【#令和サバイブ】介護が始まったら仕事はどうする? 「仕事と介護の両立」のために知っておくべきこととは

#くらし   
2015年、安倍内閣が発表した「アベノミクス」新3本の矢で掲げられたのが「介護離職ゼロ」。政府も対策に取り組んでいるが…

近年、仕事をしている人にとって「仕事と介護の両立」は大きな課題となっています。働きながら介護をしている人は346万3千人、過去1年間(平成28年10月~29年9月)に「介護・看護のため」に前職を離職した人は9万9千人にものぼっています(総務省統計局「平成29年就業構造基本調査」より)。

今回、レタスクラブユーザーのうち、現在仕事をしている人(女性)で、介護の経験がない360人に「仕事と介護」についてアンケートを行いました。

約8割が仕事と介護を両立するための方法を知らないという現実


その結果、約7割が「仕事を続けたい」と回答。「自営業なので、なるべく介護に時間をあてて、空いた時間に仕事をする」「仕事時間やバイト先を変えるなどして対応したい」と、できるだけ仕事を続けながら介護をしたいことが伺える声が多く聞かれました。

あなたが介護の当事者になっても今の職場で仕事を続けたいですか?


その一方で、介護が始まっても仕事を続けるための制度について聞いたところ、8割近くが「全く知らない」と答えました。

介護が始まっても仕事を続けるための制度についてどのくらい知っていますか?


介護のために離職すると、収入を失ううえ、社会から孤立しがち。年齢も進みブランクも経るため、再就職も難しくなりますが、それに気付くのは離職した後です。では、どのように仕事と介護を両立させたらいいのでしょうか?

介護休業の取得で乗り切れた「仕事と介護の両立」―斎藤裕子さんの場合

大手家電メーカーで働く斎藤裕子さん(47歳)は、正社員として仕事を続けながら、両親の介護を経験した1人です。

末期がんで余命半年と言われたお父さまの実家での緩和ケアを、訪問診療や訪問介護、ヘルパーさんらの手を借りてしている中、お母さまが脳腫瘍から片目の失明や高次脳機能障害を発症。テレワークを取り入れ、お姉さまと交代で実家に泊まり込み、介護をしていましたが、「もう仕事が回らない!」と、お母さまのための介護休業(後述)を会社に申請する決心をしたそうです。

「それまで介護休業の制度などについて詳しい内容は全く知らなかった」と、斎藤さん。「自分が介護の当事者になって初めて、さまざま制度や方法があることをネットで調べたり、人事部に教えてもらいました。父のための介護休業も早く申請すればよかったです」

その後、お父さまを看取り、お母さまが施設に入所し、介護がひと段落。仕事に復帰した今、斎藤さんは「仕事を辞めずに済んで本当によかった」と話します。

「仕事の配分を調整してくれた会社、テレワークできる環境、介護休業の3つのおかげです。介護の当事者になったら、会社の人事部や病院の相談員、地域包括支援センターやケアマネージャーさんなどいい味方を見つけて頼って、早めに情報を入手することが重要です。一番大変なときは、情報収集する気力や体力もなくなってしまいますから」

介護が始まったらひとりで抱え込まず、早めに会社に相談することが必要


「私」という一個人でいられる時間=仕事の時間だった―矢野史織さんの場合

通信販売会社に勤務する矢野史織さん(51歳)は、2人の娘さんの育児をしながらフルタイムで働き続け、実の両親と義理の両親のダブル介護を経験しました。その期間は40歳から10年間。いずれも認知症となった4人を介護しながら、家族や両親のため、深夜2時3時まで翌日の食事やお弁当の準備をし、朝7時30分に家を出るという生活が続きましたが、「仕事を辞めることは一度も考えなかった」と言います。その理由は、

「『親の介護をする子』でもなく、『ママ』でもなく『妻』でもなく、『私』という一個人でいられる時間が、仕事だったからです。仕事をしている時間は、周囲の人がほかの役割ではない『私』個人に対して接してくれる時間。逆に仕事をしていることに救われていました」

また、「介護していることを所属部署のマネージャーや同僚にいいタイミングでカミングアウトできたこともよかった」と言います。

「『介護をしている』と話すことで、周囲の人が気を使って食事や飲み会のお誘いをしてくれなくなるのが嫌でした。そうなると、より孤独になってしまいますから。相手に遠慮させない空気を自分で作ることも大切だと思います」

実際、忙しい日々の中で矢野さんが大切にしていたのが、同僚や友人と飲みに行く時間でした。飲みながら他愛もない話をするひとときが、ストレスを発散させ、癒しになっていたそうです。

「介護が始まったら、会社を辞めるしかない」は大きな勘違い

いざ介護と向き合うことになったとき、無理なく仕事と両立するために具体的にどんな情報を知っておけばよいのでしょうか。

「介護が始まったからといって、会社を辞める必要は絶対にありません」と話すのは、株式会社ワーク&ケアバランス研究所の代表取締役・和氣美枝さん。「介護をしながら働くことが当たり前の社会」にすることを目指して活動しています。

和氣美枝さん

「介護者の一番の不幸は『選択肢が見えなくなること』。介護が始まったら、会社を辞めるしかないと勝手に思い込み、パニックになって人生の選択肢が見えなくなり、介護離職してしまう人も多くいますが、それは間違い。介護が始まったとしても、さまざまな情報をきちんと自分で整理し、人生のいろいろな選択肢の中から自由に選ぶことが大事なのです」

和氣さんによると、「『仕事と介護の両立』は、『できる』のではなく、『やる』」。そのためには、「受け身になって待っているのではなく、自分から正しい情報を取りに行くという発想や行動力が必要」だと言います。例えば、労働者が仕事と介護を両立できるように支援する法律に「育児・介護休業法」がありますが、前述のアンケート結果のように、このような法律について知らない人が多くいるのが現実です。

「『育児・介護休業法』は国の法律で、労働者が事業主に申請することによって適用されるものです。介護をしていると、通院に同伴したり、役所に手続きに行ったり、どうしても就業時間内に動かねばならないことが多くあります。そこで、労働者が『労働を免除してください』と申請したときに、事業主は拒否してはいけない、という法律です。休みを優先的にもらうための法律ではありません」

「育児・介護休業法」が適用されるのは、大企業だけではなく、事業主と労働者が雇用関係を結んでいれば、社員2人、3人といった小規模な会社でも適用されます。

育児・介護休業法の主な制度

いつか来る介護の心構えをするための情報を提供―大成建設の場合

最近は、仕事と介護の両立を支援するため、さまざまな取り組みを行っている企業もあります。2010年から「仕事と介護の両立」を支援しているのが、総合建設会社の大成建設です。2007年に女性社員を対象に今後のキャリアについてのヒアリング調査をしたところ、将来的に介護、また、仕事と介護の両立に対する不安の声が挙がったことがきっかけでした。

「できるだけ早い時期に、事前の心構えができるよう社員に情報提供すること。そして、介護は誰にでも訪れる可能性があるので、『お互いさま』の意識を醸成すること。この2つに注力しています」と、人事部専任部長の塩入徹弥さんは話します。

まず介護関連の制度などをまとめた「介護のしおり」などを作成したほか、介護と仕事の両立に必要な情報を提供する介護セミナーを開催。セミナーは現在100%オンラインで、より多くの社員が参加できる年末年始、ゴールデンウィーク、お盆に開催しています。

全国の事業所で展開されている出張介護セミナーの様子(2019年7月撮影)

全国の事業所で展開されている出張介護セミナーの様子(2019年7月撮影)。介護保険制度や介護施設などをテーマにするほか、介護経験のある社員が話すことも。オンラインの場合は、社員だけでなく、親やきょうだい、作業所で働く建設技能者(作業員)も参加できる。

同社では、要介護者1人につき180日まで取得できる介護休業制度、要介護者1人につき年間10日付与される介護休暇制度など、独自の制度を導入しています。どちらも法定日数のおよそ2倍であるうえ、介護休暇は1時間、2時間といった時間単位での取得も可能で、運用状況も拡大。現在、介護休業は年間に数人、介護休暇は年間200人ほどが取得し、男性の取得者も増えているそうです。

2018年からは、介護をする状況になったら、本人、上司、人事担当者で三者面談を行い、仕事と介護の両立についてアドバイスする「介護サポートプログラム」もスタートしました。

「介護中の欠勤・早退などは上司との連携も必要なので、隠して両立するのは困難です。できるだけ早い段階で、会社が支援しやすい、また本人が両立しやすい方法を話し合っています」

自分の人生が最優先。一番大切なのは、自分が笑っていられること

介護は終わりが見えないものですが、「会社や地域の支援について知り、活用できるかはその人次第。仕事を続けてゆくためには、情報を収集し、必要なものを選択し、活用する力が必要といえます」と、和氣さん。

また、仕事と介護の両方に直面したとき、どうしても介護を優先に考えがちですが、和氣さんは「自分の人生を最優先にして構わない」とも言います。

「介護のために、自分の仕事や人生をあきらめる必要はないと考えています。介護をしていると仕事がうまく回らなくなったり、外出できなくなったり、『なぜ自分の人生を削っているんだろう?』と気付き始め、思い詰めてしまうこともありますが、そんなときは『そうだ、自分の人生優先でいいんだ』と思い出してください。そうすると『では、どうすればいいのか?』という思考に変わってきます。介護される人が安全で幸せでいるためには、介護する人が笑っていられる状態にあることが一番なんです」

日々忙しく仕事をしていると、いつかするかもしれない介護のことを考える機会はあまりないかもしれません。でも、将来自分が笑っていられるために、仕事と介護を両立するための法律や会社の制度を知ったり、必要な情報を入手したりしながら、今のうちから人生の選択肢を広げておくことは、決して無駄なことではないのです。

取材・文=岡田知子(BLOOM)

【レタスクラブ(WEB)編集部】


和氣美枝さん

和氣美枝さん/32歳で母親の介護が始まり、転職・離職を繰り返す。自らの経験から2013年に「働く介護者おひとり様介護ミーティング」を発足。現在は要介護度5の母親を介護しながら、企業研修や自治体講演会、個別の介護相談などに取り組む。▶ケアラーズ・コンシェルジュ

◇「#令和サバイブ」
この記事はレタスクラブとYahoo!ニュースの共同連携企画です。
家族と介護をテーマに令和の時代をどうサバイブするか考えます。今は仕事や子育てで手一杯。でも、着実にやってくる親の老い。それに対して私たちはどう向き合うべきでしょうか。自分の少し先の未来や家族について考えるヒントを、全5回の連載でお伝えします。


この記事に共感したら

おすすめ読みもの(PR)

プレゼント企画

プレゼント応募

\\ メルマガ登録で毎週プレゼント情報が届く //