「家にいるのがつらい」妻に本音を言えない42歳夫の限界。家庭に安らぎを失った男が、最後に選んだ“逃げ場所”とは【著者に聞く】



運送会社で働く匠は、妻と息子との三人暮らし。妻は社交的ではあるものの夫への態度がきつく、彼は家庭で安らぐことができずにいました。職場は下ネタが飛び交う無遠慮な男性社会であり、気弱な匠はそこにも馴染むことができません。家庭にも職場にも居場所がない彼は、仕事の合間に「人のいない静かな場所」を探して休むことが唯一の心の安らぎとなっていました。

そんな匠が出会ったのは、同じように孤独を抱える43歳の主婦・胡桃。開発から取り残された寂れた公園で、ふたりは偶然言葉を交わします。似たような痛みを持ち、社会の隅で息をひそめるように生きるふたりは、いつしかお互いをかけがえのない「心のよりどころ」とするようになっていきます。一線は越えないままただ寄り添うふたりでしたが、その関係は、やがて匠の妻に知られてしまい…。
パートナーの言動の裏側にある本音に目を向けるきっかけになれば
――匠は妻との関係や職場での居心地に問題を抱えています。匠のエピソードを描いていて一番思い入れのあるシーンはどこですか?
とげとげ。さん:妻に自分の本音をひとつも伝えられないまま、諦めてしまう場面です。本当は分かってほしい。でもそれを言うことができない。だから代わりに、自分を卑下することで気持ちを処理してしまう。その姿は切ないですが、現実にもこうした男性は少なくないのではないかと思いながら描きました。匠を通して、「男性は強くあるべき」という呪縛に隠された弱さや、言葉にできない孤独にも目を向けてもらえたら嬉しいです。


――胡桃と匠に肉体関係はありませんが、匠の妻はふたりの関係を知ったときに「いっそのこと肉体関係があったほうが軽蔑して割り切れるのに」「一番タチが悪い」と夫をなじります。「肉体関係」と「心のつながり」のどちらが罪深いと考えていますか?
とげとげ。さん:単純に線引きすることはできないと思っています。どちらも、パートナーとの信頼を揺るがす行為であるという意味では、同じ重さを持っているのではないでしょうか。

体の関係なら「ただの欲」として処理し、物理的に断ち切ることもできます。でも、心がつながってしまうとそうはいかない。相手の人間性そのものに惹かれているからこそ、引き離すことは容易ではありません。だからこそ、肉体の不倫以上に「一番タチが悪い」と感じてしまうのだと思います。
この作品では、どちらがどうと結論づけるのではなく、痛みや複雑さそのものを見つめてもらえたらと考えました。
――『心の不倫は罪ですか?』を読み終えたあと、自分の家族やパートナーに対してどのような「違和感」や「気づき」を持ってほしいと願っていますか?
とげとげ。さん:物語の中には、いくつかのターニングポイントがあります。もしあの場面で、日々の忙しさや不満に押しつぶされることなく、もう少しだけ自分の素直な気持ちを言葉にできていたら。あるいは相手の気持ちを、ちゃんと聞こうとする余裕があったなら――。「心の不倫」という選択の裏には、そんな誰にでも起こり得る、ほんのわずかなボタンの掛け違いが存在しています。
家族やパートナーとの関係は、長く続くからこそ、すれ違いも積み重なっていきます。忙しさや遠慮の中で、本当の気持ちを置き去りにしてしまうこともあると思います。この作品を読み終えたあと、モヤモヤしたり、不満に感じたりする相手の言動の背景に、ふと目を向けてみたり、「どうしてだろう」と少し想像してみたり。そんな時間を持ってもらえたら嬉しいです。

取材・文=レタスユキ
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