新生児を公園に…容疑者はかつての親友だった。話題作『望まれて生まれてきたあなたへ』やまもとりえさんインタビュー

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

4月1日に発表されたやまもとりえさんの最新コミック『望まれて生まれてきたあなたへ』。
テレビでみかけた新生児遺体遺棄事件の容疑者が昔の親友だったことに衝撃を受けた主人公・まどかは、子どもの頃の記憶を徐々に蘇らせていきます。一体どうしてこんなことになってしまったのか…。どこが2人の分岐点だったのか…。
「子どもの間にある格差」を描き、大きな反響を呼んでいる本作。今回は、著者のやまもとりえさんに作品を描いたきっかけについてお話を伺いました。

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『望まれて生まれてきたあなたへ』あらすじ

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

小児科医のまどかは、病院のテレビで新生児遺棄事件を報じるニュースを目にします。それは、母親が生まれたばかりの赤ちゃんを公園に埋めたというショッキングなものでした。

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

そして、逮捕された女の顔を見たまどかは、ふと子どもの頃を思い出します。屈託のない笑顔で虫取り網を振り回すあの子のことを。

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

テレビに映る無表情で疲れ果てた様子の容疑者は、まどかが子どもの頃に仲良しだった友人・のぞみだったのです。

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

公園で色オニをしたりのぞみの家でお絵描きをしたり…。思い出すのは、ただただ楽しくて幸せだった子ども時代のこと。しかし、学年が上がるにつれて、それぞれの環境が少しずつ変わり、すれ違っていくことに……。

死亡した新生児を公園に遺棄…衝撃的な事件から物語が始まる


――初めに、この作品を描くことになったきっかけから教えてください。

やまもとりえさん:担当編集の方からこのテーマで描いてみませんかと企画をいただいたことがきっかけです。
ストーリーは、新生児を遺棄した女性が逮捕されるというシーンから始まります。特定の事件をモデルにしたわけではないのですが、編集の方と貧困について話をしていたとき「こういった事件をよく目にしますね」と教えていただき、似た事件の記事をいくつか読み、そこから広げて描かせてもらいました。

――このような社会問題をテーマにした漫画を描くにあたって、難しかったことはありますか?

やまもとりえさん:こうした作品を描くときはいつもそうですが、難しかったのは取り掛かるまでの気持ちの切り替えですね。描きはじめたらするすると描けました。なるべく淡々と、見聞きしたものを描くようなイメージで描きました。

「子どもの間にある格差」を描いた本作。実体験を織り込んだ部分も


『望まれて生まれてきたあなたへ』より

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

――子どもの頃のエピソードなどで、やまもとさんご自身の実体験が織り込まれている部分はありますか?

やまもとりえさん:友人と一緒にお絵描きしたり、公園で遊んだりはもちろんありますが、それ以外だと、のぞみとまどかの関係のように「いいなぁ」と言ったり言われたりは、自分も経験したことがあります。

――子どもにとってはどうしようもない「家庭環境」によって、どんどん格差が広がっていく構造がとてもリアルで恐ろしく感じました。
やまもとさんご自身は、本作のテーマである「子どもの間にある格差」について、印象に残っている出来事などはありますか?

やまもとりえさん:この本の「あとがき」にも書いているのですが、このお話を描いていたころ、小学生の頃の夢をみるようになりました。それで思い出したのですが、私の子どもの頃の経験では、勉強が得意だった同級生の子が進学しなかったことは印象に残っています。

もしも「気になる子ども」が周囲にいたら、私たちにできることは…


『望まれて生まれてきたあなたへ』より

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

――潔癖で教育熱心な母親に息苦しさを感じるまどかと、生まれたばかりの幼い妹の世話をするうちに学校に行かなくなったのぞみ。ふたりの母親は対照的に描かれていたように思います。やまもとさんご自身も母として、この2人に対してそれぞれ共感する部分、反発する部分などはありますか?

やまもとりえさん:まどかの母と、のぞみの母、どちらにも共感もしますし、どちらにも反発もしますね。どちらの母親もそれぞれに理由があっての言動や教育方針ではあると思いますが、子どもからしたら「知ったこっちゃない」という感じでしょうし。

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

『望まれて生まれてきたあなたへ』より

――中学生になると、家の手伝いをするためにほとんど学校に来なくなったのぞみ。もしものぞみのような「気になる子ども」が実際に周囲にいた場合、私たちにできることは?

やまもとりえさん:あくまで私の場合ですが、まずその子にとって「話をしやすいおばさん」でありたいというのと、「周りに内緒でその子のために動けるおばさん」でありたいなと思います。

***

フィクションでありながら、私たちにとってとても身近でリアルな出来事のようにも感じられる本作。子どもの頃を振り返ってみると、今はもう会うこともない「気になる友達」がいたことに気づき、思わずハッとさせられます。

取材・文=宇都宮薫

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