死んでる場合じゃないよ、私の体! 大腸がんをきっかけに気づいた本当にやりたかったこと

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 死ぬのかな…私…

大腸がんになった経験をコミックエッセイ「痔だと思ったら大腸がんステージ4でした 標準治療を旅と漫画で乗り越えてなんとか経過観察になるまで」にまとめた漫画家のくぐりさん。彼女は当初、体の不調を痔だと思い込んでいましたが、医師のすすめで受けた精密検査で大腸がんだと宣告されてしまったという経験をしています。

そのときモニターに映った直腸を埋め尽くすほどのがんは、すでにほかの臓器にも広がっていて手術は不可能。抗がん剤でしか治療ができない状態でした。過酷な経験を乗り越えたくぐりさんに、辛かった抗がん剤入院のことや、漫画についてのお話を伺いました。

【あらすじ】退院しても続く抗がん剤の副作用

息子との再会

過酷だった3泊4日の抗がん剤入院を終え、無事に帰宅したくぐりさん。息子さんとの再会を喜んだのもつかの間、彼女を待ち受けていたのは抗がん剤の副作用でした。

副作用

脱毛

倦怠感に味覚障害、繰り返す便秘と下痢、そしてついには髪にまで。ストレートだった髪はごわごわになり、洗髪すると大量に脱毛するようになりました。

生きるために髪は諦めると決意していたものの、いざ抜けていく髪を見ると気分は落ち込んでしまうのでした。

すべての仕事を辞める

さらに、がんになったことですべての仕事を辞めざるを得なかったことも、気分の落ち込みに拍車をかけました。くぐりさんは自分がからっぽになったような虚しさを感じていました。

本音を言えるのは

外では気丈にふるまっていたものの、本音はそれどころではなく、泣きながら夫に感情をぶつけることもしばしば。本音を言えるのは夫だけだったのです。

自分がほんとにやりたいこと

以前は家事や仕事など、目の前のやるべきことにばかり気を取られていましたが、それらがなくなって、自分自身と向き合うようになります。そしてくぐりさんは「家族を大事にしよう」「自分がほんとうにやりたいことをやっていこう」と決意を新たにするのでした。

あきらめていた漫画賞にもチャレンジすることを決め、漫画家として再出発。2度目の抗がん剤入院中の彼女に、漫画担当者から電話がかかってきました。

漫画賞受賞の連絡

なんと漫画賞を受賞したことを知らせる内容でした。
「死んでる場合じゃない! 私は漫画を描くんだ!!」

死への恐怖からの解放

2回目の抗がん剤の副作用が落ち着いたくぐりさんは、本格的に漫画に取り組みはじめました。漫画を描くことで、死への恐怖から解放されたように感じていたのでした。

漫画家くぐりさんインタビュー

――抗がん剤投与のための入院から帰宅後、気持ちが落ち込んでらっしゃいました。それを乗り越えられたのはなぜですか?

くぐりさん
「好きなことを優先してやっていったからです。漫画を描くこと、旅すること、辛い抗がん剤投与期間を超えれば家族と一緒の楽しいことが待っているんだ!と思って治療を続けることができました」

これから家族と


――闘病中「他人には強がっていても、本音を言えるのが夫だけだった」というのが切なかったです…。やつれていくご主人様をみてどんなことを考えていましたか?

くぐりさん
「最初はひたすら夫に気持ちをぶつけてしまいました。夫の気持ちも考えず…。しばらくしてがん治療する毎日に慣れてきて、少し自分を客観的に見ることができるようになってきた時に夫を見ると、痩せて辛そうな笑顔を見せるようになっていることに気づきました。

もともと夫のほうが泣き虫でよく泣くのに、私が病気になってからは夫は泣くのをこらえているんだな、私の気持ちを一人で受け止めて苦しいんじゃないかな?と気づきました。それからは夫に『私の気持ちばかりぶつけてごめんね、夫もしんどいよね?』と声をかけるようになりました。」

40代になったら


――病気になってお仕事や家事ができなくなりご自分を見つめなおした結果、本当にやりたいことが漫画と旅だったそうですね。それに気づいたときはどんな心境になりましたか?

くぐりさん
「漫画家になりたいと小さいころから思っていたのですが、一番叶えたい夢に挑戦して失敗したら心が立ち直れないと考えるとものすごく怖いので、無意識にさけて挑戦しないでいる自分に気づきました。八十八ヶ所も40代になったら周りたいと思っていましたが、がんにならなかったら40代になっても周っていなかったかもしれません」

――2回目の抗がん剤投与の入院中、極限状態のなかで漫画賞受賞の報を聞いたときのお気持ちをお教えください。

くぐりさん
「抗がん剤点滴中、辛くて苦しくて汗と涙と鼻水とヨダレまみれでしたが、全身から生きるエネルギーがブワッと湧き出る感覚がありました。がんばって描いてよかった、諦めないでよかった、これからももっと漫画を描くんだ、死んでる場合じゃないよ、私の体!と思っていました。抗がん剤を受けながら嬉し涙を流すことになるとは思ってもいませんでした」



    *      *      *

がんの闘病中に本当にやりたいことが漫画を描くことだと気づき、現在は漫画家として活躍中のくぐりさん。「今後は、エッセイ漫画にかぎらず、自分の好きなジャンルにも挑戦していきたいです」と決意をお話してくれました。闘病をかてに、新たな道を突き進むくぐりさんを応援していきたいですね。

取材・文=山上由利子

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