突然訪れた体の不調。メンタルクリニックでうつと診断された漫画家の心境『誰でもみんなうつになる』著者インタビュー

#くらし   
『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』より

うつ病になる人は「完璧主義で神経質で真面目な人がかかるもの」。そんなイメージをもっていたという、イラストレーターでコミックエッセイストのハラユキさん。『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』は、うつを経験したハラユキさんご自身の体験エピソードが描かれたコミックエッセイです。今回は著者のハラユキさんに、体の不調を感じたときから軽度~中度のうつ病と診断されたときの心境について聞きました。

<あらすじ>
「だるい」「やる気が出ない」「悲しくないのに涙が出る‥」そんな症状に悩まされていた著者のハラユキさん。几帳面でも神経質でもない、むしろ楽観的で能天気な性格から「うつ病」を疑うことはなかったそう。
楽しいことをしていたはずなのに、急に気持ちが落ちてポロポロと涙がこぼれたハラユキさんは「やっぱ私どっかおかしい!」と気づきメンタルクリニックに駆け込みます。
軽度~中度のうつと診断されたハラユキさんは、うつと向き合いながらさまざまなケアを試します。

人生初のメンタルクリニックへサクッと行けたワケ


『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』より

突然体のだるさを感じ、やる気が出ないという不調に陥ったハラユキさんは、人生で初めてメンタルクリニックを訪れたそうです。「メンタルクリニックを受診する」ことに対して抵抗感を感じる方も多い中、ハラユキさんはサクッとクリニックに行くことができたそうです。

『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』より

ハラユキさんがためらわずにメンタルクリニックを受診できたのは、以前お仕事で知り合った精神科医の先生(K先生)との対談で、精神科について基本的なことを教わっていたことがきっかけだったそうです。この経験のおかげでメンタルクリニックに対して心の壁が消えていた、とハラユキさん。過去の対談や得ていた知識が相まって、体の不調を感じてから早い段階でクリニックを受診することにつながったそうです。

「…私がうつ…」医師からの診断を受けて著者が感じたこと


『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』より

初めてメンタルクリニックの門をくぐったハラユキさん。病院の雰囲気も患者さんもごく普通…。他の診療科のクリニックと全く変わらなかったと感じたそうです。人生で初めてメンタルクリニックを訪れたときに感じたことについてハラユキさんに伺いました。

ハラユキさん「私が行ったクリニックには、クリニック名に『精神』とか『こころ』とかが入っていなかったんです。入口にも診療名は出ていなかった。メンタルクリニックに抵抗がある人向けにすごく配慮がされているな、と思ったしそこで信頼感も生まれました」

『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』より

ハラユキさんの担当医は丁寧だけどテンションの低い先生。でも低いトーンの喋りが不思議と落ち着かせてくれたそうです。
ハラユキさんは身に起こっている症状を詳しく話し、思い当たるストレスを伝えたあと、別室で別の先生と話しながらチェックリストを埋めていくと…。最後にまた、担当医の診察に戻ったハラユキさんは『軽度から中度のうつだと思います』と診断を受けたそうです。

『誰でもみんなうつになる 私のプチうつ脱出ガイド』より


体の不調からうつと診断されるまでを振り返る


―――うつのご経験を漫画として作品にしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

ハラユキさん「治療の参考にいろいろな本を読んだのですが、うつ初心者のための治療ガイド的なコミックエッセイが少ないと思ったことが大きいです。治療の参考になる専門家の本は文字が多くてうつの人には読むハードルが高いけど、マンガなら読みやすいと思ったんです。体験談本は症状がハードなものが多く読んでいて辛い気持ちになったり、うつの辛さや症状に焦点を当てたものも多いので、治療の参考とは少し違うと思ったんです。私は幸い、うつとしては症状が軽く、専門家の本も読めました。精神科医の知人もいていろんなことを教わりました。だからこそ、これまでにない『うつ初心者向けガイドブック』が作れると思ったんです」

―――本作品中に「何も興味がない」「仕事や家事もしたくない」とありましたが、これまで同じようなご経験はなかったのでしょうか。

ハラユキさん「過去にもあったのですが、なんかレベルが違ったんですよね。『面倒くさいなぁ』『やる気ないなぁ』みたいな感じじゃなくて、まさに燃え尽きた感じというか。なので最初は燃え尽き症候群なのかな?とも思ってました」

―――無気力の状態でも「なんとかしないとヤバイ!」とご自身をかきたてるシーンが印象的でした。メンタルクリニックを受診するまでにどんな思いがありましたか?

ハラユキさん「淡々と事務をこなすような仕事ならまだよかったのですが、私はインタビューをしてマンガにまとめて発信する仕事を多くやっています。手間がかかる工程も踏むし、だからこそ、その原動力になるのは『これをもっと知りたい!』『この人の話を聞きたい!』『この話を発信したい!』という好奇心とやる気なんです。だから、好奇心とやる気がないとこの仕事はできない。このままじゃ働き続けられないと切実に感じました」

―――うつと診断されたあと、どのような感情が生まれましたか?

ハラユキさん「ビックリしたけど、メンタルのかかりつけができてホッとしたという気持ちです。あと、自分はうつにならないタイプだと思っていたので、『自分は自分のことを全然わかってないんだなぁ』とも思った気がします」

―――うつについてご主人に報告するまでの間にどんなことを感じていたのでしょうか。

ハラユキさん:「『私がうつになるんだ!?』と驚きもありましたが、どこかでホッとしたところもありました。症状が悪化したときのためにかかりつけのメンタルクリニックがあることは安心できたからです。夫は性格的にすぐ否定したりはしない性格なのはわかっていたので、夫に報告するまでの葛藤はとくになかったです。そう思えることは今考えるとありがたいですよね」

―――うつの診断に対してご主人も驚かれたかれていたそうですが、受け止めてくれたときの率直な気持ちを教えてください。

ハラユキさん「さすがだな、受け止めてくれるんだな、と思いました。一方で、息子のコロナ後遺症の治療もおこなっている最中だったので、家庭の中で健康なのが夫だけになってしまい、夫に負担が増えそうで申し訳ないな、とも思いましたね。もともとハードに働く忙しい人なので余計に…」

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本作品はハラユキさんの体験エピソードや、ご自身が感じたことがリアルに描かれています。忙しい日常の中でも、自分の心の声に耳を傾けることが「自分を守るため」に大切なことだと、これらのエピソードは教えてくれます。

取材・文=畠山麻美

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