「夫はいつか、私のことも忘れる…?」若年性認知症と向き合う家族を描いた、闘病セミフィクション

#くらし   
家族の顔もわからなくなるなんて…

「若年認知症」を知っていますか? 一般的に、認知症というと65歳以上の高齢者がかかる病気というイメージがありますが、実は働き盛りの40代・50代がかかることもあるのです。このように65歳未満の人が発症した場合、そう呼ばれます。症状が進行すれば家族の顔さえも忘れてしまい、別人のように変わってしまうことも。

そんな「若年性認知症」をテーマに描いたコミックエッセイが、『夫が私を忘れる日まで』。著者の吉田いらこさんは、「レタスクラブコミックエッセイ新人賞 powered by LINEマンガ インディーズ」の入賞作『家族を忘れた父との23年間』でも描いているように、お父様が脳の病気によって記憶力に障害が残り、性格も変わってしまったという経験をされています。

本作は、そんな経験を基にしたセミフィクション。吉田さんが本作を通して、読者に伝えたいこととは?

45歳で、若年性認知症と診断された夫

なんてことのない、私たちの日常

45歳の夫・翔太、小学5年生の息子・陽翔と、なんてことのない「普通」の日常を送っていた主人公の彩。ある時から、穏やかで几帳面な性格の翔太が忘れっぽくなってしまったことを感じつつも、疲れのせいだ、気のせいだと、気にも掛けませんでした。

子どもを置いて、ひとりで先に帰ってきた翔太

ところがある日、翔太と陽太の2人で映画を観に出かけたところ、なんと翔太は陽翔を置いて1人で家に帰ってきてしまいます。その出来事をきっかけに病院へ…。

若年性認知症と言っていいと思います

そこで医師から伝えられたのは、「若年性認知症」という残酷な診断…。治療法は確立されておらず、症状が進むと時間や場所の感覚がなくなり、人の顔さえわからなくなる病だといいます。前向きに頑張ろうとする彩ですが、現実は…?


若年性認知症の発覚までと、診断後の大変さ

昨日も同じこと言ったよ

――発症から受診までに時間がかかる病気だと言われている、「若年性認知症」。翔太が病院を受診したのも、決定的な出来事が起きてからですね。その理由は、なぜだと思われますか?

吉田いらこさん:作中の彩と翔太もそうですが、物忘れなどの初期症状が現れても「疲れているせいだ」と考える方が多いのだと思います。毎日が忙しく、自分自身のことは後回しにしてしまうのではないのでしょうか。

私は前向きに考えていきたい

――若年性認知症と診断された後、「前向きに考えていこう」と言う彩に対して、翔太は深刻な表情を浮かべていました。この時、翔太はどんな思いを抱えていたのでしょうか?

吉田いらこさん:家族や仕事など背負っているものが多いうえに本人がまじめな性格なので、将来に絶望しています。当事者は、周りに励まされてもなかなか前向きに…とはいかないものですし、受け入れるには時間がかかるはずです。


当事者が、家族が、孤独にならないために

――若年性認知症の症状が進行し、自分でできる限りのことはやりたいけれどできない、周りに迷惑をかけたくない…という葛藤と孤独に戦っていた翔太。それを日記で知った彩は、翔太の行動を制限していた自分が夫を追い詰めていたのでは…と後悔します。若年性認知症の人が孤独にならないために、大切なことはなんだと思いますか?

吉田いらこさん:本人ができないことがあっても、プライドを傷つけないようにすることが必要なのかなと思います。それが、なかなか難しいのですが…。

今回は失敗しちゃったけど、次はきっと…


――では、若年性認知症の家族が孤独にならないためには、どんなサポートが必要だと思いますか?

吉田いらこさん:二つありまして、一つは患者さんと介護者が離れる時間。もう一つは、同じ悩みを話せる相手や場所だと思います。

黙って話を聞いてくれた


――病気・介護など悲観的になりやすいテーマに触れながらも、彩が「これからの家族との日々を大切に過ごしていこう」という、前向きな気持ちで結末を迎えています。そこに込めた、吉田さんの思いとは?

吉田いらこさん:現実の介護は壮絶で、真っ暗なトンネルをずっと歩いているような気持ちになります。早めに出口にたどり着ける人もいれば、最後まで出口が見つからない人もいると思います。そういった意味で、前向きな結末にするのは綺麗ごとだと思う人もいるかもしれません。ですがこの作品を描き進めていく中で、「何もできなかった過去の自分も肯定してあげたい」という思いが生まれ、過去を受け入れてまた新しい一歩を踏み出すエンディングにしようと思いました。

   *      *      *

若年性認知症を患った当事者と介護する家族。そのどちらに対しても、ケアが必要だという吉田さん。本作を読むことで、実際に介護に悩む人たちが一歩を踏み出すきっかけになれば…という思いも感じられました。

取材・文=松田支信

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