夫はうつ病で休職、風俗通いにDV。妻もやがて心を病んで『夫婦で心を病みました』著者・彩原ゆずさんインタビュー

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 『夫婦で心を病みました』より

真面目で優しい夫が双極性障害を発症し、人が変わったように荒れていく。仕事は休職、突然に風俗通い、過剰な買い物、そしてついには妻に手を上げるようになって、夫を支えようと奮闘していた妻も次第に心を病んでしまい…。

夫婦で心の病と戦う日々を描いた実話コミックエッセイ『夫婦で心を病みました 優しい夫が双極性障害を発症したあの日から』。心の病と向き合い、乗り越えていく過程をリアルに描いた今話題の作品です。著者の彩原ゆずさんに作品に込めた思いや当時の心境についてお話を聞きました。


彩原ゆずさんインタビュー


――はじめに、この作品に込めた思いをお聞かせください。

彩原ゆずさん:夫がうつ病と診断され、人が変わったようになった時、私は金銭的にも精神的にも「自分さえ我慢すればいい」と思い込み、どんどん気持ちが病んでいきました。そんな経験から、家族が心の病を抱えた時に一人で抱えこまないでほしいと伝えたくてこの作品を描きました。
そしてのちに夫は双極性障害だとわかるのですが、私たち夫婦の場合は病気を知ることによって道が開けていきました。ですので、自身や家族の病気を知ること、医師に普段の状態をしっかり話すことを大切にしていただきたいとも思っています。

  『夫婦で心を病みました』より

――夫のユウタさんがうつ病と診断される以前に、ユウタさんの様子にどのような変化が見られましたか?

彩原ゆずさん:まずため息が増え、眠れないといった症状が出てきました。朝起きたらすぐに落ち込んでいる様子が見られて辛そうでした。それから食欲がなくなり痩せていく…といった変化がみられました。

――ユウタさんがうつ病だと診断された当時の彩原さんの率直なお気持ちを教えてください。

彩原ゆずさん:やっぱり!と思いました。実際はうつ病ではなく私の知識も乏しかったのですが、自分がイメージしていたうつ病の症状に似ていたので、間違いなくそうだろなと思っていました。ここまで具合が悪くなる前に身体を休めさせれば良かったな、とも思いました。

   『夫婦で心を病みました』より

――不機嫌モードで周囲に当たり散らすようになってしまったユウタさんとどのようにコミュニケーションをとっていたのでしょうか。

彩原ゆずさん:一緒にいると安心する。そんな人だったのですが、この時期の夫は怖かったです。私は大声を出す人や不機嫌を露わにする人にかなり苦手意識があり、いつもビクビクしていました。イライラモードの時は、夫の言葉を否定すると怒りだし家の空気も悪くなってしまうので、否定をせず聞き手役になることが多かったです。

――そんな状況下で、次第に彩原さん自身の精神状態も悪化していく様子が描かれていました。

彩原ゆずさん:あの頃は常に気持ちが沈んでいて、赤信号なのにふらっと渡ってしまおうとしたり、かなり追い詰められた状態になっていました。ベランダから下を覗いてこのまま落ちてしまおうかと思った時、息子がしがみついてきて、それが本当にかわいそうで…。

   『夫婦で心を病みました』より

――そんな中でも、相談窓口へ電話をかけて助けを求めるという判断ができたのはなぜでしょうか。

彩原ゆずさん:ベランダでの出来事がきっかけで、このままでは取り返しのつかない事態になってしまうと思い、相談所を探しました。スマホで「死にたい」という言葉を検索すると心の相談ダイヤルなどが出てくるのが目に入ったんですね。検索で近くの保健所が引っかかり相談無料なこともあって電話しました。

――「双極性障害」の可能性を指摘されたユウタさん。新たな病名を聞いた時のお気持ちや、この時、夫婦の間でどんな会話を交わしたのかを教えてください。

彩原ゆずさん:夫が変わったようになってしまったのは病気のせいだったんだとホッとした気持ちがありました。優しかった過去の夫が完全にいなくなってしまったわけではないと思えたんです。
この時の夫は私の意見を聞き入れられない状態でしたが、医師の口から病名を言ってもらえたことで、自分の病気を理解するきっかけになりました。「調子の波が大きかったし合う薬ももらえることになって良かったね」なんてことを二人で話したと思います。

――夫婦揃って心を病んでしまい、どのようなことが最も大変でしたか?

彩原ゆずさん:子どもたちが小さかったこともあり、どんな精神状態の時でも育児や幼稚園行事などをこなさなければいけないのが大変でした。家の中に篭っているより外でお友達と遊ばせた方が少しでも子どもたちに良い思い出を作れると思い、いろいろなイベントに参加しまくったことも。それにより疲れて私がイライラしてしまった時もあったので、無理しなくてよかったのになぁと思うけど、ただ今は当時頑張った自分を労ってあげたいです。

    『夫婦で心を病みました』より

――最後に、今現在、心の不調や悩みを抱えながら生きている人に、メッセージをお願いします。

彩原ゆずさん:私は当時誰かに自分の状況を話すことが難しく、恥ずかしさもあったりしてなかなかまわりに相談できずにいました。ただ医師や誰かに話すことが状況を改善させるきっかけになるかもしれないので、一人で抱え込まずに相談してほしいです。
あまりにも苦しいと自分のために何かしようという考えも出てこないかもしれないけれど、誰かに頼ること、助けを呼ぶこと、専門的な場所に相談することを選んでほしいと心から思います。

    *    *    *

彩原さん一家は、病気を理解することで少しずつ前へ進みはじめました。夫の過去の言動全てを許せなくとも、夫婦関係を再構築する道を選んだのです。いつ誰の身に降りかかってもおかしくない「心の病」。自分が同じ立場になったらどうしたらいいのか考えさせられます。

取材・文=宇都宮 薫

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