元ヤングケアラーが直面しやすい問題とは? 「介護」のその先を生きるヤングケアラー

#くらし   
 なんでわかんないんだよ!


家族の介護や家事を日常的に担っている18歳未満の子どもたち「ヤングケアラー」。社会から孤立しやすい環境にある彼らが介護の役割を終えた後に抱える問題とは?
全5回でお伝えしてきた本連載。最終回の今回は、元ヤングケアラーの美齊津康弘さんと、立教大学コミュニティ福祉学部助教の田中悠美子先生に、「介護のその先のこと」を聞きました。

忘れようとした過去のこと。でも母への罪悪感がフラッシュバックして…


小学5年生の頃、48歳で若年性認知症を発症した母親をケアする「ヤングケアラー」だった美齊津康弘さん。
当時はアルツハイマー病という病名やその症状もあまり知られておらず、『これは夢に違いない。ある日目が覚めたらお母さんは元通りになるはずだ。』と考えていたそうです。
しかしある時、認知症が進行して自分のことすらわからない母親に嫌気がさし、つい母親を突き飛ばしてしまったことがあるといいます。
暴力を振るうつもりなどなく、すぐに後悔が押し寄せましたが、その後高校生の時にお母さんが入院するまで美齊津さんをとりまく環境は変わらず、自宅での介護の日々が続きました。

これらのヤングケアラーとしての経験は後の人生にどのような影響を与えたのでしょうか。

美齊津さん「母が亡くなった後、私は当時のつらかった出来事を忘れようと必死でした。しかしそれから約10年後、母を突き飛ばしてしまった夢で毎晩うなされるようになりました。母に対する罪悪感からフラッシュバックが起きるようになったんです。
そのことがきっかけで、介護の仕事に転職しました。今はケアマネージャー17年目ですが、当時の私のように介護で苦しむ家族の力になりたいという思いで働いています」

介護家庭の力になるケアマネージャー


美齊津さん「ヤングケアラーは、ケアが終われば終了というものではなく、彼らが長年背負ってきた悲しみや怒りや自尊心の傷を克服することは容易ではありません。また実際に失ってきた社会的なチャンスもその後の人生に大きな影響を与えます。だから、ヤングケアラーに対して少しでも理解のある寛容な社会になるように、私はこれからもヤングケアラーのことをもっと多くの人に知ってもらうため為の活動をしていきたいと思いますし、また同時にヤングケアラー自身に対しても、ケアの役割から解放された時には再び自分の足で歩き始められる強さを持って欲しいと思っています」

自分の人生をどう生きる? ケア役割を終えたその後に


大人になった「元ヤングケアラー」が直面しやすい問題について、立教大学コミュニティ福祉学部助教の田中悠美子先生は次のように語ります。

田中先生「30代、40代になってケア役割が終わり、これからどう生きていくか考えたときに、同世代と比べて経験値に乏しいことから人生の選択肢が限られてしまうケースはよくあります。ある人は『出遅れた』という表現をしていましたが、恋愛や結婚などのライフチャンスを逃してしまう問題も無視できないと思います。
実際、ヤングケアラーだけでなく、18歳~30歳代までのケアラーのことを指す『若者ケアラー』も社会問題になっています。ケアの役割はヤングケアラーと同じでも、若者ケアラーは『もう大人だから』とあてにされてしまい、ケア責任がより重くなる傾向にあり、SOSを出せないまま自身の仕事や家庭のバランスが不安定になり、健康面の課題を抱えてしまう場合もあります。
ただ、ヤングケアラーであることが必ずしもネガティブなだけではないということはお伝えしておきたいです。家族をケアすることで人として豊かになったり、そこで得る経験や出会いもあるはずです。ケア役割を終えた後にその経験を踏まえて自分の力を発揮している人も大勢いらっしゃいます」

ヤングケアラーのサポート作りを


田中先生「核家族化が進みひとり親家庭も増えている現代で、ケア負担が生じた時に、家族だけで乗り切ろうというのはもう限界になっていると思います。ヤングケアラーの問題は教育、医療、介護と、様々な分野にまたがるテーマですので、縦割り行政を超えてネットワークを作っていく必要があります。必要な人に適切なサポートが届く仕組みが作られていくのが今一番願うことですね」

病気や介護はいつ誰の身に降り掛かってもおかしくないこと。ヤングケアラーの問題に取り組むことが、全世代型社会保障作りのうねりになると田中先生は言います。すべての人が幸せに暮らせる社会を作るため、ヤングケアラーの問題について一歩踏み込んで考えてみませんか?

取材・文=宇都宮薫

この記事に共感したら

おすすめ読みもの(PR)

プレゼント企画

プレゼント応募

\\ メルマガ登録で毎週プレゼント情報が届く //