼻の中と上唇の内側を損傷して、顔全体が腫れていました。手足が痙攣して物を持つことも歩くこともできず、さらに原因不明の記憶障害の状態に陥っていました。彼氏に刺されたことは覚えているものの、彼氏に関連する記憶の一部だけが失われていて、事件に関する話をすると吐き気を催すようになっていました……。
壮絶なDVによる心身のダメージで、手足も思うように動かせず、記憶の一部を失ってしまったかりんこさん。後にあるきっかけで記憶は取り戻すのですが、そこから警察の事情聴取や加害者親族との面会など、さらに不穏な事態に巻き込まれていくのでした……。
思いもよらぬトラブルに巻き込まれた時、また大きなショックを受ける事件が起こった場合など、人は冷静な判断が難しい状態に陥ってしまう場合があります。こんな時にどう対応したらいいのか、心理カウンセラーの白目みさえさんにお話を伺いました。
専門家に聞く、トラブルに見舞われた時の心構え
── このエピソードでは血が流れるほどの大ケガを負うなど、客観的にみると警察や救急に通報すべき状況に見えますが、かりんこさんは「こんな痴話ゲンカで救急車を呼んでいいのか」「明日の仕事どうしよう」と考えて救急車を呼ぶことすらためらうなど、冷静な判断ができない状態に陥りました。もし自分がDVなど思いもかけぬトラブルに巻き込まれた時に、冷静に対応するためには、どんな心構えが必要になってくるでしょうか?
白目みさえさん:
「できれば第三者に助けを求めて下さい。このような事件に限らず、当事者は自分の目の前の世界に視野が限定されてしまうので、ことの重大さに気づきません。思いもよらぬトラブルに巻き込まれた時は『自分の力だけでなんとかしない』『誰かに冷静な判断を委ねる』ということが大切です。
またこの『自分の力だけでなんとかする』という考え方は、我慢強く責任感があり、どちらかというと他者優先で自己犠牲的になりがちなDV被害者の方に多い傾向といえます。
普段から小さなことでも『自分でもできるけどお願いしようかな』『自分でも決められるけど誰かの意見も聞いてみようかな』と意識してみられると良いかもしれません」
──大ケガを負ったかりんこさんは入院した後、彼氏に関する記憶を断片的に失う状態に陥り、事件に関する話をすると防衛本能で吐き気をもよおすような状態になってしまいました。このような記憶喪失まではいかずとも、「思い出したくない嫌な出来事」が自分の身に起こった場合、どのように対処すれば良いでしょうか。
白目みさえさん:
「基本的には専門家の指示に従って下さい。PTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断され、安全な環境で治療を進めることが必要と判断される場合もあります。心に大きな傷を負うようなショック体験や、自分ではどうしても認め難い何かが起きた場合、その刺激を意識し続けていると精神がもたない、危険であると脳や身体が判断して、自分を守ろうとしている現象と考えられます。
もし思い出しても耐えられると判断すれば、自ずととそうなっていくでしょう。とにかく精神的な回復に努めて下さい」
──レアケースかもしれないのですが、もし身近な人が精神的なショックなどで断片的に記憶を失うような状態に陥った場合どのように支えて行けば良いのでしょうか?
白目みさえさん:
「先の答えとも重複しますが、専門家の指示に従って下さい。これまで通りの生活を心がけ、そして何か思い出したり調子が悪くなっている様子があれば、すぐに相談するようにしてください」
* * *
もし万が一、かりんこさんのように出血するほどのケガを負うような暴力をうけた場合は、すぐに警察に通報すべきです。
判断に迷っている時、例えば「パートナーから精神的・経済的暴力を受けている」「この先どうすればいいかわからない」という時などは、「DV相談ナビ #8008(はれれば)」にお電話でお問い合わせください。こちらは全国共通の電話番号で、最寄りの相談機関の窓口に電話が転送されます。また「DV相談+」(https://soudanplus.jp/)でも、24時間メールや電話、チャットで相談を受け付けています。
マンガ=前田シェリーかりんこ著『メンヘラ製造機だった私が鼻にフォークを刺された話』より
取材・文=レタスユキ
Information
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