「父の姿をしているけど中身は知らないおじさん」父は病気の後遺症で別人のようになってしまった…『家族を忘れた父との23年間』著者インタビュー

#くらし   
脳に腫瘍があると伝えられた父

病気によって、大好きな人が変わってしまったら…。また、それによって当たり前の日常が一変してしまったら…あなたはどうしますか?
想像もつかないという人が多いのではないでしょうか。だけど、実は誰にでも起こり得ることなのです。

そんな受け止め難い実話をもとに描かれたのが、『家族を忘れた父との23年間』。こちらは、ジャンルを問わず実話をベースにしたコミックエッセイを大募集した「レタスクラブコミックエッセイ新人賞 powered by LINEマンガ インディーズ」の入賞作でもあります。審査員も涙した、作品に込めた想いとは?著者の吉田さんにお話を聞きました。

人が変わってしまった父と、一変した当たり前の日常

どこにでもいる普通の家族だった

物語の始まりは、主人公が高一のとき。サラリーマンの父と専業主婦の母、中二の妹と4人で暮らすごく普通の家族でしたが、父が異常なイビキをかいていたことをきっかけに、左脳に腫瘍が見つかります。さらに、その腫瘍が破裂してしまい、手術で左前頭葉の1/4を切除することに。

父の顔つきは変わってしまった

一命は取り留めたものの、身体には麻痺が残り、記憶も短時間しか持たなくなってしまった主人公の父。しかも、家族のことも忘れてしまって…。

他人事のように感じるかもしれませんが、病気は誰にでも襲いかかるもの。あなたの大切な家族やパートナーが、同じような状況に陥ってしまう可能性もゼロではないのです。そんなとき、あなたならどうしますか?


ずっと誰かに聞いてほしかった、父との23年間を作品に


――本作は吉田さんの実話をもとに描かれていますが、描こうと思ったきっかけは?

吉田さん:この漫画は、もともとSNSで公開していた作品を基にしています。実は今まで、父のことを誰かに話したことはほとんどありません。相手に負担をかけるのが怖くて、なかなか話せませんでした。でも、本当は誰かに聞いてほしかったんです。育児漫画を描き始めて数年が経ち、描くことに慣れてきたので、コミックエッセイという形で気持ちを吐き出すことにしました。

延命治療をどうするか、お母さんが決めて

家族の問題から逃げてしまった

――本作には、病気や介護・命の決断などに関わるデリケートなテーマが描かれています。ご自身の体験を描く上で心がけたこと、大切にされたことはありますか?

吉田さん:私がこの作品を描くことで傷つく人がいるのはわかっていましたが、思ったことを正直に描こうと思いました。家族の問題から逃げる自分の汚さもしっかりと…。育児漫画を描くときには「批判されたくない、いい母親に思われたい」という下心がありますが、本作はそういう気持ちは捨てて描こうと決心しました。

楽しいことが刺激になれば…

すぐに忘れてしまう父

――手術の後遺症によって人が変わったようになってしまったお父様との23年間。ツラい・苦しい思いもたくさんしてきたと思います。最もツラいと感じたのはどんなときですか?

吉田さん:父の障害を受け入れるというか、「諦める」前はツラかったです。たとえ不便になっても今までと同じように楽しく生活したいと考えて、父の退院後は車椅子でいろんなところに出かけました。でも、どこに行ってどんな経験をしても、当日には忘れてしまいます。今後一緒に思い出を作っていくことができないということに気づき、もう何をやっても無意味なのだと絶望しました。

現実に正面から向き合う勇気がなかった…当時の気持ちを赤裸々に

子どものことが大好きな人だったのに

――そんなツラい経験の中でお父様と向き合うことは、当時学生だった吉田さんにとって、本当に難しいことだったと思います。どのように、ご自身の気持ちに折り合いをつけてきたのでしょうか。

吉田さん:非常に失礼な現実逃避なのですが、「父は死んだ」と思うことにしました。目の前にいるこの人は、父の姿をしているけれど中身は知らないおじさん。新しく家族になったおじさんは体が不自由で、心は子どもだから配慮が必要。そう思うととても心が楽になりました。現実に正面から向き合う勇気はありませんでした。

お父さんもお母さんも、充分頑張った

――もしものことがあったときどうするのか…。「延命措置」という正解のない悩ましい問題に対する、お母様の決断を聞いたときの率直なお気持ちは?

吉田さん:母が、父のことも母自身のことも考えた末に出した答えだと納得しました。延命措置については、「母がどの選択をしても構わない」「どんな結果になっても私は母を支持する」と決めていました。でもそれは、大きな決断に自分が関わることが恐ろしかったからです。大切な家族のことなのに…。すべてを母に丸投げし、相談に乗ることさえしなかった自分の汚さに情けなくなりました。

――本作を読んで、物語の中の出来事は誰にでも起こることなんだということを覚えておかなければと感じました。吉田さんが、この作品を通して読者に伝えたいこと、感じてほしいことは何ですか?

吉田さん:体に不調があったら、必ず病院に行ってほしいです! 特に、お忙しい方や子育て中の方はご自身の健康面を後回しにしがちだと思いますが、気を付けていただきたいなと思います。父ももっと早く病院にかかっていたら、今とは違う未来があったと思うので…。

   *      *      *

父が病気になった当時、まだ学生だったという吉田さん。事実を受け止めきれない、そのリアルな気持ちが赤裸々に描写されていて、ハッとさせられたり、自分だったら…と考えさせられるシーンが多々ありました。涙なしでは読めない作品です。

取材・文=松田支信

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