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窓から女性が入ってきて、2階に棲みついている?霊能力に目覚めた義母?!/子育てとばして介護かよ(4)

久しぶりに会った親が「老いてきたなぁ」と感じることはありますか?
著者の島影真奈美さんは31歳で結婚し、仕事に邁進する日々を送っていました。33歳で出産する人生設計を立てていたものの、気づけば30代後半!いよいよ決断のとき…と思った矢先、なんと義父母の認知症が立て続けに発覚してしまい…。
話題の書籍『子育てとばして介護かよ』から、仕事は辞めない、同居もしない、今の暮らしを変えずに親の介護を組み込むことに成功した著者の、笑いと涙のエピソード『窓から女性が入ってきて、2階に棲みついている?霊能力に目覚めた義母?!』をお届けします。
※本作品は島影真奈美、川著の書籍『子育てとばして介護かよ』から一部抜粋・編集しました
おとうさんは、その女の人を見たことがありますか?
窓から女性が入ってきて、天袋を通り抜けて2階に上がっていった。そして、そのまま棲みついている。義母はプンプンしながら話していたが、冷静に考えるとかなりホラーな状況だ。夫の実家では何が起きているのか。
わたしは混乱しながらも、少し前にライターの仕事で出向いた取材現場で聞いた話を思い出していた。
認知症には、さまざまな予兆があるという。たとえば、久しぶりに訪れた実家の冷蔵庫に、賞味期限切れの食材があふれていたら黄色信号。部屋がすさまじく散らかっているときもおなじく、認知症のサインの可能性がある。もの忘れがあると、すでに在庫が十分にあっても次々にものを買い、その結果、自宅がものであふれてしまうのだ。ものをしまった場所がわからなくなり、「ドロボウに盗まれた!」と言い張ることも珍しくないと聞いた。
さらに、もの忘れはあまり目立たないけれど、〝見えないものが見える〞という症状が出るタイプもあるという話だった。義母が言っていた「2階にいる、小太りの女性」はまさに、その話に当てはまるのでは……?
言葉を慎重に選びながら、義父母に認知症の心配がありそうなことを夫に伝えた。夫はわたしの想像よりもはるかに楽観的で「マジか!」と笑っていた。
「まあ、親父もおふくろもいい年齢だし、そういう話が出てきても不思議はないよ」
冷静な反応である。ただし、続きがあった。
「あわてて結論づけるのはやめよう。突然、おふくろが霊能力に目覚めた可能性もゼロではないから」
浮気窃盗疑惑に空き巣騒ぎ、認知症の疑いに続いて、まさかの霊能力者説が浮上した。冗談かと思ったら、夫は大真面目だった。そして「しばらく様子を見よう」と言ったまま、一向にアクションを起こす気配はない。
ギリギリにならないと動かない。夫には昔からそういうところがあった。結婚前に半同棲のように暮らしていた部屋が更新時期を迎え、新しい部屋を探すとなったときも、夫は「いい物件が出てくるのを待とう」と繰り返した。焦ったわたしが急かしても微動だにせず、「引っ越しする気あるの?」「あるに決まってるだろう」と何度も大喧嘩をした。その後、もう一度引っ越しをしたが、最初の経験をふまえて放置したところ、いよいよ後がないという時期になったら、迅速に動き始めた。一度動くと、早い。テキパキと段取りをし、きっちり帳尻も合わせる。ただし、動き出すタイミングを決めるのは彼自身で、周囲がワーワー騒いでも馬の耳に念仏だ。
おそらく今回の実家の不穏な動きについても、同じことが起きる。わたしが「どうするの?」「連絡しなくていいの?」と口を出してもうるさがられるだけ。あきらめにも似た確信があった。
ただ、引っ越しのときのように、放っておくこともできなかった。正体がわからないぶん、不安も募った。
結局は、わたし自身が夫の実家に電話をかけてみることを選んだ。夫には「そのうち、ご機嫌うかがいの電話をかけて、ついでに様子を聞いてみるよ」とだけ伝えてあった。
実際のところ、手短に話を終わらせるつもりでいた。2階に棲みついたという女性の話は想像すればするほど怖かったけれど、夫の「ある日霊能力に目覚めてしまった」という話も、100パーセントないとは言い切れないとも思っていた。むしろ、本当に誰かが住んでいるほうが状況としては恐ろしい気もしていた。
わたしは今、とんでもないびっくり箱を開けようとしているのか。ドキドキしながら夫の実家に電話をかけた。
「あら、真奈美さん! あなた、お元気?」
電話をとるなり、義母は上機嫌だった。
「あの子は風邪を引いたりしていないかしら?」
「おかげさまで元気にやってます」
「そう。昔から丈夫なだけが取り柄でね。よく食事をとってますか?」
「はい。おかあさんたちはいかがですか。最近、急に寒くなってきたから体調を崩したりしてないかと思って……」
「こちらはおかげさまで変わりなくやってますよ」
お約束になりつつあるやりとりだが、義母はうれしそうだ。さりげなく会話の中に生活状況を確認する質問を織り交ぜる。たいていは即座に回答が返ってきた。
「食欲は困っちゃうぐらいあるの」
「睡眠もよくとれているわよ」
「お通じも問題ないわね」
調子はかなり良さそうだった。なにより、認知症を疑ったのが申し訳ないぐらい、テンポの良い会話が成立する。わたしの考えすぎだったのか。取り越し苦労だったのかもしれないと反省しかけた矢先に、「唯一の悩みはね、ヘンな居候がいることなのよ」と、義母が小声になった。
「居候っていうのはね、女の人なの。そうそう、この間話したあの人ね。近所に住んでるみたいなんだけど、どこの誰なのかはよくわからないわね。以前に会ったことがあるのかしら。よく知らないわ。でも、なんだかヘンな人なのよ。こちらがあいさつしても知らんぷりなの。まったくどういう人なのかしらね。どうも様子がおかしくて、いつもこちらの様子をじーっとうかがっているの。気味が悪いでしょう? しかも、こちらが油断してると部屋に勝手に入ってきて、いろいろなものを持って行っちゃうの。ホント、イヤになっちゃう」
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