環境の違いに翻弄される子どもたちの人生。「格差」を描いた話題作の著者に聞く
4月1日に発表されたやまもとりえさんの最新コミック『望まれて生まれてきたあなたへ』。
テレビでみかけた新生児遺体遺棄事件の容疑者が昔の親友だったことに衝撃を受けた主人公・まどかは、子どもの頃の記憶を徐々に蘇らせていきます。一体どうしてこんなことになってしまったのか…。どこが2人の分岐点だったのか…。
「子どもの間にある格差」を描き、大きな反響を呼んでいる本作。今回は、著者のやまもとりえさんに作品に込めた思いについてお話を伺いました。
『望まれて生まれてきたあなたへ』あらすじ
小児科医のまどかは、病院のテレビで新生児遺棄事件を報じるニュースを目にします。それは、母親が生まれたばかりの赤ちゃんを公園に埋めたというショッキングなものでした。
そして、逮捕された女の顔を見たまどかは、ふと子どもの頃を思い出します。屈託のない笑顔で虫取り網を振り回すあの子のことを。
テレビに映る無表情で疲れ果てた様子の容疑者は、まどかが子どもの頃に仲良しだった友人・のぞみだったのです。
公園で色オニをしたりのぞみの家でお絵描きをしたり…。思い出すのは、ただただ楽しくて幸せだった子ども時代のこと。しかし、学年が上がるにつれて、それぞれの環境が少しずつ変わり、すれ違っていくことに……。
登場人物たちは皆、「望まれて生まれてきた」のだという思い
――『望まれて生まれてきたあなたへ』というタイトルにはどんな思いがこめられているのでしょうか?
やまもとりえさん:「望まれて生まれてきた」は、登場人物である「のぞみ」の名前の由来になっています。また同時に、主人公であるまどかや、のぞみの妹、そしてのぞみの赤ちゃんに向けられた言葉でもあります。
――とても気の合う友達だけど、環境の変化によって疎遠になっていく。だけどたまに会うとやっぱり楽しい…。そんな友人関係は、やまもとさんにも経験がありますか?
やまもとりえさん:私の場合は会うのではなく見かけるだけになってしまいましたが、親友だった子の外見が少しずつ変化していっているのを見て、その子の人生を勝手に想像して補ってみたりしています。
――思春期のまどかが心を開いていた大人である美術部顧問の先生は、まどかにとってどんな存在だったのでしょうか?
やまもとりえさん:「親以外で心を開ける大人がいる」という安心をくれた人ですね。
自分の記憶にも重なることが…嬉しそうなあの子の顔
――特に印象に残っているシーンはありますか? その理由を教えてください。
やまもとりえさん:第13話で、のぞみが小学校を卒業してから疎遠になっていたまどかに再会し、カフェに誘われた時の嬉しそうな顔です。私にもそういう記憶があるんです。
――病院スタッフのうわさ話をたしなめるまどか。しかし、「奨学金返しながら働いてる私たちのことすら見えて無いのに」と陰口を叩かれる姿が描かれています。全体を通して、まどかは自分が恵まれた環境にあることに気づかない側であるということもまた印象的でした。
やまもとりえさん:このシーンでは、まどかももう大人で、本人も恵まれている自覚はあると思うのですが、とはいえ嫉妬の対象であることは変わらないので、その様子を入れました。
こんな子たちが近くにいるかもしれない、と想像してもらえたら
――本作を通して最も伝えたかったことをお聞かせください。
やまもとりえさん:そうですね…こんな子たちが近くにいるかもしれない、と想像してもらえたら嬉しいです。
――これから発信していきたいこと、描いてみたい作品などがあれば教えてください。
やまもとりえさん:ラブストーリーとか描いたことないのでやってみたいのですが、恥ずかしくて途中でふざけてしまいそうです。
――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
やまもとりえさん:作品を読んでくださるあなたのおかげで生きていけてます。本当にありがとうございます。
***
主人公の記憶を辿っていくうちに見えてくるのは、周囲の環境によって人生の方向性が大きく変わっていく子どもたちの姿でした。この『望まれて生まれてきたあなたへ』は、一人の人間としても子を持つ親としても、深く考えさせられる物語です。
取材・文=宇都宮薫
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