夫婦ふたりと愛猫の深い絆。家族で向き合う最期のとき
病気の影響で、だんだんとぼんやりとすることが多くなったというちゃーにゃんは、大好きなささみを見ても無反応になることも…。そんなときは、カニカマを出してカシャカシャ音をたてると、ちょっと食欲を思い出してくれたそうです。ねこゆうこさん夫婦は食欲が不安定になっていたちゃーにゃんが、食べたいときにすぐ出せるよう、心がけていたそうです。
ちゃーにゃんは、ねこゆうこさん夫婦が仕事で家を空けている間に、ときどき口元を掻いて前足がガンにあたって出血していました。 そのため、出血がひどくなってきたちゃーにゃんにカラーを付けてあげることにしたそうです。結果、思考錯誤しながら作ったカラーで口を掻くことを防げるようになりました。
ねこゆうこさん夫婦がみてあげられるときはなるべくカラーを外していましたが、少し目を離したすきに口を掻いて左前足が血まみれになってしまうちゃーにゃん。 ちゃーにゃんの左手はよだれや血の汚れでカピカピになり、拭いてもなかなか落ちないため、ぬるめのシャワーで洗って少しでもさっぱりできるようにしていたそうです。
ある日の朝、ちゃーにゃんが大量出血してしまいました。 どろっとした血だまりが流れ落ちてきて、血だらけになってしまったちゃーにゃん。それでも、ごはんを食べようとするちゃーにゃんの姿に、ねこゆうこさん夫婦は勇気づけられます。
流れる血や、膿などの悪臭を少しでも和らげてあげたくて、口の中を洗ってあげようとすると…。悲鳴をあげて逃げるちゃーにゃんに、心を痛めたねこゆうこさん夫婦。15年間ちゃーにゃんと暮らしてきた夫婦は、初めてちゃーにゃんの悲鳴を聞いたそうです。 お膳の下でブルブル震えるちゃーにゃんに「ごめんね、もうしないよ」と声をかけると、ちゃーにゃんはねこゆうこさん夫婦の元に歩み寄ってくれたそうです……。
本作品について、また飼い主としての思いをねこゆうこさんにうかがいました
著者・ねこゆうこさんインタビュー
―――本作品のもとになったブログを書くきっかけを教えてください。
ねこゆうこさん:ちゃーにゃんのことを記しておきたくてはじめたブログでした。 今はこんなにも細かいことまで覚えていても、時と共にだんだんと忘れていってしまうこと、それがとても怖かったです。 ちゃーにゃんを忘れていってしまうであろう自分が怖かったのです。
はじめは漫画ではなく、毎日のちゃーにゃんの食事内容やトイレの回数、お医者さんに言われたことなどを備忘録として、非公開で日記形式のメモ代わりに書いていました。
そして看病中、同じ病気の猫ちゃんを看病しているたくさんの飼い主様たちのブログにとても助けられました。 ただ、同じ扁平上皮癌であっても、猫の個体によって違いはたくさんあったので、ちゃーにゃんの記録もその中のひとつの例として、そうなれたらいいなと思いました。
看病中は漫画を描く余裕はなかったのですが、亡くなってからはゆっくりと、ちゃーにゃんとの思い出をたどりながら描いていきました。
―――ちゃーにゃんとの最期の時間やこの体験を漫画に描くときに、心がけた点や工夫した点などはありますか?
ねこゆうこさん:なるべく自分のその時の気持ちを正直に描こうと思いました。 漫画には描ききれなかったことや、読みやすいように多少のエピソードの省略などはあるのですが、その時自分はどんな気持ちだったかは、正直に描こうと思いました。
―――読者の方からSNSなどで反響はありましたか?また、印象に残っている言葉はありますか?
ねこゆうこさん:うれしかった反響はたくさんありました。 ちゃーにゃんのお話が励ましになったと言ってもらえたり、思いを共感してくださったり。
動物が病気になって、どんな治療をするのかは人間にゆだねられているのですが、さまざまな意見があると思います。
手術をしないと決めた飼い主さんで、「果たしてこれでよかったのだろうか」と考えない人はいないと思うのです。 反対に、手術を決めた飼い主さんであっても、「果たしてこれでよかったのだろうか」と考えるとも思います。 なにをどう判断しても「もし、あのとき」を考えてしまう。
でも、ちゃーにゃんと同じように、手術をしなかった猫ちゃんの飼い主さんから「改めてこれでよかったと思うことができた」と言っていただいたことがあり、そのとき、自分でも「私もこれでよかったんだ」と考えることができました。
―――ちゃーにゃんを看取られたときの思いをお聞かせください。
ねこゆうこさん:看取るときは…「そんなばかな…まだ早いでしょう?」と思いました。 ただただ信じられなかったのです。 ちゃーにゃんがいない世界がくるなんて、もうこの世にちゃーにゃんがいないなんて、信じられなかったです。
―――最後に、現在闘病中のペットの看病や、老いたペットの介護をしている飼い主さんに伝えたいことはどんなことでしょうか。
ねこゆうこさん:介護や看病は本当に大変だと思います。 それでもきっと、その子は飼い主さんであるあなたと一緒にいられて幸せだと思います。 動物たちは、きっと全部、わかってくれていると思います。
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15年という長い月日を共にしてきた夫婦ふたりと猫一匹の家族。 愛猫の突然のガン宣告から生活が一変し、さまざまな葛藤と向き合いながらも夫婦が願っていたのは愛猫の幸せでした。命あるものに必ず訪れる「最期」について考えるきっかけになれば幸いです。
文=畠山麻美