障害のある兄弟姉妹を持つ「きょうだい児」の苦しみ。話題作『妹なんか生まれてこなければよかったのに』【著者に聞く】

公開
更新
『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

「いつもあいつのせいで幸せになれない――」

障害のある兄弟姉妹を持つ子ども“きょうだい児”が抱える孤独や葛藤を描いたコミックエッセイ『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』。“きょうだい児”の当事者への取材をもとに構成されたセミフィクション作品で、今、大きな反響を呼んでいます。

著者のうみこさんは、社会福祉士の資格を持ち、福祉の現場で障害者やその家族に関わってきた経験をお持ちです。今回は、そんなうみこさんに、作品誕生のきっかけと、取材を通して見えてきた“きょうだい児”たちのリアルな声について伺いました。

【マンガ】『妹なんか生まれてこなければよかったのに』を最初から読む

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』あらすじ


『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

「あなた達の結婚には反対です。透子さんあなた――隠していることがあるわよね?」
27歳の誕生日に大学時代から交際してきた恋人・洸平からプロポーズされた透子。けれど彼女には、ずっと言えずにいた秘密がありました。それは――妹の桃乃に障害があるということ。
勇気を出して打ち明けたとき、洸平は受け入れてくれたように見えました。「これでやっと、私にも“普通の幸せ”が手に入るんだ」と胸をなでおろす透子でしたが…。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

両家の顔合わせで洸平の母親から、妹の障害を理由に結婚を反対されてしまいます。「お嫁さんにはちゃんとした跡取りを産んでもらわないと――」その言葉に耐えきれず、透子は席を立ち、一人で駆け出してしまいます。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

「いつもそうだ あいつのせいで幸せになれない」


「SNSでしか本音を言えない人も多いのかも」きょうだい児を描いたきっかけ


『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

――はじめに「きょうだい児」をテーマに作品を描いたきっかけから教えてください。

うみこさん:私は以前、社会福祉士として働いていて、障害のある方々やそのご家族と関わる機会が多くありました。ただ、当時は「きょうだい児」という言葉を聞いたことがなく、他の多くの人と同じように、X(旧Twitter)のトレンドで、初めてその言葉の存在を知ったんです。

その投稿は、障害のある兄弟姉妹への複雑な感情を吐露した内容でした。それを見て、きょうだい児の方々は「SNSでしか本音を言えない人も多いのかもしれない」と感じたことが、きょうだい児の女性を主人公にした漫画を描くきっかけになりました。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

――社会福祉士のお仕事をされていたことも関係あるのでしょうか?

うみこさん:そうですね。ただ、当時の私は、漫画家としてのプロフィールでは社会福祉士であることを前面に出していませんでした。そんな中、Xの投稿を見てからしばらく経った頃、今回の担当編集者の方から、「一緒に本を出しませんか?」というメールをいただいたんです。そして、最初の打ち合わせで幾つかテーマを提案してもらった中に本当にたまたま「きょうだい児」が入っていたんです。

私の中でもXで見た投稿が心に残っていたので、「きょうだい児をテーマに描かせていただきたいです」とお伝えしました。いろいろな偶然が重なって、この作品が作れたのだなと感じます。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より


――この作品を描くにあたって、福祉業界で働いていた経験はどのように影響していますか?

うみこさん:障害者の方や、そのご両親との交流はあったので、桃乃や両親のキャラクター設定や描写には働いていたときの経験が生きていると感じます。たとえば、桃乃は知的障害なので、外見からは障害があることはわかりません。ただ、私が働いていたときの実感として、障害者の方は食べることに執着があったり、偏食だったり、薬の副作用があったりするので、桃乃の描写にはその印象を反映しています。また桃乃には、同じ服しか着たくないというこだわりがあるため、服が汚れているという裏設定もあります。

また、働いていた時に感じていた制度の問題として、「障害のある方が施設に入りたいと思っていても、すぐに入所ができない」という現実があって、そういったことも作品に盛り込んでいます。


主人公の母親は「毒親」なの? 取材してわかった当事者の声は…


『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

――読者からの反応はいかがでしたか? 印象に残っているコメントなどあれば教えてください。

うみこさん:「はじめてきょうだい児という言葉を知りました」、「今思えば、クラスにいたけど、こんな思いをしていたのかも…」と、きょうだい児の立場に心を寄せるコメントをいただいたのは、とても嬉しかったです。

透子に感情移入して読んでくれる人が多くいて、その中には「この母親は毒親だ」と感想をいただくこともあります。しかし、身近でケアを続けている親御さんを見てきたきょうだい児の当事者の方の視点から見ると、この指摘はしばしば違和感を覚えることもあるそうです。

――違和感というと…?

うみこさん:この作品に登場する桃乃は、知的障害があり、食事、トイレ、お風呂などの生活の全てに介助が必要です。パニックになると自傷してしまうこともあり、目が離せません。特別支援学校や施設の力を借りながら、基本的には母親がメインで桃乃を見ているという設定です。母親は主人公の透子に、掃除をしている間、公園に連れていくようにお願いをしたり、週3日のパートで帰りが遅い日にお風呂の介助を頼んだりします。

物語の構成としてわかりやすいように、あえて主人公の母親のことを悪くみえるように描いてはいるのですが、はたして「毒親か」と言われると、私自身もそうは思えないんです。
きょうだい児にしわ寄せが行くのはもちろん、よくないことですが、毎日の生活の中で、トイレに行っているちょっとした間や、夕飯の準備をしているとき、風邪をひいて寝込んだとき、どうしてもきょうだい児の手を借りないと回らないタイミングが発生することは、私も一人の母親として想像に難くありません。

当事者でない立場で批判するのは簡単なことですが、母親の視点に目を向けてみると、介助が必要な障害児を育てていくことは、並大抵のことではありません。新生児であれば、いくら24時間、目が離せないほどに大変であっても、数年もして成長すればその苦労には終わりが訪れますが、障害のある家族へのケアは終わりが見えない場合がほとんどです。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より


ーー確かに、終わりの見えない日々の心労を思えば簡単に批判することはできないですね。

うみこさん:中には、障害のある子どものケアのほとんどをきょうだい児に丸投げするような、「毒親」も、たしかに存在すると思いますが、私が実際に取材した当事者の方たちからは、「親はなるべく負担のないように、普通の生活ができるようにしてくれていた」とおっしゃっていました。

それでも、障害者のケアはやはり負担が大きく、きょうだい児に少なからぬ影響を及ぼしているのだと思います。

* * *

「きょうだい児」という言葉が少しずつ知られるようになってきた今でも、その生きづらさや葛藤は、まだ十分に語られてはいません。透子や桃乃、そして両親の姿を通して、私たちは「家族とは何か」を静かに問いかけられます。



取材・文=宇都宮薫

この記事に共感したら

Information

本ページはアフェリエイトプログラムによる収益を得ています

おすすめ読みもの(PR)

プレゼント応募

新規会員登録する

読みものランキング

読みものランキングをもっと見る

レシピランキング

レシピランキングをもっと見る

レタスクラブ最新号

レタスクラブ最新号詳細