「考えすぎだって」小3息子の性被害を軽視する父親。男社会特有の暴力容認と、夫婦の深刻なすれ違い【著者に聞く】
※この記事では性暴力に関する記述があります。フラッシュバックなどのおそれがある方は閲覧にご注意ください。

「男の子が性被害に遭うわけがない」
そんな風に思い込んでいませんか? 性被害に遭っているのは女性だけではありません。内閣府男女共同参画局が令和4年に発表した統計によると、若年層の男性の約5%が身体的接触を伴う性暴力に遭ったことがあるそうです。
漫画家・あらいぴろよさんが発表したコミックエッセイ『性被害のせいで、息子が不登校になりました』は、小学3年生の息子を持つ母親が主人公。性被害に遭ってしまった息子とその家族の葛藤や苦悩を、専門家への取材を通してリアルに描き出しています。著者のあらいぴろよさんに、この作品について伺っていきます。
『性被害のせいで、息子が不登校になりました』あらすじ


小学3年生の息子が、ある日突然不登校になってしまいました。父親が触っただけでも吐いたり叫んだりしてしまう息子の様子を見て、母親は「自分が性被害を受けた後の反応と同じだ」と感じます。しかし、小さな男の子がまさか……という思いで、その疑惑を心の中で打ち消していました。



警察からの連絡で息子が性被害に遭い、犯人にその様子を動画で撮られていたことが発覚。激しく動揺する母親でしたが、父親のほうは「ケガもしていないし」「大ごとにしないほうが忘れられる」と事件を軽く扱おうとします。これがきっかけで夫婦の心はすれ違い、家族は崩壊の危機に陥ってしまい……。


性被害に対して、日本にはどんな支援があるのかを読み取れるように
――主人公の母親・英子は、突然不登校になってしまった息子に困惑しつつ、原因を探ります。もしかしたら性被害に遭ったかもしれない、とうすうす感じていた矢先にその事実を知ることになるのですが、このときの母親の心情を教えてください。
あらいぴろよさん:表面上は「性被害なんてないよね」と「ある、かも……」の半々でモンモンとしていると思いますが、彼女の経験則からくる「ある」の条件がそろっていました。ほぼ被害を確信した中で、「ない」を探すという、絶望的な状態だったと思います。


――被害の後遺症に苦しむ息子。そして物語が進むにつれ、母親自身も心身にダメージを負っていきます。息子を守りたいと思いながらも辛い状況に追い込まれた母親の気持ちを教えていただけますでしょうか。
あらいぴろよさん:トラウマ体験に晒された後遺症の回復は一概に右肩上がりではなく、先も見えづらいものですからフォローしていく家族の負担は少なくないと私は思います。
それでいて、私たち親世代はこうした性被害に対するフォローがほとんどない中で暮らしてきましたので「自分が支えなければ」という思いはひときわ強く、自分で自分の首をしめてしまう部分も大いにあるかと思います。
それでもこの作品の母親・英子は多くの支援をつかめた方です。そうした時代の流れや変化を感じながら、現実との折り合いをつけようと彼女はとてつもない努力をしたと私は思います。これがなければキャパオーバーや、精神崩壊を起こしていてもおかしくなかったと思います。

――父親の気持ちの変化も見どころのひとつかと思います。最初は息子が性被害に遭ったことを受け入れられずにいますが、次第に被害の大きさを認めていく過程も辛い気持ちがひしひしと感じられました。このときの彼の気持ちを教えていただけますでしょうか。
あらいぴろよさん:父親の健の中には、「自分は助けてもらえなかった。自分は受け入れてきた。なのにお前は――」というある種の嫉妬心もあったと思います。また、「これくらいのことで折れるんじゃないよ」という、かつて男性に求められた“男としての姿勢、強さ”が崩壊することへの戸惑いもあったと思います。それは自分がこれまで生きてきた・信じてきた世界の崩壊でもありますから、とんでもない葛藤があったことと思います。

――『性被害のせいで、息子が不登校になりました』を手に取る読者のみなさんへ、メッセージをお願いいたします。
あらいぴろよさん:この話は、事件に巻き込まれてしまった親子が、最善のルートをたどった場合のストーリーで描きました。そこから、今、日本にはどんな支援があるのかを読み取れるようにいたしました。
そのため過剰な表現も避けましたが、それでもやるせなく、苦しくなる現実も描きました。そのため、読者の方にはダメージがあるかもしれませんので、お手に取る際はどうぞ安心かつ安全な環境で温かくしてお読みください。
取材=ナツメヤシ子/文=レタスユキ
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