モラハラの当事者が語る苦い経験と後悔。『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』原作者インタビュー

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『99%離婚 モラハラ夫はかわるのか』より

※この記事ではモラハラ行為について具体的に触れています。フラッシュバック等症状のある方はご留意下さい。

モラハラに苦しめられた経験を描いたコミックエッセイが多数出版され、夫婦間のモラハラの存在については広く知られるようになりました。そんな中、昨年末に発売されて反響を呼んでいるセミフィクションコミックエッセイ『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』は、「モラハラをしてきた側の当事者のの後悔」という視点から描かれた珍しい作品です。

妻と子どもがある日突然家を出てしまってもなお、なかなか現実を受け入れることができない「モラハラ夫」の姿を生々しくリアルに描いたこの作品。原作者の中川瑛さんもまた、かつてパートナーに「悪意のないモラハラ」をしていたことで夫婦の危機に陥り、自分を見つめ直し変わることで、現在は自分でも驚くほどのよい関係を築いているといいます。

 『99%離婚 モラハラ夫はかわるのか』より

中川さんは、「GADHA(=Gathering Against Doing Harm Again)」というコミュニティを主宰されています。これは、大切にしたいはずのパートナーや仲間を知らず知らずのうちに傷つけたり、苦しめたりしてきた人々が、「自他共に、持続可能な形で、ケアできる関係」を作る能力を身につけるための集まりだそうです。
中川さんのホームページの自己紹介には、「妻を大切にし応援しているつもりなのに、傷つけ泣かせることを繰り返し、離婚の危機を迎えた」とあります。どのような態度や行動がパートナーの方を傷つけていたのか、中川さんにお話を伺いました。

中川瑛さん「相手を傷つけてしまうことが多々ありました。道を歩いている時に声もかけずに渡っておきながら相手がついてこないと目的地に行くのをやめたり、オンラインでの会議が長引いたことでパートナーの予定を邪魔してしまった時にも『時間を伸ばしたくて伸ばしてるわけじゃない』と謝らなかったり……自分が自己愛性パーソナリティ障害ではないかと思って本を色々読んだのですが、これをパートナーにも勧めたら、全然読んでくれないことに怒り、いきなりゴミ箱に捨てたこともありました。
書き切ることは決してできないほど、典型的な『モラハラをする側』の当事者でした」

 『99%離婚 モラハラ夫はかわるのか』より


そんな中川さんは、いつ自分がパートナーを傷つけていたことに気づいたのでしょうか。

中川瑛さん「いくつかのタイミングがありますが、一番大きかったのは、『自分が良かれと思っていることこそが加害であり、相手を傷つけ、関係を壊している』ことを自覚した瞬間でした。

パートナーの才能を信じ、それを開花させるための全てをしたつもりでした。自分自身が持っている能力をフルに発揮することで、成果も出て嬉しかった。望まれてもいないノルマを課し、勝手に販売経路を立ち上げ、顧客との交流を強制し、それを嫌がられたら『こんなに頑張っているのに』『あなたのため』と責め立てていたのです。

妻の『嫌だ』『やりたくない』に、『なぜ感謝しない?!』『あんなに頑張ったのに』『誰のおかげだと思ってるの?』と言っていました。『心の底からパートナーのためだと思っていたこと』は、徹頭徹尾、すべて、頭から爪先まで、結局『自分のため』だったのです。それは、紛れもない『モラハラする側の当事者』でした」

 『99%離婚 モラハラ夫はかわるのか』より


その後、中川さんは夫婦関係の再構築のために、既存の加害者向けプログラムや発達障害をはじめ、幅広いジャンルの文献を読んで学びながら、パートナーとのコミュニケーションを変える努力をしていったそうです。現在の夫婦関係はどのような状況なのでしょうか。

中川瑛さん「いまはお互いがお互いの安全基地だね、と言い合える関係を生きています。クリスマスやお正月を手放しに楽しみに思っていただけるようになりました。昔は旅行やイベントごとがあるとかならず自分がイライラして何らかトラブルになっていましたが、いまはもう全くありません。

元々はお互いに魅力や愛情を感じて生きていたわけですが、浮き沈みが激しかった。その沈みがなくなってしまったら、あとは楽しくて、穏やかで、幸せで、安心した生活だけが残っています。こんな関係が現実に可能なんだと時々本当に驚きます。これまでの人生において、誰かとそんな関係を作れたことは一度もなかったからです。これが安心してくつろぐことのできる関係を生きることなんだなあと日々実感します」

 『99%離婚 モラハラ夫はかわるのか』より


とはいえ、モラハラ当事者が自身の行為に気づいて、夫婦関係を円満に回復する例は稀とのこと。こうして夫婦の関係を修復した中川さんでさえも、セミフィクションコミックエッセイ『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』のコラムでは、「加害者に対して関係の改善を働きかけること」よりも、まず「被害者は自分自身の安全を確保すること」を優先するよう呼びかけています。

中川瑛さん「モラハラの被害に遭われている方は、できるだけ早い段階で被害者の方々の当事者団体、支援団体などにアクセスすることが重要です。関係改善のためのコミュニケーションや、実際に離婚や別居に至るまでの段階で、相手の言動が激化することが予想される場合や、ストーカー化するリスクが高い場合があります。命の危険に繋がることもありえますから、まずはどうかご自身の安全を第一にお考えください」

 『99%離婚 モラハラ夫はかわるのか』より


その上で、ご自身も当事者であった中川さんはこう語ります。

中川瑛さん「ただ、人は誰でも変わることができる。そのためには、自分のコミュニケーションが人を傷つけていたらそれを認め、学ぶ必要があります。『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』を読んで、”まさに自分のことが描かれている”と思ってGADHAに参加する方々もどんどんきています。学び変わるための受け皿がある上で、こうした傷つけた側の変容の話を書くことができたことは本当に良かったと思います。この受け皿なしには、ある意味では無責任な物語にもなったと思うからです」

少しでも『自分もモラハラしているかもしれない』『自分はモラハラされているかもしれない』と感じたことがある方は、この『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』を通して、自分の体験と共通するところがあるか確認してみてはいかがでしょうか。夫婦や家族の関係を見直すきっかけになるかもしれません。

取材・文=レタスユキ

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