ひと口も食べずにひっくり返ったお弁当。子どもの失敗を「かわいそうに」となぐさめる前に/大人になってもできないことだらけです(3)

相手がどんな振る舞いをしてどんな言動をするか、こちらの用意したものになぞらえるのではなく、その人の言動をその人のものとして、それを自分はどう受け止めて解釈するのか。
例えば子どもの発達過程って、子どもが育つ上での一つの指標となる。何歳頃にこれができるようになって、何歳頃にはこんな機能が発達して、というようなもの。
けれど個人差があるから、その通りに育てようとすると求められる子どもはしんどいだろうし、発達過程通りに育っていないと保育者は不安になるし、子育てがしんどくなる。
じゃあこの発達過程ってなんのためにあるのかっていうと、その子のそのままの姿をより深く理解するためにあるのだ。
例えば、誰にでも笑っていた子が、急に泣いたり恥ずかしがったりするようになったときに、顔を識別できるようになったのかな、安心できる存在との違いを認識できるようになってきたのかな、周囲の目が気になるようになってきたのかな、とそれぞれの年齢の発達過程からその子の育ちを前向きに解釈することができる。
もうすぐ人見知りの時期だから上手に人見知りできるように脅かしてやろう、なんてことはしない。
その子の姿を肯定的に受け止めて育ちに気づくために、知識が役立ってくる。その知識を役立てるためには、その子の姿をしっかりと見なければいけないから、その知識を「期待」ではなく「視点」にして、まるまる受け止めて見守ることが大切になってくる。
想定外を当たり前にしてみたら、思い通りにいかないことが当たり前だと思えたら、新しいことや偶然起きたことも発見できるんじゃないかと思うのだ。
「ここを育てよう」と思うと、そこが育っているかどうかでしかその子の育ちを見ることができない。自分の思いもしないところが育っているかもしれない、と視点を変えると見えていなかったその子の姿に気づくことがある。
大人が意図していなくてもいい。偶然の産物でもいい。その子から生まれたその子の育ちに、僕たちが気づければいいのだ。
予定をきっちり決めてその通りに動くほうが安心する人もいるから、どちらがよいとか悪いとかではないけれど、僕みたいに毎日ドジ踏んで、出る目がだいたい裏目の人間としては、思い通りにことが進まないのを基準にしたほうが楽だったりする。
うまくいかないたびに、ドジを踏むたびに「自分なんて」と思わなくていいように。予定通り・想定通りにいかないのは当たり前なんだよって。
そんな失敗も笑い話にしたり、そんな中で「よかったね」って思えることを見つけていければ。
自分の「正しい」に固執しないためにも大切なことだと思うから、もしうまくいっているなと感じることが増えたら、それはもしかしたら自分が誰かをコントロールしているかもしれないと思えたら。
そんなときは少し気を抜いて、「想定外」が起きることを楽しめるような余裕を持てたらいいな。
余談ですが
ある夏キャンプに行ったときに、1年生の男の子が弁当を一口も食べずにひっくり返してしまった。これからの人生で弁当箱を見るたびに毎回思い出してしまうんじゃないかというくらい、それはそれは落ち込んでいた。
半年くらい経ったころ、公園へピクニックに行ったときに同じようなことが起きた。別の子が一口も食べていない弁当をひっくり返してしまったのだ。
僕たちがなぐさめながら代わりのものを買いに行こうと話していると、キャンプで同じ目にあったその男の子が「俺も落としたことあるでぇ~」と笑って声をかけていた。
その子にとって苦い思い出ではなく、笑って話せる出来事になっていたことに安心した。同時に、「かわいそうに」となぐさめるのとはまた違う優しさを感じた。
うまくいかない、失敗をする、要領が悪い、ユーモア次第でそんな経験が誰かを救うこともあるんだよね。
休日の昼間、いい天気だったのでコンビニでナポリタンを買い、人気のない公園で食べることにした。蓋を開けて持ち上げようとした瞬間に手を滑らせて、見事に地面にひっくり返した。
「俺も落としたことあるでぇ~」と言うあの子の声が聞こえたような気がした。砂まみれになった麺を容器に戻して、一緒に買ったペットボトルの緑茶を飲んだ。
これで僕も、誰かが弁当をひっくり返したときに声をかけてあげることができる。

著=きしもと たかひろ/『大人になってもできないことだらけです』(KADOKAWA)
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