障害を持つ家族がいる「きょうだい児」たちのリアルな声。話題作の著者が語る、当事者の取材から見えてきたもの

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『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

障害のある兄弟姉妹を支える“きょうだい児”。 その多くは、幼い頃から「家族を助けるのは当たり前」と思い込み、知らず知らずのうちに“ヤングケアラー”として重い責任を背負っています。

コミックエッセイ『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』の著者・うみこさんは、作品制作のために多くの当事者や親の声を取材。その中で見えてきたのは、深い悲しみと、静かな孤独、そして“親を助けたい”という純粋な気持ちでした。

取材を通して感じた、きょうだい児のリアルとは? 著者のうみこさんにお話を聞きました。

【マンガ】『妹なんか生まれてこなければよかったのに』を最初から読む

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』あらすじ


『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

10歳になった透子。妹・桃乃は小学校の支援学級に通い始めました。桃乃は重度の知的障害があり、生活のすべてに介助が必要です。放課後も常に一緒に行動することを求められ、透子の友達づきあいにも影を落としはじめます。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

特に大変だったのは、桃乃の“紙を破くこだわり”。教科書を破られても、「しまっておかないのが悪い」と母に怒られるのはいつも透子の方でした。透子は深く傷つきます。
「一度破れた紙は、元には戻らないのに……」

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

ある日、公園で遊んでいたとき、桃乃が近所の子とトラブルになり、透子は石を投げつけられます。傷ついて帰った娘を見て、母は声をあげて泣きました。その姿を見て、透子は初めて気づきます――「大人も泣くんだ」と。「ママはずっと、隠れて泣いてたのかな。私がママを守らなきゃ」

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

それ以来、透子は率先して家事や妹の世話を引き受けるように。でも、その笑顔はどこか無理をしているように見えました……。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

きょうだい児が抱える深い悲しみと寂しさを目の当たりにして…


『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

――作品を執筆するにあたって“きょうだい児”当事者の方々に取材をされたそうですね。

うみこさん:漫画を描くにあたり、当事者の方々のお話を伺った上で構成を練りたいと考えていましたので、SNSや知人を通じて当事者の方々にお声がけし、オンラインでインタビューを実施しました。様々な考えの方にお話を聞きたいと思っていたので、SNSで障害のある兄弟姉妹が嫌いだと発信している方、障害のある兄弟姉妹と良好な関係を築いている方、きょうだい児支援をされている方、障害児の子育てをしている親の立場の方など、複数の方にお話を聞きました。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

――取材でお話を聞いた中で印象に残ったエピソードがあれば教えてください。

うみこさん:SNSで障害のある兄弟姉妹への嫌悪感や深い恨みを公言している方の過激ともいえる言葉の裏側に隠された、本心に気づいたのは、取材のふとした会話でした。
「久しぶりに母に会いに行っても、障害のある兄弟姉妹が自分だけに注目してほしくて、私の話を遮ったり、大きな声で騒いだりしてしまうんです」

知的障害のある兄弟姉妹の特性だから、どうすることもできない。そう語りつつも、「母も年老いてきた。生きているうちに、親子でゆっくり話すことすらできないのかもしれない」と寂しそうにつぶやきました。この言葉を聞いたとき、きょうだい児が抱える、言葉にできない深い悲しみや寂しさに気づかされました。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

――切ない話ですね……。他に印象に残ったエピソードはありますか?

うみこさん:別の当事者の方のお話ですが、障害のある妹さんは、たびたび特性による癇癪を起こしていたそうです。一度、癇癪が起きてしまうと、親でも止めることができず、家族の中で唯一、姉である彼女だけが妹さんの癇癪を抑えることができたと言います。

「妹が癇癪を起こしたとき、私は叩いたりして、落ち着かせていました。兄弟喧嘩じゃないけど、私たち姉妹が子どもだったからできたことですよね。妹は叩かれたくなくて、私の言うことだけは素直に聞いたんです」

親御さんは、きょうだい児に苦労をかけないよう気をつけていたといいますが、次第に癇癪が起きた際の対応を彼女に任せるようになったそうです。当たり前のようにケアを任されることが重い負担となり、彼女は結婚を機に実家との関係をフェードアウトさせたと言います。

しかし、同時に親の苦労を深く理解されていました。
「母は旅行が趣味で、年に一度家族で旅行に行くことになっていました。正直、飛行機や新幹線の中で妹が癇癪を起こすこともあり、周りの目が気になって行きたくなかったんです」

私は思わず、「一人だけ留守番したり、親戚の家にいたりすることはできなかったんですか?」と聞きました。
「母と妹の二人だけで旅行に行くことはできないから、仕方ないです。年に一度だけの母の唯一の息抜きで、母にも息抜きは必要ですから」

自分の人生が犠牲になっていると憤る気持ちと親の苦労を間近で見てきたからこその理解があるのだろうと感じました。

家族のお手伝いをするのは当たり前? ヤングケアラーになりがちなきょうだい児


『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

――取材を進める中で、作品に実際に反映させたエピソードなどはありますか?

うみこさん:インタビューで特に印象的だったのは、きょうだい児がヤングケアラーになってしまうケースが少なくないことです。生活全般に介助の必要な障害がある場合、メインでケアしている家族は、外出や仕事、家事の時間を持つことが難しくなることも少なくありません。家庭によってはきょうだい児が介助をメインで担っていることもあり、そういったヤングケアラーとなってしまっているケースの場合は福祉の介入が不可欠だと感じます。

実際に、私が話を聞いた当事者たちの場合は、母親がケアをメインで担っているケースが多かったように思います。取材で話を聞いた当事者の一人は、「親はきょうだい児の私には負担がないようにと、なるべく普通の生活を送れるようにしてくれていた」と話す一方で、「親だけでは結局、手が回らず、手助けせざるを得ない部分もあった」とも言っていました。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より


「幼少期のうちは進んで手伝いをしていた」と話す当事者の方が何人かいて、それがお話を聞いていて印象的でした。きょうだい児自身も親を助けようと頑張ってしまう心の裏には、障害のある兄弟姉妹につきっきりの親に対して「手伝いをすればもっと愛してもらえる」という思いが隠れているのだろうと思います。一番近くで親の苦労を感じているからこそ、我慢をするしかなかったという面もあるでしょう。

また、そうしていくうちに「家族のお手伝いをするのは当たり前」という空気になってしまった当事者の方の幼少期のエピソードを伺ったときは、とてもつらい気持ちになりました。こうした思いは、特に丁寧に描きたいと考え、漫画にも反映させています。

『妹なんか生まれてこなければよかったのに きょうだい児が自分を取り戻す物語』より

――親の愛を得るためだった兄弟姉妹のケアが、「やって当たり前」の状況になってしまうのですね。

うみこさん:私の身近に健常者の長男と、障害のある次男を持つご家族がいらっしゃって、今回の作品を描くにあたって、個人的にお母さんのお話を聞きに行ったんです。両親の立場で悩んでいる方は多いのですが、支援学校でつながりが増えて、そこで友達ができて、深い関わりになる。そうすると当事者同士で悩みを共有できるのですが、きょうだい児にはそれがないから、そういう場が増えて欲しいと仰っていました。

そのお母さんはできるだけお兄ちゃんに負担がかからないように支援していきたいと仰っていて、いろいろな法制度を調べていました。こうしたお話を伺い、作品内でも制度や支援などにつながる内容を心掛けました。

* * *

家族を支えようと懸命に頑張る“きょうだい児”たち。その献身の裏で、誰にも言えない悲しみや寂しさを抱えている現実があります。うみこさんの作品は、そんな見えにくい心の傷を丁寧に描き出しています。

取材・文=宇都宮薫

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