「母親なんだから子どもを守らなきゃw」息子の不登校に友人たちは半笑いでアドバイス【著者に聞く】


ある日突然学校に行かなくなった中学生の息子。理由も言わず部屋に閉じこもり、親との会話を拒む息子に、母親の胡桃は戸惑います。夫に相談しても寄り添ってくれず、上から目線で胡桃を責めるだけ。思わず高校生の娘に愚痴をこぼすと、「パパに直接言えないからってグチるのやめて」「ママみたいになりたくない」と拒絶されてしまいました。


友人に相談しても「胡桃甘いよ」「世間知らずなんだから」「心配だよ〜」などどこか半笑いで言われる始末。胡桃は弱音を吐くこともできず、どんどん追い詰められて…。
誰にでも覚えのある、地味だけれど確実に心が削られていく瞬間
――主人公の胡桃が少しずつ追い詰められていく描写が印象的でした。彼女の「つらさ」を描いていて、とげとげ。さんが一番思い入れのあるシーンはどこですか?
とげとげ。さん:一番思い入れがあるのは、物語前半で子どものことで思い通りにいかず、母としての自信を少しずつ失っていく胡桃のシーンです。子育ては思い通りにならないことの連続で、「自分のやり方が間違っているのではないか」と感じてしまう瞬間があります。そうした不安や無力感は、多くの親がどこかで経験するものではないでしょうか。描いていても、どうしても自分の感情と重なる部分がありました。


もうひとつ印象に残っているのは、息子の不登校を相談した友人との会話の中で「そうだよね、私ダメダメで」と胡桃が笑顔で自虐的な発言をする場面です。一見すると軽い冗談のようですが、実は相手に媚びる気持ちや、傷つけられる前に自分で自分を下げておくという防衛の意味が込められています。誰にでも覚えのある、地味だけれど確実に心が削られていく瞬間だと思います。そうした小さな傷の積み重ねも、胡桃の「つらさ」を形作る大切な要素として描きました。
――胡桃の夫は、正論を言うだけで妻の孤独や息子の苦しみに寄り添わず、家族と対話をしません。この胡桃の夫をどのようなキャラクターとして描きましたか?
とげとげ。さん:胡桃の夫は、決して悪い人として描いたわけではありません。むしろ、どこにでもいそうな人物として描きたいと思いました。彼は「強さ」や「賢さ」を大切にする、いわゆる昔ながらの男性らしさを重視して生きてきたタイプです。

彼の価値観の中では、つらい状況にある人の気持ちに寄り添うことや、感情を言葉にして対話することが、どうしても後回しになってしまう。本人に悪気はなくても、結果として相手を孤独にしてしまうことがあると思います。
そうした性格は、生まれつきというよりも、育ってきた家庭環境や友人関係、社会の中で「こういう人がかっこいい」「こういう振る舞いが男らしい」と学んできた経験によって形作られている部分も大きいのではないでしょうか。だからこそ、特別にひどい人物ではなく、むしろ多くの人の中にある価値観を体現した「よくいる人」として描きました。
* * *
夫は悪人ではないけれど、決して寄り添ってはくれない。
友人の助言は正論だけれど、半笑いで心を追い詰めてくる。
そんな小さな傷の積み重ねが、やがて取り返しのつかない「心のひび割れ」となっていきます。そんな胡桃が求めた「心のよりどころ」は、果たして再生への道標となるのでしょうか。
人生の後半戦で誰もが直面し得る、言葉にできない孤独と心の揺らぎ 。その生々しい輪郭を真正面から描き出す本作は、綺麗事では片付けられない「現代夫婦のリアル」を静かに映し出しています。
取材・文=レタスユキ
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