ゲイである自分と周囲の女性を描く。息子につらく当たる母親が抱えていたものとは【もちぎさんインタビュー】
2018年10月、SNSに彗星のごとく現れた作家・もちぎさん。ゲイとして生まれ、さまざまなことを経験してきたもちぎさんは、非常にフラットでやさしい眼差しを持っています。そんな目線から生み出されたエッセイやコラムは読者の胸を打ち、瞬く間に人気作家へと上り詰めました。
6月26日には待望の新刊を発表。タイトルは『あたいと焦げない女たち』。そこで描かれるのは、もちぎさんとその周囲にいる女性たちとの、新しい形のシスターフッドです。
これまでの作品とは異なり、今回はなぜ「周囲の女性たち」に焦点を当てたのか。本作に込めた思いを、もちぎさんにお聞きしました。
『あたいと焦げない女たち』あらすじ
女性の人生は結婚や出産だけで決まるものではありません。しかしながら、「それ」で決まったとハッキリ言う人がいます。もちぎさんのお母さんです。彼女はなぜ、そう考えるに至ったのか。本作ではまず、もちぎさんの「周囲の女性たち」の代表例として、お母さんの半生が掘り下げられていきます。
関西の商家に生まれ、いわゆる「お嬢さま」として育ったもちぎさんのお母さん。その人生は、高校生で妊娠したことで、少しずつ変わっていきます。同じく若くして父親になった男性とともに、無鉄砲だけで生きているような日々。やがて彼女は、二人目の子どもを妊娠します。そう、それがもちぎさんです。
その後の人生は、お母さんにも予測不可能な方向へと転がっていったのでしょう。次第に彼女は、もちぎさんにきつく当たるようになっていき、もちぎさんのアルバイト代も巻き上げるようになっていきます。高校3年生の冬、母親にきつくなじられたもちぎさんは、卒業を待たずに家を飛び出したのでした……。
以降、本作では、「リア友にカミングアウトされた女性」や「ゲイの息子がいる女性」など、さまざまな女性たちが登場します。彼女たちとの交流を通して、もちぎさんはなにを思うのでしょうか。
「母親」について、ひとりの人間として描いてみたかった
――もちぎさんはこれまで、ゲイの仲間との交流から見えてくるものを描かれてきましたが、今回の作品では周囲の「女性たち」にスポットライトを当てた理由を教えてください。
もちぎさん:昨今、女性が直面している社会構造や、LGBTを含むあらゆる性的マイノリティについて、ニュースや作品で取り上げられることが増えてきました。そのなかで描かれるようになったのは、たとえば「男性」と「女性」のように属性の違いによる隔たりがあったとしても、共通項を見出すことで連帯できる、ということです。それはゲイバーで見られるゲイと女性客との関係にも近いと思い、あたいもいま、改めて描くべきだと思いました。
――第一話で描かれている「女性」は、もちぎさんのお母さまについてです。過去にもお母さまとも確執を描かれてきましたが、本作では彼女の生い立ちや内面がとことん掘り下げられています。
もちぎさん:いままでは、息子から見た「母親」の姿を描いてきました。でも母親も「母親」である以前にまずひとりの人間であり、あたい自身も彼女の子どもであると同時に、ひとりの人間です。そのため今回は、ひとりの人間として、母ちゃんという人が母親になるまでの過去を俯瞰して描きたいと思いました。それが、これまで母ちゃんのことを描いてきた果ての、ひとつの誠意だとも思ったんです。
――もちぎさんのお母さまは「アタシは女やからできへん」と、性別役割分担に縛られてきたように見えます。
もちぎさん:あたいもある程度は「ゲイであること」「ゲイだからこそ」という選択をしてきたと思っています。それに、もしもネットがない時代なら、もっと迫害されていた時代なら――と思うと、いまみたいに確固たる自分は存在しなかっただろうなとも考えます。同様に、母ちゃんだって時代によって培ってきた捨てきれないもの、当たり前だと思うものをたくさん抱えていたのかもしれません。
「思い込み」によって縛られている女性を見て
――第二話に登場するのは、学生時代に友人からゲイであることをカミングアウトされた女性です。長女気質な彼女は、そのゲイの友人に対して「なにかしてあげなきゃ」と思い込み、義務感に駆られて悩みますね。
もちぎさん:「こうあらねば」と考えている人に対していきなり「そうしなくてもいいんだよ」と伝えても、「やらなければいけないことを放棄する」という良心の呵責や後ろめたさが生まれてしまうと思うんです。だから、なにかに縛られている人に正論をぶつけるのは酷だし、そもそもそれが正論なのかもわからない。ただ、生きていれば誰にだって思い込みは付きまといますし、それが「思い込みだ」と自覚さえできれば、少しずつその呪いを捨てて、割りかし自分に合った呪いを選んでいけるようになるんじゃないか、とも思います。
――第三話以降も「同性愛者の母親たち」や「同性愛者と婚約していた過去を持つ飲み屋の姐さん」など実にさまざまな女性が出てきますが、彼女たちの姿を描いて気付いたことはありますか?
もちぎさん:描けば描くほど、こんなにもいろんなことを話してくれる人たちの感情のなかにも、簡単に「理解できるよ」とは言えないものがあるんだなと感じました。当たり前なんですけどね。それをあらためて自覚するまでは、「属性が違っても理解し合える」という身勝手な希望を持っていたような気もします。あたいも日々、成長中ってわけです。
――最後に、新作を待ち望んでいたファンの方々へのメッセージをいただけますか?
もちぎさん:多分あたいは死ぬまで、自分の考えや周りから聞いた話を描き続けると思います。もちろん、読者としてそれを一生懸命追いかけなくてもいいけれど、気付いたときに、あるいはふと必要かなと思ったときに、あたい節を摂取してくれたら嬉しいです。そういう読者さんがいることで、あたいも描き甲斐を感じますから。
***
属性の違いは、ときに分断を生じさせます。それによって、相手のことを「わからない」「理解できない」と諦めてしまうこともあるでしょう。しかしながら、たとえ理解が難しくても、側にいることはできる。完全にわかり合えなくとも、寄り添うことはできる。本作からは、そんなやさしいメッセージが伝わってくるようでした。
取材・文=イガラシダイ
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