38歳塾講師による16歳女子高生への加害。チャイルドグルーミングの背景にあるもの【著者インタビュー】

近年、教師や指導者による性加害の報道が後を絶ちません。指導を装って身体に触れたり、SNSなどで個人的に連絡を取ったり、盗撮をしたりなど、さまざまな被害が報じられています。
中でも近年注目を集めているのが「チャイルドグルーミング」。これは性的虐待を目的に子どもとの信頼関係を築いて手なずける行為で、その手口はとても巧妙です。子どもは「先生を信じていたのに」と自分を責めてしまうことも多く、被害が表に出にくいのが現実です。
このようなグルーミングの手口を描き、いま注目を集めているのが、今年4月に発表されたコミックエッセイ『娘をグルーミングする先生』です。つけ込む隙のありそうな生徒をターゲットとして選び、少しずつ距離を縮めて信頼を得て、身体への接触に慣れさせていく…。そんな卑劣な塾講師や、被害者の女子高生と母親などの関係性を丁寧に描写しています。
この作品のあらすじをご紹介し、登場人物たちの背景について著者ののむ吉さんに伺っていきます。
『娘をグルーミングする先生』あらすじ

主人公の佐倉真美は、高校1年生の小春を女手一つで育てています。ある日、小春の成績が落ちていることに愕然とした真美は、小春を塾に通わせることにしました。しばらくすると成績も上がっていき、真美はすっかり安心していました。

一方小春は、仕事の忙しい母親と話す時間も取れず、母親に期待することを諦めて孤独を抱えていました。

そんな時に通い始めた塾の森先生が優しく指導してくれること、いつも見守ってくれていることに安心し、期待に応えたいと頑張って勉強するようになります。

もともと家でひとりで食事をすることが多かった小春は、塾に残って森先生とふたりきりでおにぎりなどを食べるようになっていきました。悩み事を相談するうちに親密になり、何気なく森先生が小春の手に触れることもありました。小春は次第に先生に惹かれ、連絡先を交換して交際状態になります。

小春は、小言ばかりの母親に嫌気が差したことをきっかけに、付き合っている人に会って欲しいと母親に告げます。「私には先生がいるから、母はもう私のことを心配しなくていい」と伝えるためでした。

しかし、16歳の娘と22歳も年の差がある森先生が挨拶に来たことで、母親の真美は驚愕します。「ゆくゆくは結婚も考えている」という森先生に対して、真美は思わず「ふざけないで!」と叫んでしまい、母娘の関係は悪くなってしまうのでした…。
ここからは、この作品の登場人物たちについて、著者ののむ吉さんにお話を伺っていきます。
著者・のむ吉さんインタビュー
――グルーミングの手段が巧妙で、子どもを持つ親としては読んでいて怖かったです。主人公の真美はシングルマザー、女手一つで娘を育てるために懸命に働いていますね。彼女をどんな人物として描きましたか?
のむ吉さん:
「一人親だからといって、娘に不自由な思いはさせたくない」と小春のためを思い、あくせく働くお母さんです。しかし小春のためといいつつ、一人で立派に子育てをしていることを周囲に認めてほしいと躍起になっている側面もあります。
彼女自身も、幼少期に親から認めてもらえず、進学を諦め悔しい思いをした経験があります。そのため、小春にはそんな思いをさせたくないという気持ちが強く、進学費用を稼ぐために一生懸命です。こうと決めたら一直線なところがあり、時には周りが見えなくなることもありますが、根底には小春に幸せになってほしいという思いがあります。

――仕事に追われる母親に話を聞いてもらえず、娘の小春はだんだん寂しさを募らせていきます。どちらも悪くないのに、すれ違ってしまうふたりを読んで切なくなりました。ここで描きたかったことを教えてください。
のむ吉さん:
真美は「小春のため」という一心で一生懸命働いています。ただ、小春の将来を見つめるあまり、今の小春の気持ちに目を向けられず、結果的に寂しい思いをさせてしまいます。一方、小春はそんな母親の気持ちを受け取らないどころか、押しつけがましいとさえ感じています。また母に気を使いすぎて、うまく本音を伝えることができません。
お互いがお互いのことを思っているのに、すれ違っていくやるせなさを描きたかったです。
――そんな小春の寂しさにつけ込むように、塾の塾長である森先生が近づいてきます。森先生がおこなったチャイルドグルーミングを描くにあたって、気を付けた点などあったら教えてください。
のむ吉さん:
今作の監修をしてくださった斉藤章佳先生の著書を参考に、グルーミングの手順を読者の方へ分かりやすく描くよう心がけました。また、森先生がただの優しい先生となってしまわないよう、随所にグルーミングの意図を滲ませるよう気を付けました。

――森先生のチャイルドグルーミングは、小春がはじめてではなく、過去にもトラブルを起こしたことが中盤で発覚します。森先生をどんな人物として描きましたか。
のむ吉さん:
森先生は一見優しく寄り添ってくれるいい先生ですが、それはグルーミングという企みがあるからこそ。自分の意図を妨害しようとする存在に対しては冷酷でもあります。森先生は、作中でグルーミングを「慈善事業」と称しています。彼は「子どもに寂しい思いをさせる親が悪い」「子どもの寂しさを埋めてあげているだけ」と自分を正当化しています。
本作の中で森先生の幼少期を描いていますが、彼は常に孤独であり、心から誰かと向き合ったことがありません。そういった経験から彼の認知は歪んでしまっています。彼は自分自身を振り返ることはなく、今後も同じことを繰り返していってしまうのだろうと思います。

――真美はグルーミングされている娘と森先生をどうやって別れさせたらいいのかと思い悩みます。このような状況になったとき、どうするのがいいのか。のむ吉さんのご意見をお伺いさせてください。
のむ吉さん:
グルーミングのターゲットとして狙われやすい子の特徴に「孤独を感じている」ことが挙げられています。孤独を感じている子どもは話を聞いてくれる大人に依存しやすく、また孤独であることから被害も表面化しにくいです。被害に遭わないためには、日頃から親子間でコミュニケーションを取り、子どもが相談しやすい環境を作ることが重要だと考えています。
真美のように、すでに娘がグルーミング被害に遭ってしまっているという場合には、子どもと向き合い、心配しているということを伝え続けることが大切だと思います。そして必要な時にはワンストップ支援センターなどへ連絡し相談するのも良いと思います。

* * *
グルーミングの被害に合わないためには、日頃から親子で安心して話せる関係を作ることも大切です。また本書のような作品でグルーミングの手口を親子で知っておくことも、対策のひとつになるでしょう。それでも、もし子どもが性被害にあったかもしれないと感じたときは、ひとりで悩まずワンストップ支援センターに相談してみましょう。早めに相談することが、子どもを守る第一歩になります。
ワンストップ支援センター:全国共通短縮番号 #8891(はやくワンストップ)
取材=ナツメヤシ子/文=レタスユキ
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