【解説】プライバシー権ってなに?
プライバシー権とは、自分の個人情報をコントロールする権利です。自分の名前や住所、家族、学歴や職歴、趣味などの「私的事項」について、勝手に公表されることが許されると、その人の尊厳が侵害され、安心して生活することができません。
守られるべき私的事項には「性的指向」「性自認」も含まれます。特に、性的マイノリティであることを勝手に公表すること、いわゆる「アウティング」は、プライバシー権の侵害であり、絶対に許されません。
メッセージアプリでの会話をスクショなどで勝手に第三者に公表することは、その人を傷つけるだけでなく、憲法第13条で保障されるプライバシーの侵害や、刑法の名誉毀損罪に該当する可能性があります。ただし、誰のメッセージなのかわからないように加工してある場合などは、違法にならない可能性が高いでしょう。
事例
【CASE】別れた彼女が自分への腹いせに、交際期間中のLINEのやり取りをSNSで晒しています。僕のアイコンは隠されていますが、友人たちは僕だとわかっているので、イジってきて困っています。こういうのって、なにか犯罪にならないんですか?
【ANSWER】
特定の人だけにわかるような晒し行為が犯罪になることはほぼないでしょう。民法上のプライバシー侵害にはなるでしょうが、民事訴訟で違法性が認定されるのかは場合によりけりです。
まずは元彼女にそのようなことをやめるようお願いし、それでもやめないなら弁護士から警告してもらうなどの措置をとりましょう。
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【CASE】趣味で子育て漫画を描いてSNSで発信していて、多くの支持をいただいています。子育て世代にウケそうな我が子のかわいいエピソードを描いていますが、時々顔写真も載せています。具体的な内容のほうがバズるので、今後は写真を増やしたり、失敗話も発信していこうかと考えていますが、問題はないですよね?
【ANSWER】
将来、子どもからプライバシー侵害で訴えられる可能性はあります。子どもが未成年者の間、親権者は、子どもを監護・養育する権利・義務があります。だからといってなにをしてもいい、ということではありません。仮に子どもが「いいよ」と言っていたとしても、まだ子どもですから、さまざまなことをよく考えてそのように言ったとはかぎりません。後々友だちにからかわれたり、「そんなことは知られたくなかった」と悩むかもしれません。子どもは親の所有物ではなく、一人の独立した人格ある人間です。親からすれば微笑ましいエピソードであっても、子どもが成長したら誰にも知られたくないことかもしれません。「SNSでバズりたいから」という理由で子どものプライバシーを侵害し、傷つけてしまうことのないよう注意が必要です。
著者:上谷さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。
※本記事は上谷さくら著の書籍『新おとめ六法』から一部抜粋・編集しました。
著=上谷さくら イラスト=Caho/『新おとめ六法』