いじめ問題の解決に大切なことは?4年にも及ぶいじめを描いた『家族全員でいじめと戦うということ。』著者インタビュー
いつ、どんなきっかけで発展するかわからない、いじめ問題。誰しも、いじめの被害者、加害者にならないとは言いきれないものです。
『家族全員でいじめと戦うということ。』は小学5年生になるハルコが受けた、4年間にも及ぶいじめの記録が記されたコミックエッセイです。家族がハルコのいじめと向き合う様子、いじめに関わる児童や保護者・学校、それぞれと向き合い戦う様子が描かれています。
この作品の著者・さやけんさんに「いじめ問題を解決するために大切なこと」についてお話をうかがいました。
「気づけるタイミングはあったはず…」娘が過ごした辛過ぎる4年間
【あらすじ】
主人公のナツミは、小学5年生の娘・ハルコが4年間にわたって学校でいじめを受けていたこと、そのことをずっと隠して通学していたを知って愕然とします。
ハルコが家族にも隠し続けて一人で抱えてきたのかと思うと、涙が止まらないナツミ。ですが、「焦らずいこう」と夫婦で決意します。
ある日、学校へ行こうとすると急に歩けなくなってしまったハルコ。それでも「学校に行きたい!」と、泣き叫ぶハルコの様子は、まるで何かが崩れるかのようでした…。
それから部屋にこもるようになったハルコ。「学校に行きたいか?」と父親のアキオが質問すると、「毎日ちゃんと無視されにいかないとそれだけじゃ済まなくなる…」と、ハルコは本音を口にしたのです。
いじめの原因を探るため、ナツミとアキオはハルコへのいじめについて知っていた同級生・まやの母のもとを訪れます。まやの母は、ハルコへのいじめを見ていながら何もできずにいたのは、自分の子どもを同じ目に遭わせないためだったと話し、ナツミとアキオに謝罪します。
「本当のことが知りたい」というナツミとアキオの思いは届き、ハルコの同級生まやがこれまでの4年間について話してくれました。その話を聞いたナツミはいじめと戦う決心を固め、学校との面談に臨むのでした……。
本作品を通じて著者が感じた「いじめ問題」への関わり方
―――主人公の夫婦がハルコに寄り添い、「いじめ問題」に立ち向かっていくシーンを描く際、気を付けたこと・意識したことはどんなことですか?
さやけんさん:ひとえに「我が子のため」と言いながらも親の気持ちは複雑で、本当なら加害者に心から謝罪をしてほしい。あわよくば同じ目にあわせてやりたい…など綺麗事では済まされない感情が溢れてくると思います。作中でも、ナツミがそういった感情に飲み込まれそうになりながらも、夫婦で手を取り合い「本当に娘にとって一番良い結果はどういうものか」だけを考える…というのはなかなかできることではないかもしれませんが、そういった夫婦の決断に共感してもらえるよう、できるだけ細かい描写を心がけました。
―――子どもの「いじめ」と向き合い、戦うために、さまざまな方から話を聞くシーンがありました。子ども・その親・学校側などそれぞれの視点からこのいじめ問題を見るたびに、新たな側面が浮かび上がってきますが、どのようなことを意識しながら描かれましたか?
さやけんさん:話が進むにつれて色々な真実を紐解いていく、ある意味謎解きのような部分もあったため、ある特定のキャラクターを描くことに特段気を遣いました。
その後の展開などは一旦忘れ、その時、その時でしか知り得ない情報だけで、作中の登場人物たちの感情やセリフを慎重に、そして全力で描かなければ。と何度も描き直しながら描き進めました。時には30話を超えるエピソード全てを描き直したりなどもありました。
―――ハルコの父・アキオがいじめ問題と冷静に向き合って対処する姿が印象的でした。アキオを描く上で気をつけたことや、工夫した点などを教えて下さい。
さやけんさん:夫婦共に感情的になってしまっていたら、幸せな結末にはつながらなかったかもしれません。父であるアキオは、問題解決において最も重要といっていい存在でした。
口数も少なく感情的にならないアキオですが、理路整然とした冷たい印象にならないよう、家族想いであたたかな空気感を描けるよう気をつけました。
―――本作品を描くことで、さやけんさんご自身も「いじめ問題」について考えさせられたのではないかと思うのですが、ご自身の子育ての考え方や子どもへの接し方に変化はありましたか?
さやけんさん:友人家族のように仲良しファミリーだとしても、我が子の変化に必ず気づけるとは限らない。子どもがいじめ被害を「絶対に悟られないようにしよう」と行動すれば、たとえ幼い子どもだとしても親は気づくことは難しくなるのだということを思い知らされました。この漫画を描いたことで、以前よりもよく子どもたちのことを見て、意識して会話をする機会も増えました。
また、どんなくだらない他愛ない話でも気軽にできる関係でいられるよう、家族仲が良くないとね!と。元々夫婦仲は良いほうだったのですが、ますます仲が良くなった気がします。スポーツの習い事を親子でがんばるなど、子どもとの時間もますます増えました。
―――この作品を通して「いじめ問題」を解決するために大切なことは何だと感じましたか?
さやけんさん:気づいたことがたくさんあるので、短くまとめるのは難しいのですが、まずはいじめ被害に遭った子の心に一番に寄り添うこと。無視や悪口などを行なっている子の周りの児童が「同調しない勇気」を持ち、それを行うことを「居心地が悪い」と感じてもらうこと。作中に出てくるセリフですが「この子だからいじめられるわけじゃない」「あいつらは誰かひとりをいじめていないと気が済まない」という傾向は現実にもあると思います。学校の先生方だけで解決できる問題ではないことから、被害者・加害者・傍観者になってしまったクラスメイト全員の保護者が、そういった環境に置かれた我が子ひとりひとりと向き合うことが大切だと感じました。
***
いじめ問題を解決するために大切なことの一つに、周りが「同調しない勇気を持つ」ことだとお話くださったさやけんさん。被害者だけでなく、関係者のひとりひとりが「勇気」を持ち、真剣に向き合うことが「いじめ問題」を解決する一歩になるはずです。
取材・文=畠山麻美
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