評価=自分の価値?売上主義のデパコストップBAが孤立した理由【心理カウンセラーに聞く】

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リーダーの節子に詰め寄られるお嬢

華やかに見えるデパコスカウンター。その裏側では、売上や評価をめぐる静かな競争が続いています。コミックエッセイ『デパコスカウンターは今日も修羅場です ~BA下剋上物語~』の主人公は、百貨店の人気ブランドで10年目を迎えるトップBA・通称“お嬢”。売上になりそうな客を優先し、同僚の顧客を横取りし、面倒な対応は後輩に任せる――その強引なやり方で、売上トップを維持してきました。
しかし、新人・梨帆の登場をきっかけに売り場の空気は変わっていきます。過去に傷ついた経験を抱えながらも、自分なりの軸を持って働く梨帆。二人を分けたものは何だったのでしょうか。

▶【マンガ本編】『デパコスカウンターは今日も修羅場です ~BA下剋上物語~』を最初から読む

【ストーリー】

新人BA花巻梨帆が入社

クレシアン海袋店でトップの座に立ち続けてきたお嬢。数字では誰にも負けない存在でしたが、売り場の空気はどこか張り詰めていました。新人が長く続かず、スタッフ同士の距離も広がっていきます。
そんな中、配属されたのが新人の花巻梨帆。美容知識ゼロからのスタートながら、売上優先で客を選別するお嬢から任された返品対応にも真摯に向き合います。結果、梨帆の誠実な対応は周囲から評価され、売り場の雰囲気は少しずつやわらいでいきます。
やがてチーム全体の売上も上向きに。お嬢一人が牽引する形から、みんなで支える売り場へと変わっていきました。自分の数字が相対的に目立たなくなっていくことに、お嬢は焦りを覚えます。
転機となったのは昇級試験。レポート作成に追い詰められたお嬢は、思いもよらぬ選択をしてしまうのです…。


“選ばれない側”だったお嬢が美にしがみついた理由

姉との格差を感じるまち子

そんなお嬢の背景には、容姿端麗で成績も優秀な姉と常に比べられてきた過去がありました。家族や親戚が集まるたび、「きれいなお姉ちゃん」「本当に優秀ね」と姉は称賛される存在。隣に立つ自分は、いつもその比較対象でした。
姉が東京の難関大学・白鷹塾大に合格した夜、家族はお祝いムードに包まれます。一方でお嬢は、「地元で就職すればいい」と大学進学を諦めるよう告げられました。姉には投資され、自分にはされない。その差は、静かに心に積もっていきます。
そんなある日、姉には似合わなかった1本のリップを何気なくつけて学校へ行くと、「今日なんか雰囲気違うね」「その色都会っぽい」と声をかけられました。さらにドラッグストアで出会ったBAから「メイクで印象は変えられる」と教えられた瞬間、初めて努力で覆せる評価を知ります。

生まれつきの美しさではなく、技術と売上で勝てる世界

生まれつきの美しさではなく、技術と売上で勝てる世界。クレシアンでトップを取り続けることは、単なる向上心ではありませんでした。売上ランキングの1位に自分の名前があることが、ようやく選ばれた側に立てた証のように感じられたのです。
しかしその証明は、他人の評価に依存するものでした。数字が下がれば、自分の価値まで揺らぐ。だからこそ、お嬢は売上にしがみつき、誰よりも結果を求め続けたのかもしれません。
一方で梨帆もまた、過去に自分の成果を他人に横取りされるという裏切りを経験しています。しかし彼女は、評価を取り戻すために誰かを打ち負かす道を選びませんでした。傷ついた過去を糧にしながらも、他人の物差しに自分を合わせるのではなく、「自分はどうありたいか」を問い続ける方向へ進んでいきます。


心理カウンセラーに聞く:なぜ人は「評価=自分の価値」と思ってしまうのか?

節子から指導を受けるお嬢

他人の基準で自分を証明し続ける生き方と、自分の内側に物差しをつくる生き方。その違いはどこにあるのでしょうか。
二人の道を分けた心理の違いについて、心理カウンセラーの白目みさえさんに伺いました。白目さんは臨床心理士・公認心理師として精神科に勤務する傍ら、『子育てしたら白目になりました』など母の日常をユーモラスに描くコミックエッセイストとしても活動。現場で多くの相談に向き合いながら、描き手としても心の動きを見つめ続けています。

──主人公の“お嬢”は、幼少期に容姿端麗な姉と比べられることでコンプレックスを抱き、美の道を目指します。子どものころに家族から受けた待遇から、かえってそこに執着してしまうことはよくあるのでしょうか?

白目さん:お嬢は、幼少期に美しい姉と比べられ続けた経験から、美の世界へと強く執着するようになります。こうした心理は特別なものではありません。みなさんにも覚えはないでしょうか。たとえば、子どものころにゲームを厳しく制限された人が大人になってから反動のようにのめり込んでしまったり、自由におやつを食べられなかった人がスイーツをやめられなくなったり。人は「認められたもの」よりも、「認められなかったもの」を取り戻そうとすることがあります。

お嬢の場合は、「美」という生まれ持った「どうしようもないもの」で比較されてきました。しかしあるとき、「コスメ」という手段によって、手に入らないと思っていた「美」を「手にできた」という感覚を味わいます。努力や工夫によって覆せると知った瞬間、それは単なる憧れではなく、自分の価値を証明する武器へと変わっていったのではないでしょうか。彼女にとって売上や結果は単なる報酬ではなく、自分の存在価値の代わりになるようなものだったのではないかと考えられます。


──上司からの「売上を作ることが正義」という価値観にも強く影響を受けたお嬢。他者からの強い言葉を飲み込み、自分に過剰なプレッシャーを課してしまう人にはどういった特徴があるのでしょうか?

白目さん:他者からの強い言葉を、自分へのプレッシャーに変換してしまう人には、いくつか共通点があります。
ひとつは、「他人の評価=自分の価値」と結びつけてしまうこと。姉も外見という意味で常に「評価」されてきました。多くの人が姉を「上」とし、自分を「下」とする場面を繰り返し目にしてきたお嬢にとって、評価をそのまま自己価値と重ねてしまうのは、ある意味で自然な流れだったのかもしれません。

もうひとつは、「期待に応えることで安心できた」という経験があること。本来は他人の価値観であるはずの「正しさ」が、いつの間にか自分の中の「絶対基準」になる。そうなると人は、自分を追い込んでいることにすら気づけなくなります。そして、その厳しさは他人にも向いていく…。こうした悪循環の構図に陥ってしまう人は、決して少なくないように思います。


――物語のキーパーソンとなる梨帆も、他者から裏切られた過去を抱えていました。お嬢と対照的に、この経験を乗り越え、後悔を晴らすべく行動に移した梨帆。二人の違いはどういったところにあるのでしょうか。

白目さん:二人の違いは、「評価を取り戻すこと」に向かったか、「自分を守ること」に向かったかの差ではないかと感じました。お嬢は、より高い評価を得ることで過去を塗り替えようとしました。一方で梨帆は、自分の考え方や行動を見直し、他者との間に一線を引くことで、自分の内側の基準を固めていきました。
前者は他人の物差しに沿って自分を整え、後者は自分の物差しを作り直した。その違いが、二人の歩む世界を分けたのではないでしょうか。


――本作品に出てくる登場人物はそれぞれ、働くうえで悩みを抱えています。そんなときに有効な対処法を教えてください。

白目さん:働く上で悩みを感じたとき、有効なのは「自分の考えをいったん中立に戻すこと」ではないかと思います。
作中では同僚の氷室が、賛同できないはずのお嬢にあえて相談を持ちかけ、強い言葉で非難されながらも「図星すぎる」と受け入れる場面があります。自分とはまったく異なる立場の意見に触れることで、自分の考えがどの位置にあるのかが見えやすくなるのです。

私自身も、仕事で「何かうまくいかない」と感じたときは、まず自分の価値観を疑うところから始めます。テストの見直しと同じで、「正しい」と思い込んでいる答えは、何度見返しても正しく見えてしまうものだからです。
そこで、まったく違う業種の人の話を聞いたり、普段なら読まない本に手を伸ばしたりします。すべてに賛同するためではなく、「そういう見方もある」と視点をゆるめるためです。
自分の中の「評価」や「正しさ」に縛られていると、本当に大切なものが見えにくくなります。異なる意見に触れ、自分をできるだけ中立に戻すこと。それが、自分なりの基準を育て、仕事の迷いや揺らぎを小さくする一歩になるのではないでしょうか。


評価に縛られないためにできること

売上トップでありながら孤立していったお嬢と、傷ついた過去を抱えながらも自分の軸を育てていった梨帆。二人の対比は、「他人の評価で自分を測る生き方」と「自分の基準をつくる生き方」の違いを浮かび上がらせます。
白目さんが語ったように、「評価=自分の価値」と結びつけてしまうと、人は知らず知らずのうちに自分を追い込み、周囲にも厳しくなってしまうことがあります。そんなときは、一度立ち止まり、自分の考えを“中立に戻す”こと。異なる意見に触れ、「そういう見方もある」と視点をゆるめることが、自分を守る第一歩になるのかもしれません。


【白目みさえさんプロフィール】
臨床心理士・公認心理師。心理カウンセラーとして精神科に勤務。漫画家としても活動。近著「子育てしたら白目になりました」が好評。

文=たまみ
アパレル・医療職を経て、現在はウェブライターとして活動中。3人の子どもを育てながら、20年近く仕事と子育てを続けています。家事も仕事も完璧にはできないけれど、「がんばりすぎない」を合言葉に日々奮闘中。慌ただしい毎日の中で見つけた小さな気づきや工夫を、等身大の視点でお届けします。


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