車や自転車での事故◆あなたを守る法律
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
第5条 過失運転致死傷
自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
【解説】ますます罪が重くなる人身事故
車両などによって、人がけがをしたり死亡したりする事故を「人身事故」といいます。車両どうし、自転車どうし、車両と人など、さまざまなケースがありますが、死傷という結果の重大性と比べ、加害者が負う責任が軽いという側面があることから、刑事責任についてさまざまな法改正が行われています。
人を死傷させる事故には、加害者に「故意」のある場合と「過失」のある場合があります。故意のある場合は、「危険運転致死傷罪」、過失の場合は「過失運転致死傷罪」が適用されます。
また、近年、自転車の事故も問題となっています。自転車は道路交通法の「軽車両」ですが、危険運転致死傷罪、過失運転致死傷罪は適用されません。ただし、刑法の過失致死傷罪、業務上過失致死傷罪、重過失罪などに問われ、重い刑になることもありますので注意が必要です。
【ポイント】16歳以上が対象に導入される「青切符」とは
自転車で人を死傷させた場合、被害者に対する賠償責任は自動車事故と同じです。また、危険な自転車走行による重大な事故が増えていることから、信号無視や車道逆走、ながら運転など100種類以上の違反に対し、16歳以上を対象に、反則金納付で刑事罰を免れる「交通反則通告制度(青切符)」が導入される予定です。
事例
【CASE】スマホを見ながら車を運転して事故を起こしたら、危険運転の罪に問われる?
【ANSWER】
現行法では、「ながら運転」をして人身事故を起こしたら、必ず危険運転の罪に問われるわけではありません。
ただし、ながら運転による重大事故が社会問題化しているため、2019年に道路交通法が改正され、厳罰化されました。人を死傷させた場合は、過失運転致死傷罪が適用され、かなり重い罪となります。ながら運転は刑が重くなる傾向にあり、被害者が亡くなった場合、執行猶予がつくことはないと考えたほうがよいでしょう。
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【CASE】娘は学校まで自転車で通学しています。かなりのスピードを出しているようで、娘がケガをしたり、誰かをケガさせてしまったりするのではないかと心配です。それに、髪型を気にしてヘルメットをしないのですが、それでいいのでしょうか。
【ANSWER】
自転車は、法定速度が決まっていません。ただし、自転車は「軽車両」ですから、最高速度を示す道路標識がある場合は、それに従わなければなりません。また、ヘルメット着用は現在「努力義務」ですが、自転車事故でヘルメットを着用しない場合の致死率は着用時の2~3倍になるともいわれ、必ず着用することをおすすめします。
【ポイント】ルールを守らない大人の背中を見る子どもたちに対して
ながら運転や、飲酒・居眠りなどによる運転で、毎年多くの方が命を奪われたり、大ケガをしたりしています。歩行者が交通ルールを守っていても、そのようなドライバーがいるかぎり、被害を避けることは困難です。私は、子どもたちには「青信号でもすぐに渡ってはいけない」「大人がみんな正しいわけではない。お酒を飲んだり、携帯でゲームをしながら運転している人もいる。だから、運転手が歩行者に気づいているかどうか、運転手の目をよく見て」と教えています。残念なことですが、命を守るためにはやむを得ないと思います。
事例
【CASE】イヤホンで音楽を聞きながら自転車通勤しています。スピードを出しすぎたり、信号無視するような危険な運転はしないので、大丈夫ですよね?
【ANSWER】
イヤホンで音楽やラジオを聞きながら自転車に乗ることを直接禁止する法律はありません。しかし、2026年を目途に、イヤホンで周囲の音が聞えない程度の音量で自転車に乗ることを禁止し、違反した場合は5000円の反則金の対象となる道路交通法の改正作業が進んでいます。
【解説】電動キックボードに乗るときは......
2023年7月1日、特定小型原動機付自転車(いわゆる電動キックボード等)に関する道路交通法の規定が施行されました。
車両の間をすり抜けたり、歩道を高速で走ったりして、事故も後を絶ちません。電動キックボードは、運転免許が不要で、手軽で便利なものではありますが、利用方法によっては運転者も周囲の人も生命・身体の危険に晒されますので、さまざまな規制があります。
●自賠責保険への加入の義務
●ナンバープレート取り付けの義務
●運転は16歳以上の者のみ
●飲酒運転や2人乗りは禁止
●ヘルメット着用の努力義務
●車道を通行しなければならず、左側に寄って走行すること
その他、細かい規定があるので、警察庁のウェブサイトで確認しましょう。
【手続き】交通事故! のそのときは?
車や自転車で交通事故にあった場合、または事故を起こしてしまった場合は、110番通報しましょう。ケガをしている場合は、先に119番通報してください。
著者:上谷さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。
※本記事は上谷さくら著の書籍『新おとめ六法』から一部抜粋・編集しました。
著=上谷さくら イラスト=Caho/『新おとめ六法』