「私、整形したい」容姿を気にして手術を希望する12歳娘。ルッキズム社会に直面する母娘の葛藤【著者に聞く】



「お母さん、私、整形したい」
ある日突然そう切り出したのは、まだ12歳になったばかりの中学生の娘・ひかりでした。あまりに思いがけない言葉に、母の彩は動揺します。ひかりが望んだのは、糸でまぶたを二重にする「埋没法」の手術でした。「こんな目で学校に行きたくないよ……」とまで言い出すひかり。詳しく話を聞いてみると、そこには現代の子どもたちが生きている過酷な現実がありました。


同じクラスの友人で、ひかりと同じ名前の「ヒカリちゃん」は、すでに二重整形を済ませているというのです。周囲のクラスメイトからは、残酷にも二人の容姿を比較され、ひかりの心は深く傷ついていました。

居ても立ってもいられず、単身赴任中の夫に電話で相談してみるものの、「俺は反対だな」とバッサリ。夫の意見に納得しながらも、彩の脳裏には、ずっと心の奥底に仕舞い込んでいた自分自身の学生時代の記憶が蘇ります。「目、細っ!睨むなよ!」と男子から浴びせられた理不尽な暴言。隣にいた可愛い友達と勝手に比べられ、惨めでたまらなかったあの頃の景色。

あれから20年以上が経ち、令和を生きる子どもたちにとって、整形は彩が若かった頃よりもずっと身近で、特別なものではない時代になっています。何より、娘のその「一重の目」は、自分自身にそっくりな目でもありました。だからこそ、娘が今どれほどの絶望の中にいるのか、その痛みが彩には我がことのようにわかってしまうのです。


悩み抜いた彩が下した決断は、反対して突っぱねることでも、すぐに手術を承諾することでもありませんでした。まずは一緒に美容クリニックへ行って、カウンセリングを受けてみること。プロの医師からリスクや現実をしっかり教えてもらい、その上で娘と一緒に考えたい。これが今の自分にできる、母親としての最善の選択なのだと信じて、一歩を踏み出すことにしたのです……。


『14歳で整形した私』の著者が、今作で「母親」を描いたわけ

――これまで「整形」というテーマに様々な角度から光を当ててこられたうみのさんですが、本作では「整形を望む中学生の娘を持つ母親」という、これまでにない視点が印象的でした。今回、この“母親の視点”から物語を描こうと思われたきっかけを教えてください。
うみの韻花さん:これまで私は『14歳で整形した私』をはじめ、自分自身が14歳で整形をした経験をもとに「整形をする当事者」の目線から作品を描いてきました。しかしふと、「当事者ではなく、それを一番近くで見守る第三者の目線から見たら、この問題はどう映るのだろう?」と疑問に思ったのがきっかけです。
当事者の視点だけでは見落としてしまう、周囲の戸惑いや葛藤を描きたいと考えました。一番身近で、かつ影響力の強い第三者である「親」の視点に立つことで、整形というテーマをより客観的に、そして社会全体の課題として描けるのではないかと考えたんです。
加工された完璧な顔が溢れる時代に、もし10代の自分が生きていたら……

――ごく普通の中学生だった主人公・ひかりが、周囲の目を意識するうちに、自分の見た目の美醜に激しく囚われていく姿がとてもリアルで胸に刺さりました。この「ひかり」というキャラクターは、どうやって生み出されたのでしょうか?
うみの韻花さん:ひかりは、「もし、ルッキズムがこれほど蔓延する現代社会に、10代の頃の私が生きていたらどうなっていたか」を想像して作り上げたキャラクターです。SNSを開けば加工された完璧な顔が溢れ、常に誰かと比較させられる今の時代に当時の私がいたら、きっとひかりと同じように自分の美醜に激しく囚われ、もがいていたはずです。
彼女は決して特別な子ではなく、現代の波に飲み込まれ、自分の価値を「見た目」という一つの物差しでしか測れなくなってしまった、どこにでもいる普通の女の子として描くことを強く意識しました。
「そのままのあなたが可愛い」という親心と、娘の現実の苦しみ

――はじめは中学生の整形に対して戸惑いを抱いていた母親の彩が、やがて「ひかりの力になりたい」と、美容クリニックへカウンセリングに行くことを決意します。この決断に至るまでの彩の心の葛藤についてお聞かせください。
うみの韻花さん:親としては「そのままのあなたが一番可愛い」と心から思っている。でも、娘は今まさに容姿のことで苦しんでいる。彩は最初、正論で娘を説得しようとしますが、やがて「社会がルッキズムで回っている以上、親の愛だけではこの子を理不尽な評価から守りきれない」という残酷な現実に気づきます。そして、娘が幸せになれるなら、整形をするのも一つの親の愛情ではないかと考えるようになります。そうなってしまったのも、周りの環境が一つの要因だと思います。
* * *
子どもの幸せを願うからこその「正論」が、ルッキズムという残酷な現実を前に揺らいでいく。彩が下した決断は、決して他人事ではなく、現代を生きるすべての親が直面し得る切実な問いを投げかけています。
取材・文=宇都宮薫
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