『それぞれの孤独のグルメ』原作者・久住昌之さんが語る「ひとり飯」の面白さとは

輸入雑貨商を営む主人公・井之頭五郎(松重豊)がふらりと立ち寄った食事処で、食べたいものを自由に食す、至福の時間を描いたグルメドキュメンタリードラマ『孤独のグルメ』。その番外編として2024年12月から放送された『それぞれの孤独のグルメ』は、五郎だけじゃない様々な職業の人が登場し、それぞれの“ひとり飯”を軸にストーリーが展開するオムニバス形式のドラマです。そんな『それぞれの孤独のグルメ』のBlu-ray&DVD BOXが、2025年 4月23日(水)についに発売! 『孤独のグルメ』の原作者であり、作中の音楽を手掛けるミュージシャンでもある久住昌之さんに、ドラマについてたっぷりとお話を伺いました。
決してはしゃがず黙々と…。毎回異なるゲストが『孤独のグルメ』の世界観を表現

――ドラマ『それぞれの孤独のグルメ』について、まずは久住さんの感想からお聞かせください。
久住昌之さん:新しい試みがあるときはいつも心配になるんですけど、これまでの『孤独のグルメ』の世界観が崩れていないところがよかったですね。毎回登場するゲストの皆さんが、『孤独のグルメ』をよく理解してくださっていて、演技が「はしゃいでない」んですよ。
――はしゃいでないとは?
久住昌之さん:普通、一人で食事をする時に、「うんま〜い!」とか「なんて美味しいの!?」みたいなオーバーリアクションはしないでしょ? 食べ方を表現するのって難しいと思うけど、はしゃいだり頑張ったりしちゃうと、本来の『孤独のグルメ』とはどんどんかけ離れていってしまうんですよ。五郎みたいに「淡々と食べているけど美味しそう」というのが一番のポイントで、他のどのグルメ番組とも決定的に違うところ。現場で松重さんがしっかり監督してくれたおかげでもあります。

――『それぞれの孤独のグルメ』では、主演の松重豊さんが監督やキャスティングを務めていらっしゃいますね。
久住昌之さん:松重さんが主演・脚本・監督を務めた『劇映画 孤独のグルメ』の後だったので、その流れで今回も松重さんにお願いすることになりました。自分以外の人が『孤独のグルメ』を演じるところを客観的に見たかったのもあるんじゃないかな(笑)。
今回の企画を進めるにあたって、「食べるところがわざとらしくなるのが怖いな」と僕が言ったら、松重さんが「現場に僕がいますから。絶対大丈夫です」と言ってくださったので、安心してお任せすることができました。

――毎回異なるゲストが登場する『それぞれの孤独のグルメ』ですが、前シリーズまでと比較した時の見どころを教えてください。
久住昌之さん:毎回、五郎がどういうふうに出てくるかってところは見ものですよね。食堂で食べているとさりげなく奥のほうにいるとか、突然入ってくるとか、古本屋ですれ違うとか。いろんなパターンがあって、「おお、そう出たのか」みたいな楽しみがある。五郎が登場すると、なんか安心しちゃうよね。

――全12話の中で特にお気に入りのエピソードはありますか?
久住昌之さん:やっぱり自分が出演した回(第11話)ですね。吉祥寺のよく知ってる店ばっかり出てきてね。あの回は、漫画家の江口寿史さんが本人役で出演しているんですが、彼とは20代の頃からの知り合いなので、どうなることやら心配していたんです。後日、放送を見て、すごく自然な演技に感心していたら、江口さんが「いやいや、現場ではもっと色々言ってたのに、がっつりセリフ削られたんだよ〜!」ってぼやいていて(笑)。そんなエピソードも含めて面白かったです。
あとは、初回で町の中華屋を演じた太田光さん。連続ドラマの第1回って今後の流れを決定づける大切な回ですが、そこをしっかり自然体で渋く演じてくれたのがよかったです。強いていえば川に向かって石を投げるところだけがちょっとわざとらしかったかな(笑)。

孤独に食べるだけのシーンに仕掛けられた「ツッコミを入れたくなる余白」
――第3話で、板谷由夏さん演じる夜勤明けの看護師長が、一人で焼肉を豪快に頬張っている姿には惚れ惚れしました。女性が主役になる回というのはシリーズ初ですね。
久住昌之さん:女の人が一人で焼肉店に入るのって、勇気がいることもあると思うんですよ。でも、あの看護師長はそんなことを微塵も気にせずガツガツもりもり食べてくれたから、見ていて気持ちよかったです。『孤独のグルメ』の中でも焼肉が出てくる回は、特に人気が高いので、演じるのも難しかったんじゃないかな。

――『孤独のグルメ』シリーズは女性のファンも多いですよね。「一人で自由に好きなものを思いっきり食べている姿」を見ることが、ある種の癒しになっているようにも感じています。
久住昌之さん:この間、若い女の子に「孤独のグルメの人ですよね。サインしてもらえますか?」って声をかけられて、こんな若い子も見てるのか〜と思ったら、おばあちゃんにサインをあげたいそうで(笑)。なんでも、おばあちゃんちに行くと毎日『孤独のグルメ』が流れているらしいんです。
亡くなった谷村新司さんも『孤独のグルメ』の大ファンで、以前対談した時に、「最初に僕一人が見てた時は、家内が、男の人ってこういうの好きなのよねって冷ややかに言ってたのに、今では毎週夫婦で見ています。夫婦揃ってテレビ番組を楽しみに見ることは何十年ぶりです」とおっしゃっていましたね。

――本当に、老若男女みんなが楽しめるドラマですよね。ひたすら食べているシーンを見ていると、なんだかスポーツ観戦のように「よし行け!そうだそこだ!食べてしまえー!」みたいな気持ちになってくるんですよ(笑)。
久住昌之さん:テレビに対してツッコミを入れたくなるぐらいの余白を開けようっていうのは狙っていた部分だから、そうやって見てくれるのは嬉しいですね。実際、テレビ放送中にX(旧ツイッター)をみていると、いろんな人がいろんなツッコミをしていて実に面白いんです。
ハラベリハラベリ♪ ドラマを盛り上げるオリジナルサウンドトラック
――「The Screen Tones」の軽快な音楽もドラマを盛り上げる最高のスパイスになっていますね。

久住昌之さん:僕は今回、ストーリーの導入部とタイトルバックの音楽だけをガッツリ手掛けていて、あとの部分はギターの河野文彦君が中心になって作っています。『それぞれの孤独のグルメ』のDVDと同時に出るサウンドトラックCDは、河野さんのカラーが強いアルバムになっていて、ジャケットにはドラマに出てきた江口さんのイラストも使われています。そちらもぜひ楽しんでいただければと思います。
――タイトルバックの「ハラベリハラベリ♪」はすごくキャッチーでつい口ずさみたくなります。
久住昌之さん:『それぞれの孤独のグルメ』は、従来のシリーズと違って五郎以外の人が半分主人公になるストーリーですから、オリジナルの空気感とは若干異なるニュアンスを出したかったんです。松重さんは音楽にもすごくこだわりがあって、「今回はサックスじゃなくて、ビブラフォンみたいな音がいいな」とか、色々と提案してくれましたね。
わからないからこそ面白い。初めての飲食店に飛び込んでみるという冒険

――ドラマを見ていると、五郎さんが美味しいお店を発見した時の喜びが伝わってきて、自分も行ったことのない近所の飲食店に飛び込んでみたい気分になります。久住さんご自身は、初めて入るお店をチョイスする時、どういうところを見ていらっしゃいますか?
久住昌之さん:店選びには、あえてこだわりを持たないようにしてるんです。できるだけ自然体でいて、「あ、ここなんかありそうだな」って思うと、実際なんかあるんだよね(笑)。それが本当に面白い。だってネットで検索して店に入ると、事前に答えがわかってるじゃないですか。美味しそうな料理の写真を見ると、もう自動的にそれしか頼まないでしょう。だけど、何もわからない状態で行くと、「この店でいいのかな」とか、「何を頼んだらいいんだろう」って、一つ一つ「どう攻略すべきか」を考えるところから始まるんです。そういうところに、不安よりも面白みを感じますね。

――一つ一つどう攻略すべきか考える…。それってまさに五郎さんの頭の中そのもののようですね。
久住昌之さん:この間、和歌山県で入った食堂のメニューに「チャーハン(カレー)」って書いてあったんですよ。これはどういうことだろう…。カレーチャーハンっていうこと? いや、カレーピラフみたいなものかもしれないぞ。でも、それだったらそう書くだろうな…。そうやってああでもないこうでもないと考え抜いた末に頼んでみたら、お皿に盛られたチャーハンが見えないくらい、どっぷりカレーがかかった料理が出てきたの。カレーライスとしては脂っこく、チャーハンとしては味が濃いというなかなかのものでしたね(笑)。そういう店に行った時は、「あぁ当たりだな」と思います。
――その状況が「当たり」なんですね(笑)。そういう部分を楽しみたいからこそ、お店選びを型にはめてしまう「こだわり」はいらないと。
久住昌之さん:そうそう。だから『孤独のグルメ』に出てくる店も、古くて渋い店にこだわらず、色々なパターンでありたいんですよね。ドラマ制作陣には、「店のチョイスに新しい古いは関係ない。美味しいまずいも関係ないかもしれない」と伝えてあります。ただ、何もかもわかりやすく明示されているチェーン店よりは、個人店の方が「ほんのちょっとの引っかかり」が生まれやすいから、そういう店を選んでほしいっていうのはありますよね。

――お話を聞いていると、近所のお店を片っ端から新規開拓したくなってきます。
久住昌之さん:すぐ近所にあるけど一度も入ったことがない店って意外とたくさんあるもので。ここはさすがに常連しか入らない怪しいスナックだろうと思っていたのに、入ってみたらすごくいい店だったっていう経験は僕にもあります。そんなとき、まだまだ修行が足りないなと思いますね(笑)。
原作の世界観を大切に。『孤独のグルメ』シリーズが長く愛される理由

――『孤独のグルメ』シリーズが長く愛されている理由はどこにあると思われますか?
久住昌之さん:主演の松重さんの良さはもちろん、とにかく丁寧に作っているところだと思います。原作の漫画を描かれた谷口ジローさんが亡くなる前に、「僕の描いた漫画を何回も何回も繰り返し読んでほしい。それだけがたった一つの望みです」とおっしゃっていたんです。谷口さんの作画を改めて見ると、風景にしても、食べ物にしても、人物にしても、読む側としては一瞬で通り過ぎてしまうような何気ない一コマでも、ものすごく丁寧に緻密に表現されているんですよね。その丁寧さゆえに、何度でも繰り返し読みたくなるんです。
それはドラマ作りでも同じで、丁寧に作っているからこそただ食べるだけのストーリーを飽きずに何度も見続けられるんじゃないでしょうか。僕はドラマが始まる一番最初に、谷口さんの絵の世界観は失わないでほしいと製作陣に伝えていて、そこはすごく意識して演出してくれていると感じています。松重さんが食べるシーンを撮影するだけで5時間くらいかかることもありますからね。丁寧に作ってくださるスタッフの皆様には感謝しています。
雑誌『レタスクラブ』から久住さんが選ぶ気になるレシピは?
――それではここで、雑誌『レタスクラブ』から久住さんが気になるレシピを教えていただけますか?

久住昌之さん:わぁ。どれも美味しそうだね。この「手羽元と白菜の蒸し煮」なんか100%美味しいよね。帰ってからでもすぐ作れるっていう手軽さにも惹かれます。

久住昌之さん:「1週間お弁当生活」っていうのも面白いね。お弁当を1週間分も考えるのって本当に大変だと思います。
僕、弁当が大好きだったんですよ。前日の残りのさつまいもの天ぷらを煮たのと、白いご飯と梅干しみたいな「地味弁」だったりすると、よーし、じゃあこの梅干しをうまく利用しながら変化をつけて食べやろうとかね。そんなことを楽しんでいたのを思い出しますね。
――最後に、ファンのみなさんへのメッセージをお願いします。

久住昌之さん:13年前に、テレビ番組表深夜帯の一番隅っこでひっそりと始まったドラマがこんなに長く続くシリーズになるとは思いもしませんでした。丁寧に作ったものが長いこと愛されるのは嬉しいものです。いつも見てくださって、本当にありがとうございます。それに尽きますね。
***

始終朗らかに、ドラマの魅力や食べることの楽しさを語ってくださった久住昌之さん。飲食店を「どう攻略するか」悩む様子はまるで五郎さんそのもののようで、もっと気軽に「ひとり飯」を楽しんでみたくなりました。
『孤独のグルメ』の世界が新たな形で広がった『それぞれの孤独のグルメ』。Blu-ray&DVD BOXは、2025年 4月23日(水)に発売されます。一人ひとりの食事に込められた物語をじっくり堪能してくださいね。
(C) 2024 久住昌之・谷口ジロー・fusosha/テレビ東京
取材・文=宇都宮薫、撮影=奥西淳二
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