異常な執着心と独占欲。妻に依存するモラハラ夫の不気味さと狂気を描く【著者インタビュー】

『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より

どこにでもいそうな“不器用で優しそうな夫”。
だけどそんな一見気弱そうな人が、妻への執着や支配欲から、外から見えない家庭の中では異様な行動を取ることも…。

漫画家・前川さなえさんの新作『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』は、取材に基づくセミフィクションです。過剰に妻に甘えたがり、謎の自分ルールを妻に強要するモラハラ夫と、その言いなりになっていく妻の様子を描きながら、ふたりの関係性が変化していく様子を異色のホラータッチで描いていきます。

今回はそのあらすじと、作者の前川さなえさんのコメントを紹介していきます。

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『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』あらすじ


『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より

主人公あすかの夫・和史は、婚約した頃から独占欲を見せはじめ、あすかに男友だちの連絡先を消去させ、スマホの位置情報の共有を求めていました。結婚後も妻が友人とその夫を家に招いたことに怒り出し、「ボクが嫌だと思うことは絶対にしないで」と強く命じることがありました。

『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より

あすかが出産して新生児のお世話に追われている時でも、和史は自分が後回しにされると拗ねて不機嫌になり、常に「自分が一番」でないと気がすまない様子でした。何気ない会話に突然キレはじめることも多いため、夫婦の会話はどんどん減り、あすかはワンオペ育児を加速させていきました。

『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より

ある時、あすかが公園で次男に振り回されている間に、長男から目を離してしまうことがありました。「母親失格だ」「あすかはダメな母親なんだからボクが監視してあげないと」と、ここぞとばかりに和史の要求はエスカレート。あすかのスマホを毎日チェックし、LINEの使用時間も制限、さらに外出禁止令を言い渡します。

『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より

あすかが外に出て働きたいという気持ちを抱いていることに気づいた和史。「働くなんてさせないよ」と、スーパーでうずらの卵を買ってきて、あすかに孵化させるように命じます。その場をしのぐために言われるままにうずらの転卵を始めたあすかでしたが、あろうことか卵がすべて孵化してしまいました。

『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より

あすかは家事育児に加えて、たくさんの雛鳥たちの世話に追われることになり大忙し。妻に構ってもらえなくなった和史は、子どもだけでなくうずらにも対抗するようになり、うずらの飼育ケースに入ってうずらの真似をするなど奇怪な行動を取るようになっていきます。

『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より

次第にうずらの飼育部屋にこもる時間が増えていく和史。うずらのケースに入っている間はキレることも怒鳴ることもないため、明らかに異常ではあるもののあすかはこの状況を受け入れるようになっていくのでした。やがて和史はうずらの鳴き声以外の言葉も発さなくなって…。


作者・前川さなえさんインタビュー


――あすかの夫・和史は、妻にモラハラ的な言動をする一方で、まるで子どものように「自分にかまって欲しい」という気持ちをあの手この手で表現しています。この和史というキャラクターを造形するにあたって、こだわったことや気をつけたことはありますか?

前川さなえさん:和史のモラハラ行動の根っこは「あすかに愛されたい」という強い思いであって、サディスティックな嫌がらせではないんですね。あすかを苦しめることで喜んでるわけではない。そこはブレないように気をつけました。幼稚な行動や神経質な部分も、子ども時代の回想編で「どうしてこうなったか」が描けたかと思います。結構かわいそうな人なんです、和史も。

『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より

――和史はつわりに苦しむ妻のあすかに向かって「そんなに辛いんなら妊娠やめたら?」と悪気なく言ったり、二人目を生んで子どもの世話に追われるあすかに「やっぱり子ども2人なんて無理だったよね」「産まなければよかったんだよ」などひどいことを言い放ちます。和史のこれらのセリフについてはどのように考えながら描きましたか?

前川さなえさん:長男を妊娠したときの「妊娠やめたら?」は和史が“相手の気持ちを考えることができない”ことがうかがえるシーンです。これ、和史は本気で、なんならあすかのためを思って「妊娠をやめればいい」と思ってるんです。でも妊婦側からは一番タブーなセリフですね。ここは描いててもムカついた場面です。

一方、2人目出産後の「産まなければよかった」あたりは、子どもにつきっきりになっているあすかに対しての苛立ちが出てきて、余裕がなくなっての発言です。こうして徐々に和史もモンスター化していったわけで…。

『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より

 『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より


――和史のあすかへの執着心や独占欲があらわになるシーンは、どれもゾッとするような気持ち悪さで描かれていますが、和史には具体的なモデルやイメージする俳優さん、あるいはキャラクターなどはいますか?

前川さなえさん:私世代だと「妻に執着する夫」といえば冬彦さん(※編集部注:1992年のドラマ『ずっとあなたが好きだった』で佐野史郎さんが演じ話題となったマザコン夫)が浮かびますが、だからこそ冬彦さんに寄せてしまわないようにとキャラクターデザインしたつもりなのに、神経質、マザコン気味、理屈っぽい…とかの性格付けをしていったらやっぱりちょっと似ちゃいました(笑)
「支配的な夫」像は映画『失楽園』の柴俊夫さんの演技を参考にしました。

『うずら男〜モラハラかまって夫が人間をやめるまで〜』より

――夫婦間のモラハラを描いた漫画と思って読んでいたら、終盤は次第にホラー作品のような雰囲気になっていくのに驚きました。夫・和史の表情にゾッとする場面がいくつかありますが、前川さんが一番気に入ってる表情はどれですか?

前川さなえさん:終盤、「あ、壊れた」とわかるコマがあって、もはや人間というより…な表情がうまく描けたと思っています。おどろおどろしい影のつけ方は、楳図かずお先生のホラー漫画などを読んで勉強しました。

   *   *   *

作中に登場するモラハラエピソードの多くは、取材で聞いた実話だと語る前川さん。異常な執着心と独占欲の果てに、和史はやがて“人間”であることを手放していきます。少しずつ静かに壊れていく彼が最後にどうなってしまうのか――、ここから先は、ぜひご自身の目で確かめてください。


取材・文=レタスユキ

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