わいせつ目的で子どもをたぶらかす◆あなたを守る法律
刑法 第182条 16歳未満の者に対する面会要求等
第1項 わいせつの目的で、16歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者は、1年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金に処する。
第1号 威迫し、偽計を用い、または誘惑して面会を要求すること。
※拘禁刑が始まるのは2025年6月1日以降に生じた事件から。それまでは「懲役」。
【解説】16歳未満の子どもへのわいせつ目的での接触を防ぐ
近年、SNSの発達などで、わいせつな行為をするために大人が若年者に近づくことが容易になり、若年者が性被害にあうことが増えています。そのような事態を防ぐため、2023年の刑法改正で、「面会要求等罪」が新設されました。
面会要求等罪は、わいせつ目的で、16歳未満の者に対して次のいずれかの手段で会うことを要求することで成立します(13~15歳には、5歳差要件あり)。
1)威迫、偽計、または誘惑......脅す、嘘をつく、甘い言葉で誘う
2)拒まれたのに繰り返し面会を要求する
3)利益供与、またはその申し込みや約束......金銭や物を与える、その約束をする
これらを「手なずけ行為」といいます。
罪が成立した場合、1年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金に処せられます。
さらに、1~3の結果、わいせつ目的で実際に面会した場合は、2年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金に処せられます。
また、性的な写真や動画を撮影して送るよう要求した人も処罰されます。その場合は、1年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金に処せられます。
要求しただけ、会っただけでも処罰される
1~3によって「会うことを要求した」だけで、まだ会ってなくても処罰されます。その後に面会し、「会ったけれど、わいせつ行為は行われていない」段階であっても処罰されます。つまり、16歳未満の人が「まだ性被害にあっていない」段階でも、加害者は処罰されます。
その実質的理由としては、このような手なずけ行為によって面会した結果、性被害にあう事例がたくさんあるからです。それを防ぐために、面会する前の手なずけ行為を処罰できないか、ということが議論されていました。
その結果、「16歳未満の者が性被害にあう危険性のない状態、すなわち性被害にあわない環境にあるという性的保護状態」を保護法益として、性犯罪に至る前の行為が処罰対象とされました。
【解説】「手なずけ行為」とは?
「手なずけ行為」とは、「希望する学校に行けるように関係者を紹介するから会おう」などと嘘をついて会うことを要求したり、「おこづかいをあげる」「家に帰りたくないなら泊めてあげる」などと、利益を与えることで面会するなどの行為をいいます。
子どもたちには、このような手口で性的行為をしようとする大人がいることを知っていてもらいたいと思います。
事例
【CASE】中学生です。「アイドル目指して、ダンスと歌を頑張っています!」とSNSに投稿したら、有名なアイドルのプロデューサーをしているという男性からメッセージが届きました。「顔と全身がわかる写真を送って」と言われたので何枚か送ったところ、「とてもかわいくてスタイルもいいね! 頑張ってレッスンすればデビューできるかもしれないよ」という返信が。それからやりとりを続けるうちにある日、「歌とダンスの実力を確認したい」と言われ、ホテルの一室で会うことになりました。「まだ親には内緒にしてね。デビューが決まったらサプライズしよう」と言われました。行っても大丈夫ですよね?
【ANSWER】
とても危険です。その男性が、本当に有名なアイドルプロデューサーなのかもわかりませんし、仮に本物だとしても、中学生と会うのであれば親に連絡を取って「保護者付き添いでお願いします」とお願いするのが、常識ある大人として当然の振る舞いです。
歌とダンスの実力を確認するために、「ホテルの一室」が適切だとも思われません。面会要求等罪の「偽計を用い面会を要求すること」に該当する可能性が高いです。
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【CASE】小学6年生の女子です。中学受験の勉強に行きづまって「誰か勉強教えて」とSNSでつぶやいたら、大学4年生のお兄さんと仲良くなり、メールなどで勉強を教えてもらって成績も上がりました。「お礼がしたい」と言ったら「裸の写真を送ってくれたら嬉しいな」と返事がきました。お世話になっているのでお礼に送ろうと思います。
【ANSWER】
絶対にやめてください。その画像をなにに使われるのかわかりませんし、「裸を見たら会いたくなった」などと言われて会いに行ったために、性被害にあうおそれがあります。勉強を教えたお礼に、小学生に裸の写真を要求するのは、まともな人ではありません。
【ポイント】写真からは思った以上の情報がバレる
SNSは「公共の場所」です。公開しているかぎり、誰もがその投稿を見ることができます。その中には、投稿から得られた情報を悪用しようとする人もいます。
SNSで自分の情報を投稿することは、個人情報を街中でばらまくのと同じです。自分が写っていなくても、写りこんでいる風景から、自宅やふだん立ち寄る場所などの位置情報を把握されてしまう危険もあります。制服姿であれば、学校は簡単に特定されてしまいます。
「家族でこれから海外旅行」などと書くのは、家を留守にすることを世間に知らせることになり、空き巣に狙われやすくなります。
インターネット上に投稿された女性の写真を見て、瞳に写りこんだ風景からその女性の自宅を割り出し、自宅に侵入して強制わいせつ致傷の被害を与えたという事件も発生しています。
写真だけでなく、自身についてのなにげないさまざまな書き込みから、住所、職場、経歴などが特定され、インターネット上で晒されるというケースもあります。
このような危険を回避するために、閲覧できる人を限定することも一つの方法です。
しかし閲覧できる人があなたの個人情報を拡散するおそれも否定できません。自分が意図した以上の情報を他者が特定して悪用するかもしれないという意識を持つ必要があります。
著者:上谷さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。
※本記事は上谷さくら著の書籍『新おとめ六法』から一部抜粋・編集しました。
著=上谷さくら イラスト=Caho/『新おとめ六法』