愚痴や悪口、うわさ話。度が過ぎれば罪に問われる/新おとめ六法(2)

インターネット上の愚痴や悪口、うわさ話なども、度が過ぎれば名誉毀損罪や侮辱罪に該当

ネット上の誹謗中傷。画面の向こうで悲しんでいる人がいる/新おとめ六法
『新おとめ六法』2話【全13話】


何かへん?私が悪いの?考えすぎ?そう感じたときに頼りになるのが「法律」です。難しい側面もあるけれど、「法律は知っている人しか守ってくれない」という弁護士の上谷さくらさんが、わたしたちに身近なトラブルに関する法律を解説。
知ってさえいれば「おかしい」と声をあげられることや、知らなかったでは済まされないことなど、私たちに寄り添う大切な法律についてのエピソードをご紹介します。


度を越したうわさ話・誹謗中傷◆あなたを守る法律

刑法 第230条 名誉毀損
1)公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役、もしくは禁錮、または50万円以下の罰金に処する。
2)死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

刑法 第231条 侮辱
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役、もしくは禁錮、もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料に処する。

事例

SNSで同級生が事実ではないうわさを書き込んだ

【CASE】SNSで同級生が、私のことを 「ブス」 「デブ」 と中傷する内容や、「整形をしている」など事実ではないうわさを書き込んだ。

【ANSWER】
サービスに問い合わせフォームなどがあれば、まずそこに状況を記載して削除を求めてみましょう。
法的措置をとるなら、中傷やうわさを証拠として保全する必要があります。そのうえで、SNSを運営している管理者に、中傷やうわさの削除を求めることができます。

【解説】名誉毀損と侮辱の違い

インターネット上の愚痴や悪口、うわさ話なども、度が過ぎれば名誉毀損罪や侮辱罪に該当します。名誉毀損罪は、以下の条件を満たす場合に成立します。

1「公然と」......大勢の人の前などで
2「事実を摘示して」......「本当の事実」や「虚偽の事実」を示して
3「人の社会的評価を低下させた」......世間や周囲からの評価を下げた

ここでいう「事実」は、その内容が本当かどうかは関係ありません。そのため、嘘の内容でも名誉毀損罪の要件にあてはまります。では、「本当のことならいいのか」というと、そうではありません。事実であっても公共性・公益性がなければ、名誉毀損になります。侮辱罪は、名誉毀損罪と同様「公然と」「人の社会的評価を低下させる」ことですが、名誉毀損罪とは異なり、「事実を摘示」せずに悪口を言った場合などに成立します。

名誉毀損罪と侮辱罪


【解説】侮辱罪が厳罰化

プロレスラーの木村花さん(享年22)がSNSでの激しい誹謗中傷を苦に自死したことをきっかけとして、SNSなどでの誹謗中傷が社会問題化しました。同じような誹謗中傷が後を絶たず、深刻な被害が多数生じていたことから、誹謗中傷行為に対する国民の非難が高まり、加害行為への適切な処罰と抑止を目的として、2022年6月に刑法の侮辱罪の法定刑が引き上げられました。

法改正に伴う主な変更点は、以下のとおりです。

法改正に伴う主な変更点


池袋暴走事故で妻子を亡くした松永拓也さんをSNSで誹謗中傷した男が、侮辱罪で東京地裁に起訴され、有罪判決を受けました。被告人は、「投稿は別の遺族に対するもので、松永さんを侮辱する意図はなかった」と主張して争いましたが、東京地裁は被告人の主張を退け、「被害者の心情に一切配慮せず、一方的に社会的評価をおとしめた」と断定しました。
法改正前の事件だったため、法定刑は「拘留・科料」という軽いものでした。拘留は「30日未満の身柄拘束」ですので、最大の刑が「拘留29日」ですが、東京地裁は最も重い「拘留29日」の有罪判決を言い渡しました。法改正後の事件については、判決内容が各段に厳しくなることが予想されます。

誰のことかわからないようにしていればセーフ?


【解説】誰のことかわからないようにしていればセーフ?

名誉毀損罪や侮辱罪という犯罪は、その投稿をした人が、「相手の名誉を毀損してやろう」という「故意(わざと)」または「相手が特定されて相手の名誉が毀損されてもかまわない」といった「未必の故意」がなければ成立しません。
慰謝料請求するにも、投稿した人に「故意」か「過失」があることが必要です。相手が誰かわからない表現で書き込みを行っていれば、相手の社会的評価を下げようという「故意」や「未必の故意」「過失」があるとは認められにくいと考えられます。
万が一、投稿を見たほかの人が、悪口の相手を特定してネットで晒すことがあっても、刑罰を受けたり慰謝料を請求されたりする可能性は高くありません。

もっとも、裁判などの法的手続きでは、故意があるかどうかは書き込んだ内容から総合的に判断されます。経歴や外見の特徴について書くなどして、悪口の対象が誰か、読んだ人が想像がつく表現であれば、故意があると認められてしまう場合もあります。

事例

サービスが最悪。SNSで悪い感想を書き込んだら誹謗中傷になる?

【CASE】カフェに行ったらサービスが最悪。あまりにも腹が立つからSNSで悪い感想を書き込んだら、バズってしまった。誹謗中傷になる?

【ANSWER】
内容によっては名誉毀損罪や侮辱罪にあたる場合があります。少なくとも、ひどい悪口を書き込むと、トラブルに巻き込まれる可能性もあることを念頭に置いておきましょう。苦情は直接そのお店に伝えるのがよいでしょう。

【ポイント】密室でも「公然と」になる

2人きりの会議室で相手を罵倒するなどの場合は 「公然と」 にあたりません。しかし2人きりであっても、聞いた人が第三者に伝えることが明らかなのに、その場にいない他人の悪口を伝えれば、「公然と」 に該当する場合があります(伝播可能性)。

手続き

誹謗中傷への対応は、大きく分けて2つあります。

1)削除請求......匿名掲示板やサイトの管理者に対して書き込みの削除を求める
2)発信者情報開示請求......書き込んだ人物を突き止めて、その人物に損害賠償請求などをする

2022年の法改正で、一体的な手続きで、加害者を特定できるようになりました。
まずは削除依頼フォームなどの問い合わせ窓口を通じてサイトやSNSの運営者、管理者に、問題の書き込みの削除を求めるという方法があります。
しかし、それでもサイト側が削除しない場合は、サイトを運営している会社に対して書面を送って削除を求めます。
それでもだめなら、裁判所に訴えることで削除を求めることになります。
また、警察に被害を訴えるほか、加害者を特定して民事上の損害賠償請求を行うこともできます。


著者:上谷さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。

※本記事は上谷さくら著の書籍『新おとめ六法』から一部抜粋・編集しました。

著=上谷さくら イラスト=Caho/『新おとめ六法』

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