あなたの日常に起こるかもしれない。水面下で渦巻くママ友たちの心の闇があぶり出されるとき

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私たちなにもしらない

子育て期間の苦楽を共有できる、まさに同志のような「ママ友」と言う人間関係。レタスクラブが行なったアンケートで、ママ友は「必要」は必要だと思いますか?と聞いたところ、「はい」と回答した人は71.6%。約7割という結果が出ました。(アンケート調査期間:2022/6/8〜6/13、有効回答者数563人)
しかし気の合うママ友がいれば心強い一方で、トラブルや悩みの種になることも少なくありません。

『ママ友がこわい 子どもが同学年という小さな絶望』『離婚してもいいですか?翔子の場合』『妻が口をきいてくれません』など、数々の話題作で知られる・野原広子さん。手塚治虫文化賞短編賞を受賞した『消えたママ友』は、ひとりのママ友の失踪をきっかけに仲良しママ友たちの輪が崩れていくさまを巧みに描き、2020年の出版以降広く読まれてきました。

ママ友有紀ちゃんが消えた

うらやましいほど幸せそうに見えたママ友・有紀が、ある日突然姿を消します。保育園のママたちのあいだでは「男を作って逃げた?」など、その話題で持ち切りに。有紀と仲良しだった春香、ヨリコ、友子は「仲良しだったのに、私は何も知らない」とショックを受けます。
有紀の失踪をきっかけに仲良しママ友たちの歯車は狂いはじめ、気がつけばお互いに嫉妬心や敵対心を抱くように。表立っては見えないママ友たちの抱える闇がじわじわとあぶり出されていく過程、真相にたどりつくまでの緻密な内面描写。ミステリーの要素も盛り込まれたストーリーが誕生した背景を、著者である野原広子さんへの取材をもとに見ていきます。

※本記事は2021年4月掲載の取材記事を再構成し、編集したものです。

作品のヒントとなった離婚での引っ越し。仲の良かった友人たちとの関係に微妙な距離が生まれた

仲良かったのになにもしらないんだ

――平凡だと思っていた日常が思いもよらない形でじわじわ崩れていくような、ミステリー仕立ての物語を書こうと思ったきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

野原広子さん 実は、私が離婚を経験した際、「有紀ちゃん」状態になったんですね。失踪したわけではないのですが(笑)。引っ越しをすることになり、私がいなくなった後に今まで仲良くしていた友人たちの関係に微妙な距離が生まれていたことに気がついたんです。

男と逃げたなんてぜったいうそ

――絶妙なバランス感覚で成り立っていたコミュニティから1人抜けることで人間関係が変わっていく…まさに「消えたママ友」の設定と同じですね

野原広子さん 私にとっては、それぞれが大切な友人なのですが、私がいなくなったことで友人同士の距離感が変わってしまうという出来事がかなり意外で…。さらに私がいなくなってから「私のウワサ話」を人づてに聞いたりもして。そういったことをヒントにして今回の作品を書いてみようと思いました。

首つっこまないほうがいいよ


「じつはあの頃…」子育てがひと段落し、思い出話として話せるようになったからこそ生まれたキャラクターたち

「死にたい」っていわれたら……どうする?

――登場するキャラクター全員が、実はそれぞれにママ友付き合いに対してもやもやした感情を持っていた、というところにも共感するという声もあがっていました。登場人物たちの設定はどのように生み出されたのでしょうか?

野原広子さん 長年付き合ってきた友人たちが「じつはあの頃…」と、小さい子どもを育てることに必死になっていた頃の心の葛藤や苦労を話してくれるようになったりしたんですね。
当時、彼女たちはとてもそんな闇を抱えている風に見えなかったので驚きました。私自身はもう子どもが成人して子育てがひと段落したのですが、そういえば私もあの頃すべてを話しているわけではなかったな…と。時を経てようやく思い出話として話せるようになった今だからこそ生み出せたキャラクターたちだったのだと思います。

子ども置いてくってことが母親として許せない


「肩の力を抜きすぎてはいけない」ママ友とそうでない友人との決定的な違い

ママ友づきあいはやっぱ大変?

――ママ友とそうでない友人に違いはあるんでしょうか…? あるとすればどんなところだと思われますか?

野原広子さん ママ友と学生時代からの友人などは明らかに違うのではないでしょうか。ただの友人は肩の力が抜けますけど、ママ友は「肩の力を抜きすぎてはいけない」と、どこかでセーブしているような気がします。それに、一番の違いは、素の自分ではなく”ママとしての顔”をして向き合っているというところですよね。

――確かにママ友に対して家庭環境や悩みを赤裸々に話せる人というのは多くない気がします。

野原広子さん ただ、知り合って間もないうちは、なんでも言い合えることばかりが“いい関係”というわけではないと思うんです。仲がいいからこそ何も言えないということもあるし、聞かないでいてくれるから信頼が生まれるということもあります。その先になんでも言い合える関係が生まれたらそれは大切にした方がいいだろうな、と思います。

ぶつかったらどうするの!?

イライラするよ!


――子ども同士のやりとりがそのままママ友関係にも影響してしまう…というストーリーが出てきて、ドキっとしてしまいました。例えば子ども同士がけんかしてしまった…などよくありますよね。

コーくんがすうちゃんにおすなかけたー

野原広子さん 実際に私も「あんなに仲がよい二人だったのに…」と驚くほど冷ややかな状態になってしまったママ友関係を見たこともあります。むしろ、仲が良かったほど、溝は深くなるようにも思いますね。

――野原さんご自身もそういった経験がありますか?

野原広子さん とても仲の良かったママ友とほんの小さなことでギクシャクしてしまった経験があります。子ども達の無邪気なテンションにつられ、親まで無邪気になってしまったことが距離感を間違えてしまった原因だったのかな、と今は思います。大人同士の関係として時には立ち止まって冷静に自分を見てみればよかったな、と反省していますね…。

うちの子女の子でよかった〜


ママ友関係に悩んでいたら「ママ友」ではない。一歩離れて考えることが大切

距離感を間違えないように

――人間関係が少し面倒なこともあるかもしれない「ママ友」という存在ですが、野原さんご自身が「ママ友がいてよかった!」と感じたことがあれば教えてください。

野原広子さん 子どもが小さかった頃は成長する上でいろいろ壁にぶつかったり悩んだりすることも多々あって、その話を聞いてくれるだけで「ママ友がいてよかった!」と思ったことはそれこそ数えきれないほどありますね。子どもが成人した今、それぞれの子どもの成長をお互い喜びあえる関係が続いているのはうれしいことですよね。

――ママ友関係に悩んでいる人、疲れている人にメッセージやアドバイスがあればお聞かせいただけますか?

野原広子さん もしママ友関係に悩んでいるとしたら、それは「ママ友」ではなく、「子どものお友達のお母さん」です。一歩離れて考えたら、きっと冷静な対応が浮かんでくるのではないでしょうか。
無理した関係はほころびが出てくると思うし、ほころびを出してはならぬと必死になればなるほど苦しくなっていくものです。そう簡単に距離をおくことなんてできない…という人は仕事や趣味など距離を置ける何かを見つけて、別の世界を楽しむ、というマインドに持っていく方がいいと思います。

私たち仲よしだと思ってたのに


幼稚園や保育園、そして小学校入学など、まだ手がかかる子どもがいる場合、保護者同士のお付き合いは避けて通れませんよね。子どもを介してママ友との出会いが生まれるからこそ、その関係性が子どもに左右されたり、距離感をはかりつつ本音を隠したりと、不安定なものになるのかもしれません。

子育てがひと段落し「あの頃はママ友関係で大変だったなあ」と振り返ることができる人、今まさにママ友トラブルの渦中にある人…。『消えたママ友』には、実際にママ友で苦労した経験のある人なら「自分の身近で本当に起こるかもしれない」と共感してしまうほどのリアルさが、ストーリーの随所に散りばめられています。それが多くの読者を惹きつけている所以なのかもしれません。

※本記事は野原広子著の書籍『消えたママ友』から一部抜粋・編集しました。

取材・文=河野あすみ

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