「なに甘えてんの?」妻へのモラハラで離婚確実だった当事者が、自らの過ちを認めて行動を改めるまで。『99%離婚』シリーズの著者に聞く
モラハラ当事者の視点で描かれた話題作『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』に続編が登場。原作者・中川瑛さんと漫画家・龍たまこさんが贈る第二弾『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』は、父親のモラハラが原因で決別した親子のそれぞれの思いをリアルに描き出しています。
この作品の原作者は、ご自身もモラハラの当事者だった経験から、パートナーや仲間をDVやモラハラで苦しめてきた人々の『変わりたい』という願いをサポートするコミュニティサービス『GADHA』を立ち上げた原作者の中川さん。
そんな中川さんと、漫画化を手掛けた龍さんに、2022年に発表したシリーズ第1作『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』への反響を伺いました。
シリーズ第1作『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』あらすじ
旧帝大卒で大手商社勤務、話し上手でユーモアもあり頭も切れる…。そんな理想的な男性・翔と結婚した妻の彩。しかし結婚後はどんどん態度が横柄になっていき、子どもが生まれてからも態度はキツくなる一方。彩なりに「良き妻」であろうと努力をしたものの、翔には見下されて馬鹿にされ…。
ある日、彩は熱を出してフラフラになり、娘の風呂を翔に頼みますが、「家のことはお前の仕事」「常識のない専業主婦は困る」と突き放され、翔から心が離れてしまうのでした。夫の態度がDV・モラハラにあたると気付いた彩はついに家を出る覚悟を決めます。
ある日翔は帰宅して、彩が娘を連れて家を出たことを知ります。はじめは妻の行動に憤り、荒れた生活を送っていた翔ですが、少しずつ自分のしてきたことを省みるようになります。
しかしそれでも、自分のしてきたことがモラハラであったことを認めるまでには、長く激しい葛藤が続きました。翔はモラハラ当事者の自助コミュニティに参加して、自分をみつめなおし、関係性を改善しようと必死にもがくのですが……。
大きな反響を呼んだこのシリーズ第1作『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』について、コミカライズを担当した漫画家の龍たまこさんと、原作者の中川瑛さんに振り返っていただきました。
著者インタビュー
──シリーズ第1作『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』はモラハラ当事者の心理を描いて話題となりましたが、発売後の読者の反応などいかがでしたでしょうか。
龍:反応は様々で、「自分もモラハラ・DVに遭ってきた」「うちの夫(父)のことかと思った」「今どきこんな昭和な夫いるわけない」という声や、「スカッと系だと思って読み始めたら加害者心理がしっかり描かれていて、いい意味で裏切られた」と言う声が多く聞かれました。
意外にも女性側から「自分も同じ事をしていないか、振り返るきっかけになった」という意見も多かったです。男性は手に取りにくいだろうな、と思っていましたが、意外と男性からの感想も多く見られました。思っていたより凄い反響で驚きました。
──原作の中川さんはいかがですか。
中川:加害者側の心理を描いて多くの話題を呼んだことに対し、非常に嬉しく思っています。Amazonのレビューが1000件を超えた際には、加害者変容についての内容がこれほどまでに多くの方に届くとは思ってもみなかったため、驚きました。表紙のイメージから、最近流行の復讐劇や加害者が報いを受ける物語、いわゆる『ざまぁ系』の作品だと見なされがちだったと思います。
しかし、実際には読者から「全然違う結末になって驚いた」「感動した」「DVの根本的な解決には加害者の支援も重要だ」といった肯定的な反応を得られたことが、非常に嬉しかったです。私が伝えたかったのは、「加害者は変わることができる」というメッセージでした。
──モラハラでパートナーを苦しめた側の心理を描いた作品でしたが、読者には好意的に受け止められたのですね。
中川:はい。しかし、漫画にも繰り返し書いてある通り、被害者には加害者を支援する義務や責任はなく、加害者が必ずしも変わるわけではないという点には注意が必要です。その点を指摘するコメントも多くありました。「逃げるべきだ」とか「こういうのはほとんどありえない」といった意見もあり、それは重要な指摘でもあると思っています。
どうしてもDVに関する情報は、「変われない」「すぐ逃げる方が良い」といった、被害者支援のための文脈が多かったです。それはもちろん被害者支援のためには重要な情報ですが、加害者にとっては孤立や差別を招く状況に感じられ、加害を認めず変われないという状況も生み出していたと思っています。
──読者からの反響で、特に嬉しかったものはなんですか?
中川:一番嬉しかったのは、『99%離婚』を読んだことでGADHAに参加するようになった方が非常に多かったことです。発売から1〜2ヶ月で、この作品を読んでGADHAに参加したという方が100人近くいらっしゃいました。その後も、参加者の参加経路を伺うと99%離婚が関連することが非常に多くなりました。
モラハラやDV加害者として検索していて見つけて読んだら「自分も変われるかもしれない」と思って参加した人もいます。パートナーにこの漫画を読むよう勧められた人が、半信半疑で読んだら「まさに自分だ」と気づけたという事例もたくさんあります。加害者にとって受け止めやすい、加害者が変わる過程や、変わった後にどのような幸福が待っているかを描いたことが、この作品の大きな価値であったと考えています。
──作品を読んで、実際にDVやモラハラを改めようとした人々が現れたということですね。
中川:加害者の変容は、非現実的に思えたり、難しいと捉えられがちですが、この作品が、モラハラやDVについて知り合いやパートナーに読むことを勧められる一つの手段となり、社会に新たな価値をもたらしたことを大変嬉しく思っています。加害者の変容に関する情報に気軽に触れられるコンテンツを、手に取りやすい形で提供できたことが、非常に良かったと感じています。
* * *
モラハラからの更生と家族の再構築を描いた第1作の反響を受けて、先日発表されたシリーズ第2作『99%離婚 離婚した毒父は変われるか』では、絶縁した後の親子それぞれの状況を描いています。それぞれに後悔や苦悩を抱える父と娘の姿を通して、モラハラやDVが残す心の傷について考えてみませんか。
著者プロフィール
◆漫画:龍たまこ
3人の子どもを育てるマンガ家。1981年生まれのシングルマザーで、保育士の資格を持つ。ライブドア公式ブログ「新・規格外でもいいじゃない!! 〜シングルマザーたまことゆかいな子ども達〜」をほぼ毎日更新中。著書に『規格外な夫婦 〜強迫症夫と元うつ病妻の非日常な日常〜』(宝島社)、『母親だから当たり前? フツウの母親ってなんですか』(KADOKAWA)がある。
◆原作:中川瑛
モラハラ・DV加害者変容に取り組む当事者団体「GADHA」代表。妻との関係の危機から自身の加害性に気づき、ケアを学び変わることで、幸せな関係を築き直した経験から団体を立ち上げる。現在は加害者個人だけではなく、加害的な社会の変容にも取り組んでいる。著書に『孤独になることば、人と生きることば』(扶桑社)、『ハラスメントがおきない職場のつくり方~ケアリング・ワークプレイス入門』(大和書房)がある。また「GADHA」のほかに、「変わりたい」と願う毒親のためのコミュニティ「PaToCa」や、「変わりたい」と願う職場での加害者のためのコミュニティ「CoNeCa」の代表を務める。
取材=ナツメヤシコ/文=レタスユキ
Information
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