ペットにまで嫉妬するモラハラかまって夫。そんな夫婦の関係に変化をもたらしたもの【著者インタビュー】

結婚・出産を経て二児の母となったあすかは、夫・和史の自己中心的な言動に日々悩まされていました。妊娠中の無神経な発言、育児への無関心、そして子どもへの嫉妬やマウントといった和史の態度を見て、あすかはワンオペ育児状態を加速させていきます。

子どもたちが成長して、あすかが外に働きに出たい気持ちを抱いていることに気づいた和史は、そうはさせまいと嫌がらせを思いつきます。スーパーで食用の「うずらの卵」を買ってきてあすかに渡し、それを孵化させるように命じるのでした。

あすかは夫の機嫌を損ねることを恐れ、言われるままにうずらを孵化させます。最初は仕方なくだったものの、ヒナ鳥の世話をするうち、あすかはうずらに愛着が湧いてしまいます。

しかし、和史は自分よりうずらが優先されていることが気に入りません。そして、妻の気をひくためにうずらの餌の小松菜を生のまま食べたり、「自分のほうが上手にできる」とうずらの鳴き声を真似したりなど、奇怪な行動をするようになっていきます。

ある時、ちょっとした嫌がらせのつもりで和史がうずらの餌を床にぶちまけます。しかしあすかは積もり積もった鬱屈に限界が来て、「子どもたちと出ていく」と和史に宣言。和史は号泣しながら追いすがりあすかを引き止めます。この時を境に、ふたりの関係性が変わっていきます。相変わらず横柄ではあるものの、和史はあすかの機嫌を損ねることを恐れるようになっていました。

この頃から、うずらの飼育部屋にこもるようになった和史。うずらを飼育する衣装ケースに入り、「お世話してくれる?」と言い出します。和史がうずらのケースに入っている間は怒鳴ることもキレることもないため、あすかも「異常ではあるが今の方が平和」とその状態を受け入れてしまうのでした…。

そして和史はいよいようずらのケースの中で食事を取り、夜もケースの中で寝るようになってしまいます。人間らしさを捨てた和史と、あすかの立場は以前と逆転して…。
著者・前川さなえさんインタビュー
――ペットとして飼われる「うずら」が重要なモチーフとして描かれていますが、犬や猫などの一般的なペットではなく「うずら」を選んだ理由を教えて下さい。
前川さなえさん:編集担当さんの同僚のおうちでうずらが孵化して、お世話が大変そうだという話を聞き、そこから着想を得ました。

――うずらの生態や行動など詳しく描かれていますが、実際に飼われていたことはありますか? あるいはかなり取材されたのでしょうか? また、実際にスーパーなどで食品として売られているうずらの卵は実際に孵せるのでしょうか。
前川さなえさん:私自身は実際にうずらや鳥類全般を飼育した経験がないので、鳥の図鑑や生態の関連書籍をいろいろ読んだり、うずらを育てているyoutubeチャンネルを観たり。うずらを孵化させた経験がある方にも、いろいろ実体験のお話を伺って孵化の様子なども動画で見せていただきました。その経験者の方は通販で購入した有精卵だったそうですが、スーパーで売ってる卵でも孵化させることは可能らしいです。

――最初は和史があすかを家庭に閉じ込めておくための手段として、うずらの卵を買ってきて「それ育ててよ」と言うのですが、今度はそのうずらの世話のせいでますます和史がほったらかしになってしまうという状況になります。和史にとっては予想外の状況ですが、この時の彼の気持ちについて詳しく教えて下さい。
前川さなえさん:和史は「自分の思い通りにならなかったときうまく対応できない」という特性があるので、「こんなはずじゃ」という苛立ちが大きかったはず。その感情をハラスメントとしてあすかにぶつけてしまうという、自分が撒いた種ではありますが悪循環になってます。

――妻にかまってもらいたくて子どもじみた行動をしていた夫の和史が、今度は少しずつうずらの部屋に閉じこもるようになり、うずらの真似をし始める…という異常な状況が訪れますが、このときの夫・和史の気持ちと、妻・あすかの心情についてそれぞれ詳しくおしえてください。
前川さなえさん:和史があすかに愛されたくてアレコレやった結果、一度あすかに「出ていく」と言われてからは「このままじゃいけない」という焦りからの現実逃避の部分もあったと思います。そして、愛され方をよく知らない和史が「すでにあすかに愛されてる存在(=うずら)にボクもなればいい」という思考になってしまった。あすかもうずら状態の夫に対してははじめは嫌悪感しかなかったものの、だんだん支配する側が入れ替わったことに優越感を抱くようになっていきます。
* * *

“うずら”というモチーフを通じて、夫婦の関係性が少しずつねじれていく過程を丁寧に描いた本作。和史の変貌ぶりは常軌を逸していますが、それまで被害者側だったあすかの変化からも目が離せません。少しずつ人間であることをやめていく和史と、淡々とその世話をするあすか。そして最後に迎えるラストシーン、あなたはこの夫婦の行方をどう解釈するでしょうか?
取材・文=レタスユキ
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