116年ぶりに「性的同意年齢」が16歳に引き上げ。子どもを守る法律/新おとめ六法(6)

#くらし   
性的同意年齢が16歳に

『新おとめ六法』6話【全13話】


何かへん?私が悪いの?考えすぎ?そう感じたときに頼りになるのが「法律」です。難しい側面もあるけれど、「法律は知っている人しか守ってくれない」という弁護士の上谷さくらさんが、わたしたちに身近なトラブルに関する法律を解説。
知ってさえいれば「おかしい」と声をあげられることや、知らなかったでは済まされないことなど、私たちに寄り添う大切な法律についてのエピソードをご紹介します。


性的同意年齢◆あなたを守る法律

刑法 第176条第3項 性的同意年齢
16歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る)も、第1項と同様とする。
※刑法第177条の不同意性交等罪の第3項にも同様の規定あり。

【解説】性的同意年齢が16歳になった

「性的同意年齢」とは、性的な行為に同意する能力があるとみなされる年齢のことです。2023年改正で16歳に引き上げられ、被害者が16歳未満の場合、類型の1~8がなくても、仮に被害者が同意していても、わいせつ行為や性交等が行われれば原則として、ただちに犯罪が成立します。

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不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の8つの類型(行為・事由)
1~8のいずれかを原因として、【同意しない意思を形成、表明、またはまっとうすることが困難な状態にさせること】または、【相手がそのような状態にあることに乗じること】
 1 暴行または脅迫
 2 心身の障害
 3 アルコールまたは薬物の影響
 4 睡眠、そのほかの意識不明瞭
 5 同意しない意思を形成、表明、またはまっとうするいとまがないこと
  例)不意打ち
 6 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕 例)フリーズ
 7 虐待に起因する心理的反応 例)虐待による無力感、恐怖感
 8 経済的、または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
※法務省HPを基に作成
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改正のポイント

1907年の刑法制定からずっと、性的同意年齢は13歳でした。その年齢の子どもが性被害にあっても、大人どうしの性暴力と同様に、「同意があったのか」という視点から審理され、「被害者が黙っていたので、同意していると勘違いした」という加害者の弁解で、刑法犯では立件できないケースが相次いでいました。しかし、13歳の子どもが性的行為に直面したときに、うまく立ち回ることは不可能です。性的行為をするには、その意味を認識し、行為が自分に及ぼす影響について考えたり、その結果に基づいて相手に対処する能力が必要です。これらの能力が備わるのが早くて16歳と考えられ、116年ぶりに16歳に引き上げられました。

子どもが性的行為に直面したときに、うまく立ち回ることは不可能です


【解説】13~15歳は相手が5歳以上年長の場合(5歳差要件)

ただし、13~15歳の子どもに対する性的行為については、「5歳差要件」があり、加害者が5歳以上年上の者でなければ原則として、処罰対象になりません。13歳と17歳、14歳と18歳、15歳と19歳の性的行為については、大人どうしの行為と同様の基準が適用されます。こうした例外規定が設けられた理由は、たとえば交際している14歳どうしのキスや、16歳と15歳の性行為を犯罪とすべきではない、ということからです。実際には、そうした恋愛関係に基づく性的行為で逮捕されることは、まずありません。

ポイント

この「5歳差要件」にはさまざまな問題点があります。5歳以上年上であっても、「年齢が4歳差だと思っていた」という弁解で逃げられる可能性があります。また、18歳・19歳は成人で、一人で家を借りたり車を運転したりすることもできます。アルバイトや就職である程度のお金を持っている人も多いでしょう。そのような人たちと、14歳・15歳の子が対等な関係といえるかは難しいところです。年齢差がなくても、スクールカーストなど、対等ではない関係もあります。その点は、国会でも問題視され、5歳差未満であれば「対等な関係」とはかぎらないことに留意せよ、との付帯決議がつきました。


著者:上谷さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。

※本記事は上谷さくら著の書籍『新おとめ六法』から一部抜粋・編集しました。

著=上谷さくら イラスト=Caho/『新おとめ六法』

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