【荻原博子の「3分でわかるお金の話」】:話題の「こども保険」、得なの? 損なの?
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子育て世代にとって大きな負担となる教育費。その負担を軽減し、少子化対策に役立てるために今年3月、自民党の若手議員たちから「こども保険」という案が示されました。こども保険とは、どのような保険なのでしょう。

こども保険は「社会保険」のひとつという位置付けです。会社員の場合、社会保険には病気やけがに備える「健康保険」、老後に備える「厚生年金保険」、介護に備える「介護保険」(大きなくくりでは「雇用保険」「労災保険」も含まれる)があります。こども保険は、現在ある保険ではカバーできない子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクに備えるという目的があります。でも、今は子どもの保育・教育のための「児童手当」があります。2012年度以降の児童手当の額(1人当たり月額)は、0~3歳未満では一律1万5000円(所得制限限度額以上のケースを除く、以下同じ)、3歳以上小学校修了前では1万円(第3子以降は1万5000円)、中学生では一律1万円が受け取れます。

現在検討されている案では、こども保険は児童手当に上乗せして支給されます。こども保険給付金1人当たり月2万5000円。対象は約623万人(2016年4月1日現在)の未就学児童で、加算後は月額0~3才未満では一律4万円、3歳以上小学校入学までは3万5000万円(第3子以降は4万円)となり、小学校就学前の幼児教育・保育が実質的に無償化されます。小学校入学以降は現在と同額の児童手当が支給されます。

でも月2万5000円上乗せするためには、約1兆8000億円(約600万人×年間30万円)の財源が必要です。少子化対策や子育て支援のお金は政府の一般会計と呼ばれる予算から支出しているのですが、高齢者向けの社会保障給付が大きく増えている中で、さらに大きな予算を確保することは容易ではありません。

そこでこども保険では、子育てを社会全体で支え合う仕組みと位置付け、当面は保険料率を0・2%として、会社員の場合は従業員0・1%、企業0・1%というように折半で負担し、厚生年金保険料に付加して徴収します(国民年金加入者は月160円を国民年金保険料に付加)し、約3400億円の財源を確保します。このお金は国が運営し、幼児教育・保育の負担の軽減や保育所整備に使います。

その後、保険料率を1%(従業員0・5%、企業0・5%。国民年金加入者は月830円)に引き上げ、1・7兆円の財源を確保して、目的である幼児教育・保育の実質的な無償化を実現します。

こども保険が導入されると、私たちの負担はどのくらい増えるのでしょう。保険料率が1%(労使0・5%ずつ負担)のケースで試算すると、年収400万円(標準報酬月額24万円)の30代・子ども二人世帯で厚生年金保険料2万2000万円、健康保険料1万2000円、雇用保険料960円に子ども保険料1200円が加算されて社会保険料の合計は月3万6000円になり、こども保険給付金を含む児童手当は月5万円です。

一方、年収800万円(標準報酬月額50万円)の50代・子ども二人世代(どちらも高校生)では子ども保険料2500円が加算されて社会保険料の合計は月7万8000円となり給付金はありません。こども保険料2500円は「子育て世代を応援する」ために負担することになります。

ここで忘れてはならないことは民主党時代に示された子ども1人当たり月2万6000円を中学卒業まで支給する代わりに「年少扶養控除」を廃止するという約束です。この約束のうち1人当たり月2万6000円の方はほごにされ、年少扶養控除は廃止されたままです。おかげで所得税が上がり、保育園の保育料が高くなった家庭が増えてしまいました。

そこで本来なら年少扶養控除を元に戻すことを検討すべきですがそれはせず、財源を税金に求めるとさらなる増税になって批判を浴びるため、こども保険という案を考え出したのでしょう。

また子どもに投資をするという趣旨であれば、大学の無償化を目指すべきだと思います。若い層が子どもを持たないのは、目先の保育園や幼稚園のお金が足りないのではなく、より高額な大学教育のお金を負担する自信が無いためではないでしょうか。予算の無駄使いも含めて、こども保険の導入の前に政府がやるべきことはたくさんあると思います。