「本当の自分は動画投稿サイトの中」と信じる子どもを犯罪被害から守るために。『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』著者インタビュー

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

中高生の多くが自分専用のスマホを持つことが一般的になった昨今、親の知らないところでした動画投稿がもとで犯罪に巻き込まれるケースも少なくありません。

新作コミック『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』に登場する「その」も、メイクとコスプレをし、親に内緒で動画投稿をしている少女でした。しかし趣味の一つにすぎなかった動画投稿が、大変な事態を引き起こしてしまいます。

悪意ある大人たちから子どもを守るためにどうすればいいのか、作者のきむらさんに、お話を伺いました。

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あらすじ


『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

「その」は、中学2年生の女の子。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

昔から恥ずかしがり屋で、中学生のいまになっても授業で発言することさえ苦手な性格ですが、実は、動画投稿サイトにたびたび自分の動画をアップしてました。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

もちろん、周囲には内緒です。特に母親はもってのほか。
そのの母親は、ひとり娘をきちんとした大人にしなければ、という責任感から、そのに対し厳しく当たることが多かったからです。

そのの両親は、住んでいる家の1階にある居酒屋を夫婦で切り盛りしていました。そのため、居酒屋がオープンしている時間はそのは2階の部屋で一人で過ごすことが多く、母親の監視の目が届いていませんでした。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

そのの部屋の異変に気付いた母親は、居酒屋の客が見せてくれた動画を見て驚きます。そこには、そのによく似た少女が、濃いメイクと衣装をまとってダンスしているではありませんか!

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

そのの母は、そのを問い詰めますが、そのは決して認めようとしませんでした。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

そして、そのが秘密にしていたのは、動画のことだけではありませんでした。

ある日そのの母は、ママ友からの情報で、そのが塾帰りに変質者に追いかけられるという事件に遭遇していたことを知ります。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

しかしそのは、事件がバレると塾を辞めさせられるかもしれないと考え、あえて親には知らせなかったのです。友人たちがいる塾での心地よい時間を、親によって奪われたくない一心でした。

その後も、周囲にバレないように動画投稿を続けていたそのでしたが、ひょんなことからクラスメイトにその事実が明らかになってしまいました。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

動画のコメント欄には悪意ある書き込みがふくれ上がり、ショックを受けたそのは学校に行けなくなってしまいます。

学校に行ったと見せかけて公園で時間をつぶしていたことが母親に知れると、そのは自宅で激しい詰問をうけます。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

学校にも家にも居場所がなくなったその。その心の隙間を狙って、悪意ある大人が手を伸ばしていました……。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より


インタビュー


――おとなしい印象のそのですが、親に隠れてメイクをし、派手な衣装を身に着けて動画配信をしていました。動画配信の世界は、そのにとってリアルよりも自分が自分らしくいられる場所のようです。SNSがない時代に子どもから大人になった世代からみると想像もつきませんが、そのにとって動画配信はどんな存在だったのでしょうか?

きむらかずよさん:学校にも家にも居場所がない、自分が自分らしくいられる、自分だけの居場所、ですね。学校は自分らしくいられる場所ではない、家も、両親ともに忙しくて、日常の会話もままならない、動画配信の中の世界だけが唯一自由に自分を表現でき、それを認めてもらえる場所だったのだと思います。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

――夫婦で居酒屋を切り盛りするそのの母は、娘の動画配信について感づきつつも、そのに強く言い返されてそれ以上何も言えなくなってしまいます。また、娘が塾の帰りに変質者に追いかけられたことを知った際も、「塾を辞めたくない」と主張する娘に言い返せません。このときの母親の心境はどんなものだったと思われますか?

きむらかずよさん:今まで、そのは親に何も主張することなく、親の言われるがまま育ってきました。その娘が、初めて見せた自分の意思表示に、圧倒されたのだと思います。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

――現実では受け取れないほめ言葉がうれしくて、親やクラスの友達には内緒で動画配信の世界にのめりこむその。しかしそのことがバレてからは、学校にも行けなくなり、それに気づいた親にも叱られ、どこにも居場所がなくなってしまいました。このときのそのの心情はどんなものだったと思いますか?

きむらかずよさん:自分の存在そのものが、殺されたような気持ちだったと思います。

――そのも動画投稿がきっかけである加害者にターゲットとして狙われてしまいます。オンラインと現実世界でのトラブルが入り組んだ本作ですが、描くうえで難しかった点はありますか?

きむらかずよさん:親の視点からエピソードを表現することに難しさがありました。子どもの感情はシンプルですが、親は複雑な感情が入り混じるので、何度も軌道修正しました。書き直して、やり直して、それでも物語の着地点がなかなか見えず、何度も迷子になりました。

また、登場人物の女の子たちの心の傷が大きいだけに、ラストは細心の注意を払って描きました。

『娘がスマホで知らない男とやりとりしてました』より

   *     *     *

子どもの幸せを願わない親はいません。しかし子どものやりたいことをすることが、その子ども自身をリスクにさらす危険があるとき、親はどうすべきなのでしょうか。この作品を通して、考えてみませんか?

取材・文=山上由利子

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