親との関係に苦しみながらの介護生活。過酷な体験をした著者が伝えたいこと

子どもの頃から父親の怒鳴り声が響く家で育った、主人公のヒトミ。常に父親の機嫌を伺う生活で、怒鳴られると身がすくんで動けなくなるのでした。結婚して家を出て、やっと父親から解放された彼女は、2年前に母親が亡くなってからはほとんど実家に帰らなくなっていました。

久しぶりに父親に呼ばれたヒトミは、父ががんで余命1年もないことを知ります。余命わずかだからといってこれまでの恨みやトラウマが消えるわけではなく、父親の介護がすべてのしかかってくるという現実に直面してゾッとします。

ヒトミは父親の生活ぶりを見て介護保険を利用して介護サービスを受けることを提案しますが、「介護なんて必要ない、バカにするな」と怒鳴られてしまいます。しかし、ちょっとした買い物などで実家に呼び出されは、父親に怒鳴られたりバカにされたりという状況が続き、彼女は疲弊していきます。

夫の協力も得てどうにか介護サービスの認定にこぎつけ、ケアマネージャーやヘルパーの助けを得られるようになり、これで手を離れると安心したのもつかの間。父親はちょっと気に入らないことがあるとヘルパーを追い返したりケアマネージャーを怒鳴りつけたりといった有り様で、対応に追われるヒトミは思うように仕事もできなくなっていきました。

父親の態度によって精神的に追い詰められていったヒトミは、やがて心のバランスを崩していきます。父親を痛めつけたいという衝動にかられたり、気づかれないような嫌がらせをしてしまったり…。

そんなある日、父親に突き飛ばされて手首を負傷した彼女は、仕事ができない状況に追い込まれてしまいました。それでも反省の様子もなく「米を炊きに来い」と電話で呼びつけようとする父親に、ついに我慢の限界が来て…。
著者・枇杷かな子さんインタビュー
――この作品は実体験をもとにしたセミフィクションだそうですね。ご自身も介護中、さまざまな困難があったかと思いますが、もっともしんどかったこと、逆に救いになったことがあれば教えてください。
枇杷さん:体調の不調や不安もあり、父は母や私に怒鳴ることが増えていきました。父の怒鳴り声は幼い時からずっと怖かったですし、聞こえると身体が固まってしまったり動悸がするんです。目の前で母が怒鳴られているのを止めるのも、私自身が怒鳴られるのも辛かったです。また、自分の仕事時間や家族との時間がなくなっていくのも精神的にしんどかったです。
私自身はヒトミのように「親への嫌がらせ」という行動には出なかったけれど、「早くいなくなればいいのに」と、そんな暗い想像はたくさんしてしまいました。だからこそヒトミのやってしまったこと、虐待につながる嫌がらせは、決してしてはいけないことだけど、誰しも隣り合わせなのかもしれないと描写しました。
また、私が母に怒鳴ってしまった日もあり、今でも後悔しています。
ホスピスに入ってから、叔母たちと笑い合う母を見て「この時間はもうわずかなんだ」と寂しくもなったけれど、母の笑顔を見られて嬉しい気持ちもありました。

――作品中では、介護の制度だけでは解決できない困りごとについて多く触れられています。枇杷さんご自身が介護をする中で、ご家族や周囲などに「理解されにくい」と感じた瞬間があれば教えてください。
枇杷さん:家族にしかわからない苦しさの積み重ねを外の人にはなかなか理解してもらえず、「親なんだから世話をしてあげなければいけない」という言葉を聞くこともありました。
――当時のご自身にアドバイスできるとしたら「もっとこうしておけばよかった」と思うことはありますか?
枇杷さん:当時の私には「少しでも眠れなくなったり、髪の毛が抜けたり、鬱々としたら、時間がないのはわかるけど、自分のメンタルクリニックにすぐに行ってね」と伝えたいです。

――この作品の主人公のヒトミと同じように、親との関係に悩みながら介護をしている読者に、どんな言葉をかけたいですか?
枇杷さん:渦中にいる方にはきっとどれも辛い言葉になってしまいそうですが…。逃げたい、離れたいけどできない方がたくさんいると思います。眠れておりますでしょうか。もう手を尽くしてきたと思いますが、ご自分のために少しでも様々な機関の力を借りてください。親の介護に直面し自身の身を削って介護する人や、その助けとなる仕事をする人にとって、この社会や制度が改善していってほしいと心から願っております。
* * *
この『余命300日の毒親』では、主人公は精神的にギリギリまで追い詰められてしまうものの、家族や行政など周囲の助けを得て、少しずつ父親と心の距離を取っていきます。この作品は、同じような状況で苦しんでいる人や、これからやってくる介護に不安を抱えている人にとって、困難な状況に向き合うためのヒントを与えてくれます。
取材=ツルムラサキ/文=レタスユキ
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