肉体関係がなければ、婚外恋愛は本当に許される? 「プラトニックな関係」の是非を問う【著者インタビュー】

家庭に居場所を失い、心がひび割れていく43歳の母親・胡桃。彼女が偶然出会った男性と共有したのは、ただ隣に座って、一線をこえないまま弱音をそっとこぼす時間でした…。
肉体関係さえなければ、パートナー以外の誰かと深く心を寄せ合うことは許されるのでしょうか。漫画家・とげとげ。さんの新作『心の不倫は罪ですか?』は、一線をこえないまま依存する関係を通じて家族の問題に迫ります。
執筆のきっかけやキャラクターに込めた思い、そして「肉体関係のない男女関係」という形を選んだ意図について、著者にじっくりとお話を伺いました。
『心の不倫は罪ですか?』あらすじ
結婚20年目、43歳の主婦・胡桃(くるみ)は、息子の不登校をきっかけに家庭内で孤独を感じはじめます。「いい母親」であることが心のよりどころだったはずなのに、夫には寄り添ってもらえず、娘からは拒絶され…。


そんな時に偶然出会った宅配業者の物静かな男性・匠。公園で匠と過ごす静かな時間が、胡桃の唯一の癒やしになっていきます。ただ心を寄せ合うだけのプラトニックな関係でありながら、ふたりはその関係を誰にも言えずにいて…。
生きづらさを抱えた同士が身を寄せ合うような関係
――肉体関係のない、プラトニックな男女関係を題材にした理由を教えてください。
とげとげ。さん:きっかけは、ネットニュースで目にした「肉体関係のないセカンドパートナー」という言葉でした。その関係性に、精神的な癒やしや支えとしての効果が強そうだと感じたことが始まりです。また、「セカンドパートナー」という呼び名自体にも強く惹かれました。

――胡桃が心を通わせる相手の匠(たくみ)を、いかにもモテそうなスマートな男性ではなく、「運送会社の男性的な雰囲気になじめず、どこか自信のなさそうな人物」に設定した意図を教えてください。
とげとげ。さん:主人公の胡桃のように、自分に自信がなく、常に誰かの顔色をうかがいながら生きてきた女性が心を開く相手は、強くて完璧な人ではなく、どこか似た傷を持つ人なのではないかと思いました。世の中の隅のほうで身を寄せ合うように、お互いの抱えた痛みをそっとなで合うような、静かで優しい時間を描きたいと考えたからです。
ふたりの関係は恋愛というよりも、生きづらさを抱えた同士が身を寄せ合うような関係で、どこか疑似家族のような安心感も生まれていく。そんな距離感になるように描いています。
また、いわゆる“魅力的な男性との恋”にしてしまうと、「不倫=悪」という単純な構図で読まれてしまう可能性がありそうだと思いました。弱さや不器用さを抱えた二人だからこそ、「これは単なる欲望なのか、それとも救いを求めた結果なのか」と、少し立ち止まって考えてもらえるのではないかと思いました。物語として断罪でも肯定でもなく、その関係の背景や心の動きを見つめてもらえるような人物像にしたいと考えました。


――胡桃の夫婦も匠の夫婦も、それぞれ夫婦間に問題を抱えています。偶然知り合ったふたりは次第に一緒に時間を過ごすようになりますが、その場所を「公園」と「ネットカフェ」にした理由を教えてください。
とげとげ。さん:二人が会う場所を「公園」と「ネットカフェ」にしたのは、物語の空気感と重なる場所にしたいと思ったからです。公園は、開発から取り残されたような少し古びた場所に設定しました。どこか世の中の中心から外れた、静かな空間です。それは、社会や家庭の中で居場所を見失いかけているふたりの状況とも重なります。誰の目にも止まらないような場所で、ただ身を寄せ合うことができる、そんな地味な場所として描きました。
ネットカフェを選んだのは、二人の関係が肉体的ではなく、あくまでプラトニックな距離感で続いていくことを自然に表現できる空間だったからです。個室でありながら、完全な密室ではない。どこか“一線を越えているようで越えていない”あいまいさを持つ場所でもあります。その微妙な距離感が、二人の関係性を象徴していると感じました。

――胡桃と匠は「肉体関係の一線をこえないまま、ただ一緒に過ごす時間」に救いを求めます。ふたりにとっての「救い」をこの距離感にした理由は?
とげとげ。さん:胡桃と匠は、社会の中でどちらかというと弱い立場にいて、自分の気持ちを強く主張することが得意ではない人たちです。繊細で、これ以上傷つきたくないという思いから、どこか過剰に自分を守ろうとしている部分もあります。だからこそ、お互いにとって刺激が強すぎない、安心できる距離感がこの形だったのではないかと考えました。
ふたりの関係は、恋愛というよりも、ただ一緒にいて心が落ち着く時間を共有するようなものです。スキンシップも、子どもが母親に安心を求めるような、穏やかな触れ合いの範囲にとどめています。そうすることで、ふたりにとっての「救い」が、欲望ではなく安心感や癒やしに近いものとして描けるのではないかと思いました。
* * *
孤独を抱える男女がようやく見つけた「逃げ場」は、さびれた公園やネットカフェでの逢瀬でした。家庭での立ち位置を見失い追い詰められたふたりが、孤独の限界で手にした「心のよりどころ」。とげとげ。さんが提示したこの物語の結末を、あなたはどう受け止めるでしょうか。
取材・文=レタスユキ
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