『痔だと思ったら大腸がんステージ4でした』著者に聞いた「痔と大腸がんの症状を混同していた理由」

#趣味   
血の量もドンドン増えていった

「ちょっと体調が悪いけど、病院に行くのは時間がもったいないしな…」なんて考えてしまうこと、誰でもありますよね? 漫画家のくぐりさんもその一人。

当時のくぐりさんは37歳、仕事優先で健康は後回しの生活をしていたそうです。お尻から出血したときも「痔だと思い込んで放置してしまった」といいます。そして彼女の症状はその後、悪化の一途をたどって…。

現在の病状は無事に「経過観察」状態になったくぐりさんですが、そこに至るまでの約3年間を、漫画「痔だと思ったら大腸がんステージ4でした〜標準治療を旅と漫画で乗り越えてなんとか経過観察になるまで〜」で描きました。
その怒涛の日々は、こんな風に幕を開けたそうです。

めちゃくちゃな生活を続けていたら、お尻から血が!


はじまりは2017年4月の痔かも?

くぐりさんがお尻に違和感を感じはじめたのは、いまから約6年前のこと。
お尻の激しい痛みと出血に耐えた後に、向かった病院でくぐりさんに下された診断は「いぼ痔」でした。しかも重度のいぼ痔だったため、即入院&手術することに。

最初の手術

いぼ痔の治療は過酷でしたが、退院後はお尻から出血することもなくなり、健康なお尻を手に入れたと喜んだくぐりさん。ところが、その2年後…、お尻から再度出血していることに気づいてしまったのです!

お尻の血は痔に違いない

くぐりさんは2年前の痔の経験を通して、お尻の出血は痔によるもの、思い込んでしまっていました。

当時、くぐりさんは昼間の事務の仕事に加えて夜は家事、休日は似顔絵講師などで毎日忙しく、自分の体をかえりみる時間がありませんでした。さらにくぐりさんには「漫画家になる」という夢があり、その達成のために寝る間を惜しんで活動していたのです。

忙しいので後回し

お尻からの出血に加え、くぐりさんの体調に新たな変化が現れたのは、そんなときでした。
仕事を終えて帰宅すると、微熱が出るように。そのため子どもの塾の送迎に遅れてしまうこともありました。

体の異変

血の量もドンドン増えていった

お尻からの出血量の増加など、度重なる異変に不安を感じ、くぐりさんは健康診断を受けることにします。

異常は見当たらず

一通りの検査をしましたが、結果は「異常なし」。健康診断で問題が見当たらなかったことで、くぐりさんは、お尻の血は痔に違いないと信じきってしまいました。
時はすぎて2020年2月。くぐりさんが再度病院に行くことになったきっかけは、実母からの電話でした。くぐりさんが実家でトイレを使った後、便器が血まみれになっていたのを見て驚いた実母は、急いでくぐりさんに電話をかけてきたのです。

血まみれのトイレ

実母から病院行きを懇願されたくぐりさんは前回の痔以来約3年ぶりに肛門を受診。しかし担当医師の口からは「痔にはなっていない」と予想外の所見が…!

痔にはなってないよ

内視鏡検査してみる

担当医の助言に従って、もっとくわしく調べるための大腸内視鏡検査を受けることにしたくぐりさん。あまりにも予想外の展開に不安が隠せません。しかしこの内視鏡検査で、さらなる衝撃の事実が明らかになるのです…。

ご家族と一緒に


漫画家くぐりさんインタビュー

――内視鏡検査の前は「大丈夫でしょ」と思いつつ、前夜は眠れなかったそうですね。この時の心境をお教えください。

眠れなかった


くぐりさん
「謎の自信については、怖いことをあまり考えたくなかったんだと思います。そしてもともと不眠症ぎみで、友達と遊ぶ前夜や、旅行前日などは眠れなくなるタイプなのです」

――内視鏡検査の際、「出血は痔によるものだと思いますが」と言っていた医師が、カメラを入れた途端に無言になったそうですね。

先生が一言も

グロテスクな何か

そしてご自身も一緒にご覧になり「あ、これだめなやつだ」と思ったと描かれていました。その際の心境について改めて教えてください。

くぐりさん
「素人の私が見てもわかるほどグロテスクな腫瘍が直腸を埋め尽くしていたので、不安が一気におしよせてきました。それと、実際にカメラを入れてみないとプロの先生ですらわからないものなんだなと思いました」

――そうだったんですね…。改めてお聞きしたいのですが、自分の体に異変を感じてから病院へ行かれるまでどのくらいの期間がありましたか。また、どのような異変を感じていたのでしょうか。

くぐりさん
「がん発覚の約3年前に下血(肛門からの出血)と肛門の痛みがありました。肛門科でひどいいぼ痔と診断され、手術をしたことがあったんです。手術後、2年たったあたりから再び少量の下血が始まりました。その下血から約1年たって肛門科を再度受診しました。

下血以外の異変は、毎日微熱(37度くらい)が出る、仕事から帰ると異常なほど疲れが出て体が動かない、四十肩のように腕を上げようとすると肩が痛む、顔の血管が黒く浮き出る、下腹部が痛む、お腹がすいていないのにすごく鳴る、などです。
それと、夜中漫画を描いていたら風邪でもないのに気管支炎になった時のような、ガサッとした咳が出るようになり不思議に思っていました」

――健康診断では「問題ない」と診断されたそうですね。その健診時は、お尻からの出血のについては医師には相談されませんでしたか? またそれはなぜでしょうか。

くぐりさん
「健康診断時にも下血のことを相談したのですが、その時は『痔が再発したんでしょうね』という話で終わりました。体の不調とお尻からの出血は別問題としてお医者さんは考えていたので、私もそう思いこんでいました」

――お母様から「病院へ行きなさい!」と強く言われたことが病院へ行くきっかけになったと描かれていました。その際の心境はどのようなものだったのでしょうか? 

病院行け

くぐりさん
「『また手術になるかもしれない、手術痛かったし肛門科行きたくないなぁ。市販薬で治せないかな?』と思っていました。
痔の手術が痛かったというのは、正確に言うと外痔(肛門の外側の痔)を切り取るよりも、内痔(肛門の内側、直腸にできた痔)にしたジオン注射が涙が出るほど痛かったのです。注射を何度か打たれたのですが、そのたびに生理痛の一番キツイ時のようなものすごい鈍痛が何度も襲ってきて、涙と脂汗でぐちゃぐちゃになりました」

――病気の発覚から治療までとても大変なことが続いていましたね。特につらかったのはどのタイミングでしょうか?

くぐりさん
「毎月の抗がん剤がとにかく辛かったです。副作用をとにかく耐え忍びました。抗がん剤の入院の週に入ると落ち込みが激しかったです。

それと、漫画ではちょっとしか描けなかったのですが、抗がん剤の副作用による下痢で、肛門周囲膿瘍(肛門の周囲に膿がたまり腫れ上がる病気)になり、悪化して痔ろう(直腸と肛門周囲の皮膚をつなぐトンネルのような穴ができる痔)になった時が痛かったですね。
がんの主治医に肛門周囲膿瘍かもしれないと訴えても違うと診断され、別の医者にかかっても違うと言われどんどん悪化して、歩くこともできなくなっていきました。

たまたま、痔の手術をした肛門科に行く機会があったのでそこで担当医師に相談したら『これは肛門周囲膿瘍が悪化して痔ろうになっている、しかも特殊な形なのでがんの担当医ではわからないだろう』と言われたんです。さらに先生は『肛門科の僕じゃないとわからないよ、でも僕はがんは発見できないけどね』と…。この時は、痛みと不安で本当に辛かったです。
専門の先生に診てもらうことが一番大切だけれど、それを患者側が探すのは難しいと感じました」

    *      *      *
日々の忙しさと痔の経験から、お尻からの出血という病気のサインを見逃してしまったくぐりさん。
壮絶な治療を乗り越えたいま、伝えたいメッセージを伺いました。

くぐりさん
「毎日が忙しく、貴重な休みの日などを病院に使いたくない気持ちになりますが、自分の体と一生付き合っていくためにも、定期的なメンテナンス(健康診断など)は必要なんじゃないかと思います。
特にがんは、健康的な生活を送っていてもかかる場合があるので、自分だけで健康を守るには限界があります。お医者様に診てもらうのが一番良いと思います」

くぐりさんの描くほのぼのとした絵柄からは想像できないくらい、検査前後の気持ちの変化や治療の過程は過酷です。でもそれは、がん患者という立場を経験した方でないと分からない事実ばかりです。
仕事に家事に奮闘中で自分の体を後回しにしがちな方にこそ、読んでほしい作品です。

取材・文=山上由利子

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