「結論から話して」と寄り添ってくれない夫。心折れた妻のひそかな決意【著者インタビュー】


中学生の息子が、ある日突然部屋に閉じこもって不登校に。43歳の母親・胡桃は、その対応に戸惑います。夫は「学校にいかせるべきだ」「ゲームは取り上げよう」と息子に厳しく接するよう胡桃に要求します。
食事も取らず部屋に閉じこもる息子を心配する胡桃は、夫に息子のことを相談しようとしますが、「結論から話してくれない?」「何言いたいかわからないよ」と冷たく、夫は彼女に寄り添ってくれません。思わず娘に愚痴をこぼすと、「パパに言えないからってグチるのやめて」と拒絶されて…。

家庭に居場所を失った彼女は、偶然知り合った男性・匠にさびれた公園で悩みをこぼすようになります。ふたりは一線を越えないまま、心の距離を縮めていくのですが…。
行き詰まった夫婦関係と母子関係の中で見えてくるもの
――胡桃は夫について「向き合って話すなんて、もうとっくにあきらめた」と語り、心のシャッターを下ろしています。離婚に踏み切る経済力や自信がない中で、「心の中にだけ別の居場所を作る」という彼女の現実的な選択について、どのような思いで描きましたか?
とげとげ。さん:胡桃のように、夫婦関係に行き詰まりを感じながらも、経済的な理由や自信のなさから離婚という選択には踏み出せない——そうした状況は、決して特別なものではないと思っています。その埋められない思いを、ペットや友人との交流、趣味や“推し活”など、別の形で満たそうとする人も少なくないかもしれません。それもとても健全な選択だと思います。
ただ一方で、人から直接向けられる共感や承認、居心地のよさには、やはり大きな力があります。もし、自分が求めているタイミングで、同じように孤独や寂しさを抱えた人が現れたら——その偶然が重なったらどうなるのか。そんな問いから、この関係性を描きました。リスクも伴う行為なので、その甘さと危うさの両方を含めて、物語として描いたつもりです。


――作中では娘の視点から見た胡桃の姿も描かれています。「私は絶対ママみたいになりたくない」と言いながら、そのことに罪悪感も抱いていた娘の複雑な心境を描いた理由はどこにありますか?
とげとげ。さん:この物語では、母子関係の変化も丁寧に描きたいと考えていました。娘は「私は絶対ママみたいになりたくない」と強い言葉を口にしますが、その一方で、母への愛情や感謝も確かに持っています。その相反する感情があるからこそ、罪悪感も抱えてしまう。そのチグハグさが、思春期のリアルな心の動きだと思いました。
娘は母を避けるという行動に出ますが、親に対して抱く感情に罪悪感がなくなることは“健全な母子分離”で、成長の一つのかたちだと思っています。「母と娘」ではなく「大人同士の女性」として向き合える関係へと変わっていく。その可能性を込めて、この心境を描きました。


* * *
誰にでも訪れうる「人生の行き詰まり」。ひとりの女性が葛藤の中で「残りの人生をどう生きるか」という問題と向き合うとき、家族との関係性もまた変化していきます。葛藤の中で胡桃が何を見つけ、どう変わっていくのか。その痛々しくも切実な心の軌跡は、形を変えながら続いていく私たちの人生そのものとも重なり合います。
取材・文=レタスユキ
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