凄惨な暴力と、傷ついた被害者。DVや虐待からの「夜逃げ」を取材する漫画家が語る暴力表現への葛藤【著者に聞く】

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『夜逃げ屋日記6』より

【注・この記事にはDVや暴力、流産に関する描写が含まれます。フラッシュバック等の不安のある方は閲覧にご注意ください。】

DVや暴力、虐待から逃れたい人々の引っ越しを請け負う業者、「夜逃げ屋」。
漫画家・宮野シンイチさんが実際にそこでスタッフとして働きながら取材を続ける『夜逃げ屋日記』は、知られざる現場のリアルと被害者の再生を描き反響を呼んでいます。

今回は最新刊の第6巻より、元ボクサーの夫から凄惨な暴力を受けた女性のエピソードをご紹介します。過酷な現場で依頼者の想いに寄り添うスタッフたちの姿を通し、著者の宮野さんに表現へのこだわりや描き手としての葛藤についてお話を伺いました。

▶【漫画】『夜逃げ屋日記6』小倉ヒメカさんのエピソードを読む

小倉ヒメカさん(仮名)のエピソード


今回の依頼者は24歳の小倉ヒメカさん(仮名)。元ボクサーの夫からの酒乱と苛烈な暴力により全治3ヶ月の重傷を負い、入院を余儀なくされました。身動きが取れない本人に代わり、夜逃げ屋の女性スタッフ・ビッキーさんが代理人となって搬出作業が始まります。

『夜逃げ屋日記6』より


搬出当日、現場には警察が立ち会っていたものの、夫は「業者!聞こえてんだろ!」「ぶっ殺すぞ!」などと激高。緊迫した空気のなか、ビッキーさんはキッチンにある缶から封筒を抜き取りました。それに気づいて包丁を手に暴れ出した夫。事態は警官が夫を取り押さえ、連行する騒ぎとなりました。

『夜逃げ屋日記6』より


搬出作業の後、ビッキーさんは宮野さんを伴って海へ向かいます。彼女がポケットから取り出したのは、キッチンに隠されていた胎児のエコー写真でした。実はヒメカさんは妊娠していたものの、夫の暴力により流産していたのでした。「家に残しておきたくないが、移転先に持っていくのもつらすぎる」——そんなヒメカさんの思いを受け止めたビッキーさんは、海辺で静かにその写真へ火をつけ、処分するのでした。

『夜逃げ屋日記6』より

『夜逃げ屋日記6』より


伝えたい思いがひとりよがりにならないように


最新刊『夜逃げ屋日記6』では、ヒメカさんが受けた暴力や被害については最小限に抑えられています。わずかに描かれる病院での様子やマスクで隠した顔から、読者の想像に委ねる部分も多いエピソードとなっていました。依頼者の受けた壮絶な暴力や痛みを読者に伝えるとき、漫画でどこまで描き、どこから描かないか。作家としてのこだわりや心がけていることを宮野さんに伺いました。

『夜逃げ屋日記』より

宮野シンイチさん:
1巻に収録されている3話目で、社長が元旦那から凄惨な暴力を受けていたと語るシーンがあるのですが、そこは殴られた顔がボコボコになっている姿を黒のモザイクで隠しています。実はその絵はかなりリアルに描いていて、モザイクを入れる予定はなかったんです。当時は担当編集さんもついてなかったので、自己判断で「リアルに表現した方が絶対良い!」と思っていたんです。実際その絵自体には下手なりに自信がありました。

ただ、それを見た絵の先生に、「見ていて苦痛。それを読者に強制する意味が本当にある?」と言われて、ハッとなり、モザイクを入れました。のちに、5巻に収録されているブルさん編のグロテスクなシーンでも担当編集さんから似たことを言われ、修正したことがあります。

描いていると、伝えたい思いが絵に乗りすぎて、ひとりよがりになってしまうことが多々あります。そうならないように意識して、「凄惨なことがあったんだ」とわかりつつ読んだ人が不快になりすぎない、というのは頭の隅に置いています。

それでも、そういうことに耐えられるラインというのは、人によって違うので難しいところなんですけどね……。日々勉強ですね。

『夜逃げ屋日記6』より

『夜逃げ屋日記6』より


    *    *    *

苛烈な暴力に傷ついた心と、そこに手を差し伸べるスタッフたちの強い使命感。その双方に真摯に向き合いながら、作品を通して読者へ丁寧に届けようとする宮野さんのこだわりが、私たちの心に深く重い余韻を残します。

【編集部より】

※「夜逃げ屋」本社に夜逃げの依頼以外の問い合わせや、書籍・本記事のご感想を送るのはお控えください。書籍やマンガのご感想やご意見につきましては、下記宛にお送りいただけますと幸いです。

〒102-8177 東京都千代田区富士見2-13-3
『夜逃げ屋日記』宮野シンイチ宛



取材・文=レタスユキ

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