「主人公を応援するつもりで描いた」話題作『ランジェリー・ブルース』作者・ツルリンゴスターさんインタビュー

#趣味   
閉塞感を感じていた主人公の人生が大きく動き出したのは、ある一枚の「下着」との出合いでした…

人気イラストレーター・漫画家のツルリンゴスターさんが描いた新著『ランジェリー・ブルース』が、いまSNSを中心に話題を集めています。

タイトルにもあるように「下着と人との出合い」がテーマの本作。心に迫るストーリーとともに、ツルリンゴスターさんの緻密で繊細な下着のイラストにも目を奪われます。監修には伊勢丹新宿店の初代ボディコンシェルジュ・松原満恵さんを迎え、漫画内にも実際の下着メーカーのランジェリーが随所に登場します。

今回は、主人公・ケイをはじめとする魅力的な登場人物たちが生み出された背景、また「下着」にまつわるご自身のエピソードなどを、ツルリンゴスターさんにお聞きしました!

『ランジェリー・ブルース』あらすじ

何とかしてくれよ…

いやもう転職するわ

派遣社員の深津ケイ・34歳。真面目に仕事に取り組んできたものの、職場では説明不足のままの業務を回され、やりがいを求められることもありません。派遣の契約満了が迫ると、自分よりはるかに年下の新入社員には心配されてしまう始末。自分の立場の脆さと報われない日々に折り合いをつけつつも、くすぶった気持ちを抱えていました。

そんなに頑張らなくてもいいんじゃない

ケイは彼氏と付き合って7年目。彼氏の口から『結婚』の二文字が出ることは決してありません。惰性的な付き合いを自覚するケイですが、先の見えない自分の生活もあり、彼氏の態度に違和感を持っても、受け流すのが当たり前のようになっていました。

ご予約の方でしょうか?

これから先もずっとこの生活が続くのかと思い悩んでいたケイ。そんな閉塞感漂う彼女の日常が動き出したのは、同僚のすすめで訪れた下着店『タタン・ランジュ』での、一枚の下着との出合いだったのです。


現実にもよくある?ままならない暮らしをする人物像

――とても真面目な性格の主人公・ケイという人物は、どのように生まれたのでしょうか。

ツルリンゴスターさん:ケイのことを真面目と言ってもらえて嬉しいです。
その通りで、ケイは真面目に自分で生活し、働き、恋人や友人との関係を作っています。でもそんな中、仕事で意見をスルーされたり、自分のキャリアが見えなくなってしまったり、恋人が結婚を言い出さないことにモヤモヤしたり。

真面目にやってきたのに、なぜか現状がままならない状況になってしまっていることや、社会が作り出した固定観念に無意識に縛られていることは、現実世界にもよくあることで、多くの人に自分事として読んでもらえるのではと考えました。

それから「あなたがやってきたことは、絶対、無駄じゃないよ!見てる人いるよ!」ってケイを描きながら私も応援していました。

なんでこんなに 自分が遠いんだろう



圧倒的存在の上司キャラ・柳さんと蘭子さんが誕生した背景

――作中には「下着販売業界のレジェンド」とも称される2人の女性が登場します。インポートランジェリーを日本に呼び込んだパイオニア・大谷蘭子、そして日本で最も多くのフィッティングを経験したといわれる柳真智。ケイを始め、迷える人々を導く蘭子さんと柳さんですが、2人はすでに達観された域に達しているように見えるものの、きっと人並み以上の苦闘もあったのだと思います。そんな2人の若かりし頃も読んでみたいなあと思ってしまうほど魅力的な人物像でした。
ケイが蘭子さんや柳さんという圧倒的な存在に支えられ、背中を追いかけ、自分を取り戻していく過程がうらやましくも思えました。ツルリンゴスターさんにも、そんな存在や指標となるものがあったりしますか?

あの2人がレジェンドだという話は何度でも耳にする

ツルリンゴスターさん:ランジェリー・ブルースは下着がテーマの漫画ではありますが、仕事、特に販売スキルの話でもあると思って描いていました。仕事を描くのが好きなんですよね。
柳さんは経験豊富で、お客さんの満足するポイントを見抜く力があって、最終独自のカンみたいなものでメキメキ売上を上げていく人。そして誰もそのノウハウを真似できなくて、後輩が全く育たないっていう…(笑)。 
蘭子さんは逆にロジック型なんです。理論で売っていくタイプで、堅実な売り方です。こういう人が指導につくと後輩はめきめき育ちます(蘭子さんの怖さに慣れれば)。

私にとって、目標にする存在というのはいないとも言えるし、まわりの人全てとも言えます。日々の仕事や遊びに行く中で、「ああこの人はこうやって問題に立ち向かうのか」とか「この人はここの場面でそんな言葉を出せるんだなあ」とか、みんな自分にないものを持っていて、それを見ているだけで気づくことや、進めることがたくさんあります。

柳さんと蘭子さんも、私が会社務めをする中で見てきた人たちから教えてもらったことが生かされてできたキャラクターだと思うので、今後もたくさんの出会いを制作に活かせていけたらと思います。


「あなたのからだを賛美する」衝撃が走った下着のフィッティング

――ツルリンゴスターさんご自身が経験した「下着」にまつわるエピソードがありましたら、ぜひ教えて下さい。

ツルリンゴスターさん:私がこれまで下着に興味がなかった原因に、メンズライクな服装や見た目が自分らしくて好きだというところがあります。今回のお話があるまで、ランジェリーはどうしてもバストを高くする、かつレースで飾るという印象があったのですが、取材した伊勢丹新宿店の「マ・ランジェリー」でフィッティングしてその印象が覆りました。

ノンパテの総レースブラをつけたとき、「かわいい」とか「女性らしい」みたいな言葉を超えた感覚でした。

「あなたのからだを賛美する!」それが一番近いかも。私は私のからだを賛美します、このランジェリーで!という自分への宣言のようなものを感じて、それは衝撃でした。この経験で漫画が描けそうだ、という確信でもありました。

私のからだは、生まれたときから3回の出産も超えて、今まあこんな感じだけどずっと一緒にやってきたんだもんね。とても良いとはいえないけど、私はこのからだ好きだよ。それにメンズライクな服の下に、総レースのブラをつけてるなんて、すごくかっこよくないですか。

鏡の中の自分の表情が変わる



子どもたちに伝えたい「自分のからだと心は自分のもの」という意識

――エピソードを読み進めていくと、ブラジャーが必要になっていく思春期やティーンへと成長していく女の子たちにも、下着の知識や下着との向き合い方を抵抗なく持ってもらいたいなと感じました。
ツルリンゴスターさんにも男女3人のお子さんがいらっしゃいますが、お子さんたちには、どんなふうに下着に対する意識を持ってもらいたいでしょうか。

ツルリンゴスターさん:そう感じてもらって嬉しいです。まずは「自分のからだと心は自分のもの」「自分のことは自分で決めていい」ということがこどもたちの生活の中で根付かせられるように頑張っています。下着もその延長で、自分が着たいと思うものを楽しんで選んでいい、と思ってもらえたら嬉しいですね。

私はここを選んだ


      *     *     *

ケイをはじめ、終活や子育てなど、さまざまな背景を抱えた女性たちが「下着」との出合いによって自分を取り戻し、生活を新たにしていく『ランジェリー・ブルース』。彼女たちの「人生の転機」となるシーンは、思わずこちらまで気持ちが高揚してしまうほどです。
「自分の心と向き合う」「自分をもっと大事にしていい」という、当たり前のようでいて意外と難しい心構えを、改めて意識させてくれる物語です。


取材・文=河野あすみ

この記事に共感したら

おすすめ読みもの(PR)