「人は何度でもやり直すことができる」『腐りゆく家族』に翻弄された女性が憎しみを手放すまで

#くらし   
家族を信用できないなんて…

遠距離恋愛を経て結婚し、住み慣れた土地から夫の赴任先である地方の小さな町の社宅に引っ越した主人公。次々とご近所トラブルに見舞われる中、夫の裏切りも発覚して…という物語を描いた話題のコミックエッセイ『腐りゆく家族』

よろしくお願いします

誰も知り合いがいない環境の中、前向きに新生活をスタートさせた彼女ですが、なぜか家の中での会話の内容を隣人が知っていたり、玄関先の木の枝が切り落とされていたり、ゴミを撒かれたり…と嫌がらせを受けて精神的に追い詰められていきます。

そんな中、唯一の頼れる存在である夫の裏切りも発覚。彼女はとうとう家を飛び出して…。
そんなスリリングなストーリーで話題のセミフィクション『腐りゆく家族』の著者きむらかずよさんにお話うかがいました。


── 遠距離恋愛の末に妊娠、そして結婚。幸せに満ちた生活の始まり…と思いきや、困難の連続。自分を裏切っていた夫と、女性にだらしない義兄、 女性問題で義母から離縁された義父、というよどんだ空気が流れる「腐った家」に巻き込まれることとなった主人公・市田かりん。主人公と夫の間で問題が山積みなのに、強烈な義兄や義姉も登場し、「こんな家族あり?」と思うような衝撃のエピソードが山盛りでした。「信頼する人の裏切り」というのもこの本の重要なテーマだと思うのですが、そういったエピソードを描いた理由を教えてください。

どういうこと?

きむらかずよさん(以下きむらさん):わかりあえていると信じて結婚したにもかかわらず、実は結婚前から裏切り行為は行われていた…という実際にあったエピソードを元に作品を制作しました。ドラマのように思う方もいるかもしれませんが、意外にもこういったことはあるのかもしれません。

──実際にきむらさんが知ったリアルストーリーをベースに制作されたのですね。例えば夫や家族など、信頼していた人に裏切られたとき、どのように気持ちをコントロールすればいいと思われますか?

きむらさん:憎しみの真っ只中にいるときは、コントロールも難しいですよね。憎しみという感情を越えるのは相当な時間がいることなのではないでしょうか。やっぱり、憎しみ続けるということは結局自分自身をボロボロにするのだと思います。とことん自分と向き合うしかない。
でも向き合っても苦しいだけのときもある。
まずは今までの嫌なことを思い出す全部の環境を捨てて、まっさらな自分で1からやり直す。自身の経験から、人は何度でもやり直すことができる、生き直すことができると信じてマンガを描きました。

──なるほど。自分を信じることが大切ということですね。

きむらさん:時間がかかってもいいから、また新しい世界を作るように自分で行動していく。行動することで絶対また開けてくる場所がある。その中でまた新しい色々な出会いがある。そうやって新しい誰かと出会い、つながることで少しずつ心が癒やされていくのではないでしょうか。
薄皮を剥ぐように少しずつ憎しみを手放していくことが大切だと思います。そのとき初めて「あの日々があったから今の自分がいる」と思えるようになるのではないでしょうか。とことん憎んだ相手に対しても、感謝すら芽生えたり(笑)。

──そこまでにいきつくのが大変そうです…。

きむらさん:人生で一度とことん誰かを憎んだ経験があると、簡単に人を憎まなくもなるし、憎むということが自分にどれだけダメージがあるかも学んでいるので、人に対して寛大になれる部分もあるのではないでしょうか。相手を選んだ自分にも責任があるな、とか(笑)。
でもご指摘の通り、そこまで思えるまでには長い時間が必要だとは思います。すぐに切り替えたり、心をコントロールすることは難しいでしょうね。

頼れる相手も近くにはいない…


──結婚式で幸せそうなかりんの前に夫の相手が登場。何も知らないかりんの様子を見て「気の毒に…」「まさか結婚式に乗り込んでくるとはなあ…」と噂をする出席者たち。結婚してからは、女性からの手書きのメッセージと花束が車に置いてあった、というストーリーも妙にリアリティがありました。こういったエピソードはどこから生まれたのでしょうか?

周囲は夫の裏切りを知っていた


きむらさん:結婚式に出席した新郎側の知り合いのほとんどが夫の裏切りを知っていた、というのはリアルにあった話です。車に置いてあった花束や添えられていたというメッセージについても本当に見聞きした話です。
結婚、引っ越しなど、人生にとっての分岐点に起きることは、何かの暗示なのかもしれません。当人は当時、「それでもこの結婚を進めていくのか?」と問われていたのかも…。

──夫の家族の設定も強烈でした。義父は女性問題を起こし、そんな義父に義母は愛想をつかして出ていき、義兄も女性に当たり前のようにだらしない。いわゆる普通の家族の中で育ってきた主人公にとっては驚くべき状況ですよね。
このような身内がいたら人間不信になってしまいそうです。周囲は咎めようとしていないようでしたが、それはなぜでしょう?

家族にも平気で彼女を会わせる義兄


きむらさん:父親もそういう生き方をしていたし、誰も咎める人がいなかったんじゃないでしょうか。もしかしたら友達には釘を刺されていたかもしれませんね。けれど、そうすることでしか生きられなかったのかな、とも感じます。


──「俺はあんな風になりたくない」と言いながらも、結局毛嫌いしていた家族と同じようなことをしてしまう夫。「こうなりたくない」と客観視しながらも、同じような事をしてしまう…負の連鎖についてどう思われますか?

負の連鎖?


きむらさん:わたしもそれが気になっていて、改めて考えてみたのですが、でもそれは大なり小なりどこの家族でもあるのではないでしょうか。
お酒に関係した負の連鎖を起こしていく家族
お金に関係した負の連載を起こしていく家族。
きっとその家族の課題なんだろうなと思います。家族を反面教師にして越えていけるといいのですが。

──このまま家にいてはいけない、と駅前のスーパーに働きに出る主人公のかりんが、窮地に陥った際に助けてくれた配達員の男性に気持ちが傾いていきますね。妻側の気持ちも揺れ動く様をエピソードに盛り込んだ理由を教えてください。

きむらさん:「寂しい」という感情は人に誤作動を起こすのではないかと思います。人生を賭けてこの人と歩いていこう、と決めたのに、その相手が実は裏切っていたら、自分を全否定されたような気持ちになってもおかしくないですよね。
知らない場所で、何もわからない環境で必死になんとかやっていこうとしているのに、家族も頼りにならなかったら「寂しい」し「辛い」。最悪の状況で自分に手を差し伸べてくれる人がいたらすがってしまいたくなるのも不思議ではないでしょう。
けれど、それでは本当の意味では満たされない、幸せになれるわけではないと、主人公・かりんは気づきます。その辺りの揺れ動く心情を描きたいと思いました。

感じる孤独


──登場する子どもたちの苦しみにも心が痛みました。
主人公の義姉が妻子ある男性との間に生んだ子ども・ツムギくんが主人公・かりんに向かって「言うとくけど、この家族全員腐ってんで」と言い放ちます。ツムギくんは「父親」に偶然会ったとき「他人のふりをされた」ことで心に傷を追い、家族に対して冷めた目をもっていました。
ツムギくんと同じ塾に通う女の子は、父親の浮気をなじりながらも、お母さんが浮気相手に夢中になっている状況に絶望している、というエピソードもありました。
『腐りゆく家族』で子ども側の気持ちを盛り込んだのはどのような理由からでしょうか?

心に傷をおったツムギ


きむらさん:ツムギにも実際モデルとなった人がいて、火事での一部シーンや、実の父親に駐車場に連れて行かれるところなどは実際のエピソードです。女の子は高校時代の友達をモデルにしています。ゆがんだ大人たちによって翻弄されていく子どもたちと10代の頃にたくさん出会いました。そういう子達は寂しさで、一般的な常識からは外れた行動をしてしまうのですが、根は優しい子が多かったんです。懸命に生きる子どもたちをいつか描きたいと思って、今回のお話に登場させました。

──家族や信用していた相手から裏切られたことで、苦しんでいる方もいると思うのですが、そういった方にアドバイスするとしたらどんな言葉をかけますか?

きむらさん:わたしの場合はただただ話を聞きます。やっぱり全部苦しさを吐き出してしまわないと、どんな言葉も心には入らないような気がして。

周囲に励まされて

苦しさがわかるだけに、安易な言葉は言えないけれど、でもやっぱり最終的には憎しみを手放していけるように伝えます。
憎しみって、本当に自分を一番苦しめると思うから。


~・~・~・~・~
実話をふんだんに盛り込んであるからこそ『腐りゆく家族』はリアリティがあるのですね。
数々のエピソードに背筋がゾッと凍ることも。家族の裏切りに傷ついたかりんは、自分の人生をどう見つめ、どう生きていくのでしょうか。
もしも「信頼」している人に裏切られたと感じたら…。あなたはどうしますか?

文=mm

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