「なぜ感謝しない?」と嫌がる妻を追いつめた過去。「自分が良かれと思っていることこそが加害だった」と気づいたモラハラ夫の後悔【著者に聞く】
※この記事ではモラハラ行為について具体的に触れています。フラッシュバック等の症状のある方はご留意ください。

妻と子どもが突然家を出てしまっても現実を受け入れられない「モラハラ夫」の後悔を描いたコミックエッセイ『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』。原作者の中川瑛さんもまた、かつて妻に自分のやり方を押し付け、「あなたのため」と責め立てる「悪意のないモラハラ」で夫婦の危機を迎えた当事者の一人でした。
現在は、大切にしたいはずのパートナーや仲間を悪意なく傷つけてきた人々が集まり、お互いをケアできる関係を作る能力を身につけるためのコミュニティ「GADHA(Gathering Against Doing Harm Again)」を主宰されています。
自らの過ちに気づきコミュニケーションを見直した中川さんに、当時の生々しい行動や変化のきっかけについてお話を伺いました。
中川瑛さん「相手を傷つけてしまうことが多々ありました。道を歩いている時に声もかけずに渡っておきながら相手がついてこないと目的地に行くのをやめたり、オンラインでの会議が長引いたことでパートナーの予定を邪魔してしまった時にも『時間を伸ばしたくて伸ばしてるわけじゃない』と謝らなかったり……自分が自己愛性パーソナリティ障害ではないかと思って本を色々読んだのですが、これをパートナーにも勧めたら、全然読んでくれないことに怒り、いきなりゴミ箱に捨てたこともありました。書き切ることは決してできないほど、典型的な『モラハラをする側』の当事者でした」

そんな中川さんは、いつ自分がパートナーを傷つけていたことに気づいたのでしょうか。
中川瑛さん「いくつかのタイミングがありますが、一番大きかったのは、『自分が良かれと思っていることこそが加害であり、相手を傷つけ、関係を壊している』ことを自覚した瞬間でした。
パートナーの才能を信じ、それを開花させるための全てをしたつもりでした。自分自身が持っている能力をフルに発揮することで、成果も出て嬉しかった。望まれてもいないノルマを課し、勝手に販売経路を立ち上げ、顧客との交流を強制し、それを嫌がられたら『こんなに頑張っているのに』『あなたのため』と責め立てていたのです。
妻の『嫌だ』『やりたくない』に、『なぜ感謝しない?!』『あんなに頑張ったのに』『誰のおかげだと思ってるの?』と言っていました。『心の底からパートナーのためだと思っていたこと』は、徹頭徹尾、すべて、頭から爪先まで、結局『自分のため』だったのです。それは、紛れもない『モラハラする側の当事者』でした」

その後、中川さんは夫婦関係の再構築のために、既存の加害者向けプログラムや発達障害をはじめ、幅広いジャンルの文献を読んで学びながら、パートナーとのコミュニケーションを変える努力をしていったそうです。現在の夫婦関係はどのような状況なのでしょうか。
中川瑛さん「いまはお互いがお互いの安全基地だね、と言い合える関係を生きています。クリスマスやお正月を手放しに楽しみに思っていただけるようになりました。昔は旅行やイベントごとがあるとかならず自分がイライラして何らかトラブルになっていましたが、いまはもう全くありません。
元々はお互いに魅力や愛情を感じて生きていたわけですが、浮き沈みが激しかった。その沈みがなくなってしまったら、あとは楽しくて、穏やかで、幸せで、安心した生活だけが残っています。こんな関係が現実に可能なんだと時々本当に驚きます。これまでの人生において、誰かとそんな関係を作れたことは一度もなかったからです。これが安心してくつろぐことのできる関係を生きることなんだなあと日々実感します」
とはいえ、モラハラ当事者が自身の行為に気づいて、夫婦関係を円満に回復する例は稀とのこと。こうして夫婦の関係を修復した中川さんでさえも、セミフィクションコミックエッセイ『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』のコラムでは、「加害者に対して関係の改善を働きかけること」よりも、まず「被害者は自分自身の安全を確保すること」を優先するよう呼びかけています。
中川瑛さん「モラハラの被害に遭われている方は、できるだけ早い段階で被害者の方々の当事者団体、支援団体などにアクセスすることが重要です。関係改善のためのコミュニケーションや、実際に離婚や別居に至るまでの段階で、相手の言動が激化することが予想される場合や、ストーカー化するリスクが高い場合があります。命の危険に繋がることもありえますから、まずはどうかご自身の安全を第一にお考えください」
その上で、ご自身も当事者であった中川さんはこう語ります。
中川瑛さん「ただ、人は誰でも変わることができる。そのためには、自分のコミュニケーションが人を傷つけていたらそれを認め、学ぶ必要があります。『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』を読んで、”まさに自分のことが描かれている”と思ってGADHAに参加する方々もどんどんきています。学び変わるための受け皿がある上で、こうした傷つけた側の変容の話を書くことができたことは本当に良かったと思います。この受け皿なしには、ある意味では無責任な物語にもなったと思うからです」
取材=ナツメヤシコ/文=レタスクラブ編集部N
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